第15話 前兆
視点 ユキト
ユキト「氷魔法 アイスリングショット!」
大きな氷の輪っかを飛ばす。オークロードはすぐさま俺の方を見ていた。
シュート「炎魔法 ブラストフレイムエッジ!」
その隙をついてシュートが魔法を放った。誰かが魔法を放って時間を稼ぎ、別の人が魔法を放って視線をそちらに向ける。
ドゴーン!
シュート「っ!?」
ライキ「シュート!」
炎の斬撃を、オークロードが棍棒で振り下ろして打ち消してしまった。その風圧でシュートが吹き飛ばされそうになったが、すぐさまライキが庇った。
シュート「あ、ありがとうライキ…!」
ライキ「気にするな、それより油断するなよ」
分かってはいるがオークロードが強すぎる。攻撃は効かない、魔法もあまり効かない、さらには防御力が高すぎる。明らかに実力が足りてなさすぎる。アストを一瞬見るが、まだ集中して魔力を貯めている。
ユキト(まだ時間を稼がねぇと…!)
幸いなことに相手はスピードがないため、距離自体はすぐに取れるし、攻撃はなんとか避けられる。
「ブオオォッ!」
ユキト「うっ!?」
オークロードが思いっきり地面を叩いて地震を起こしてくる。激しい揺れに体を支えるだけでも精一杯だ。俺は焦ってアストの方を見た。
アスト「…」
少しふらついていたが、まだ目を瞑って魔力を高めている。この地震にも動揺しないなんてすごい集中力だ。
アトラ「行くぞジル」
ジル「分かってる」
2人がすぐさま体制を整えて武器を構えて走り出していた。それを見て棍棒を振り下ろしたオークロードだが…。
アトラ「もう見切った」
アトラが咄嗟に飛んで大きな棍棒に手をついて着地し、さらにそのまま飛んでオークロードの顔まで近づいていた。
アトラ「…もらった」
そう呟くと、アトラはダガーをオークロードの目元に向かって降った。ザシュッという音と共に血が飛び散る。
「…!」
咄嗟に目を閉じたオークロードは、棍棒から手を離し両目を覆っている。
ジル「おらぁ!」
さらに足下にいたジルが大きな斧を振った。斧は足に食い込んでいた。
ジル「ちっ…やっぱり無理か」
ジルはすぐさま斧を抜き、距離を取る。するとオークロードが膝をついた。
シュート「…すごい!」
ユキト(あいつ…あの分厚い肉に食い込んだ斧を自力で抜いたぞ…どんな馬鹿力だ?)
アトラ「視界は奪った、時間はこれで十分に稼げるはずだ」
ジル「暴れるかもしれねぇから油断すんなよ」
その言葉に俺たちは頷き、オークロードを観察する。しかし、慌てる様子もなければ、暴れるような様子もない。咆哮もださないし、何やら落ち着いている。
ユキト(なんだ…?この違和感は…)
少なくとも、目を潰されて足を攻撃までされて、落ち着けるわけがない。痛みだってあるはずなのに、どうしてかすごく冷静だ。何か不気味な感じがする。
すると、オークロードは静かに立ち上がった。
ライキ「まだ立つか…!」
シュート「いや…でももう棍棒からは手を離してます!さっきと比べたらこっちが有利です!」
シュートの言う通りだ。俺たちがかなり有利なはず。なのに、状況的にはそのはずなのに、何故か有利な感じがしない。
ユキト(この胸のざわめきはなんなんだ…?)
その時だった。ゾワッと背後からすごい圧を感じた。ただ、モンスターたちの感じるあの邪悪な感じではなかった。
アスト「…やっと、できた」
後ろを振り向くと、アストがものすごい水色の魔力の波動を出している。とても冷たい冷気だ。今まで感じたことのないほど、背筋がゾワゾワしている。
シュート「ア、アストさん…!」
アスト「ごめん、時間を稼いでくれてありがとう」
「…!」
オークロードが、体をぴくっと動かした。どうやら、この魔力の圧に驚いているようだ。
ジル「ずいぶん時間かかったな…!」
ジルの顔に汗が垂れているのが見えた。だが、その顔は笑っていた。俺も同じ気持ちだ。明らかにすごいものを見て、心のどこかで興奮している自分がいる。
アトラ「これが…アストの…本気…!」
ユキト「す、すげぇ…こんな魔力量は…初めて見た…!」
ライキ「…準備は良いみたいだなアスト」
アスト「うん、もう大丈夫。後は…僕に任せて」
それが聞こえた瞬間、オークロードが拳を振り上げていた。どうやら、拳で地震を起こす気なようだ。
ユキト(まずい!?まさか魔力を乱すつもりか!?)
今のアストはあの魔力を維持するために相当な集中力を使っているはずだ。それが乱されたら、最悪暴走しかけない。俺は咄嗟に大剣を構えようとした。
アスト「もう遅いよ。宝石魔法 クリアライト・バレット改!」
あたり一体に、大量の宝石が宙を舞う。いつものアストの3倍…いや5倍近くの宝石の量だ。それが、一斉にオークロードに向かって飛んでいった。
「!?」
その瞬間、振り上げていた拳、足、腹部、頭、腕とどんどん宝石が当たっていく。俺の氷魔法とは強さが桁違いだ。
あっという間に、一瞬で、オークロードが氷漬けにされた。透明でキレイな氷の内側にいるオークロードは、まるで氷像のようだった。
アスト「ふぅ…なんとか…なった…」
アストから感じていた魔力の圧がなくなる。それと同時にアストがその場に座り込んだ。
ユキト「アスト!」
俺はいてもたってもいられず、アストに向かって走り出した。
ユキト「大丈夫か?」
アスト「うん…ちょっと気が抜けちゃって…」
ユキト「そうか…」
アスト「…?どうしたの?」
アストが心配そうな顔で俺を見ている。でも、今の俺は自分の気持ちを抑えられなかった。自分でも、肩が震えているのが分かる。
ユキト「…すっごいな!」
アスト「…え?」
気づけばつい叫んでしまった。でも俺にとっては本当にすごかった。勝てないと思っていたあのオークロードを、アストは完全に無力化したのだ。自分でもすごい瞬間を見てしまったと思い、つい気持ちが上がってしまっている。
ユキト「まさか…本当に無力化するなんて思わなかったからさ…!ホントに…ホントにすごいなアスト!」
アスト「い、いや…僕もここまで上手くいくなんて思わなかったし…」
シュート「そんなことないですよアストさん!俺も…すごいビックリしましたよ!」
ライキ「…やるじゃんかアスト!」
アスト「あ、ありがとう…」
シュートとライキも駆け寄り、ライキはアストの方を叩いた。そんな2人にアストは少し照れている。
アトラ「…アストさん!」
アスト「わっ!」
ダガーをしまったアトラがアストに飛びついた。もうあの冷徹な感じはない。
アトラ「ホントにビックリしたっす!ここまでなんて…正直思わなかったっす!あんな力隠してたんすね!」
ジル「…見直したぜ、やるじゃねぇかアスト」
アスト「…そ、そうかな…でもみんなが時間を稼いでくれたおかげだよ」
ユキト「謙遜すんなって!間違いなくアストがいなかったらこんなことはできなかったんだ。誇れよ!」
俺はそう言ってちょっとだけ強く背中を叩いた。
アスト「…うん!ありがとうユキト」
アストが微笑んでくれたので、俺もつい微笑み返していた。その微笑んでくれたアスト顔が、ちょっとだけ頭から離れなかった。
シュート「そう言えば…あのオークロードはどうします?」
シュートが氷漬けのオークロードを見る。動かないオークロードだが、それでもその巨体のせいで動かなくても怖さがある。
ジル「…とりあえずはギルドの奴らを待ってた方が良いだろうな」
ユキト「もうすぐでこっちに着くはずだ。俺たちはここで見張ってた方が良いと思う」
アトラ「そうっすね。流石にアストさんの魔法なんで…溶けたりはしないと思うっすけど、残っていた方が良さそうっす」
アスト「じゃあ僕が溶けてもまた凍らせられるように準備しておくよ」
ライキ「大丈夫か?あんな大きな魔法…魔力をかなり使っただろ?」
アスト「うん、でも全然魔力は残ってるよ。これでも魔法はちゃんと鍛えてるんだ。もう一発ぐらい打てるよ」
ジル「…確かに、魔力を大幅に使った後に見られる汗とか息切れがないな…お前魔力量すごいんだな」
言われてみれば、確かにアストにはその感じが見られない。魔法を撃つたびに魔力量の消費量で体力が削られるのだが、体力の少ないはずのアストはまだまだ余裕そうな感じがする。俺でも魔法を撃ちすぎると体力切れが起きかけるのに。
ライキ「…それでも少しは休憩をとった方が良い。俺たちが周りを見ておくから、アストは休んでてくれ」
アスト「えっ…でも…」
アトラ「いいんすよ、それに万が一またオークロードが暴れ始めたらアストさんしか止められないんすから。ここは俺たちに任せて休んで欲しいっす」
アスト「…うん、分かった。じゃあみんなに任せるよ」
ユキト「おう、任せてくれ」
ジル「俺とアトラはこの周りを全体的に見て回る。ユキトたちは3方向に別れて敵がいないか見ていてくれ。アストから離れすぎるなよ」
ライキ「分かった」
シュート「分かりました!」
アトラ「よろしくっす!」
アスト「じゃあ…僕はちょっと離れて安全な場所に身を隠しておくよ」
アトラ「そうっすね、アストさん立てるっすか?」
アスト「うん、ありがとうアトラ」
ユキト「よし、それじゃあ早速別れるか」
その時だった。それぞれが歩き始めようとした時、少し地面が揺れる感覚があった。それと同時に、背後からまたもやすごい大きな気配と圧…。
ユキト(…!?)
咄嗟に後ろを振り返る。そこにいたのは、氷漬けにされているオークロードだ。
ピキッ…!
氷にヒビが入っている。ありえない、アストの氷の魔法を、砕けるわけがない。その時だった。氷の中で、オークロードの目が開かれた。ギロッとこちらを見ている。
まずいと感じた時には、もう遅かった。
パリーーン!!
大きな氷が弾け、あたりに散らばる。オークロードは、こちらを見てニヤッと笑っていた。そこで俺は気づいてしまった。今まで感じていた違和感、おそらく正体はこれ…俺たちはずっとあいつに弄ばれていた…。おそらく、オークロードにとっては、予想内のことしかなかったのだ。だから、目を潰されても足を切られても、氷漬けにされても冷静な感じだった。
おかしな話だったのだ。俺たちのランクはまだDランク。対する相手はBランク…それが、対等に戦えていることに、違和感を感じるべきだったんだ。
視点 アトラ
アトラ(まずい…!まずいまずい…!?)
いつにもなく俺は慌ててしまう。おかしい、さっき俺はダガーで目を潰したはずだ。両手で覆ってまで痛めてたのに、今はもう普通に目を開けている。しかも、アストさんの氷魔法を壊すのが予想以上に早すぎる。
アトラ(ホントにコイツには魔法が効かないんすか…!?)
今はまだ何も対抗する手段がない。さらに、いま近いのは俺とアストさんだ。今から離れようとしていたのに最悪だ。さらにユキトさんたちとは少し距離がある。せめて、せめてアストさんだけでも遠くに行かせないと。
俺はすぐにダガーを構えていた。
アトラ「逃げろアスト!」
アスト「アトラ!?」
狙いを自分に向けるために、俺は攻撃を仕掛ける。ザシュッと腕を切る。
「ブモォォ!!」
アトラ「なっ…傷が!?」
切りつけた傷が一瞬で回復した。先ほどにはない回復力がある。
アトラ(まさか、ここまで本当の実力を隠していたのか…!?)
この回復力で、目の傷を回復したかもしれない。それでも、回復魔法でもないのに、自己治癒で目を回復なんて見たことない。
ユキト「よけろアトラぁ!!」
ユキトが叫んだが、すでにオークロードの腕が目の前にまで迫っていた。
アトラ「しまっ…!?」
ドガッ!!
鈍い音と共に、俺は吹き飛ばされてしまった。受け身を咄嗟に取ったが、腕がぶつかった瞬間、一瞬で意識がふらついた。痛い。それだけのことじゃない。腕が痺れてる、体の内側まで衝撃がくる。そのせいで、身体が内側から痛い。この痛みは間違いなく骨も折れてる。しかも、頭から何か垂れてきている。俺の身体は大きな木にぶつかっていた。そのせいで頭から血が流れてきていた。幸いなことに致命傷にはなっていない。
アトラ「うっ…がぁっ…」
アスト「アトラ!!」
アトラ「だ、ダメ…っす…にげ…」
声がうまく出ない。アストさんが駆け寄ってくるのが見える。
来ないで、また俺のせいで誰かが犠牲になる。そんなのもう嫌なんだ。お願いだから、来ないで。俺なんてどうでも良いから。弱い俺が悪いんだから。
アトラ(お願いだから…俺を…見捨てて…)
オークロードが拾った棍棒を振り上げている。だが、俺の願いは届かず、間にアストさんが入っていた。
アトラ「あ…すと…さん」
アスト「絶対に守るから…!宝石よ!集まれ!」
アストさんの目の前に、大きな宝石が現れる。まるで巨大な盾のようだ。オークロードが思いっきり振り下ろし、宝石と棍棒がぶつかり合う。
ユキト「ぐっ!?」
シュート「な、なんて強風…!?」
ライキ「前に…進めない…!」
ジル「ちぃっ…!!」
4人もどうにかこちらに来ようとしていたが、ぶつかった衝撃と風が、4人の足を止めてしまった。
アスト「うぅ…!」
ピキッ…ピキキッ…!
ちょっとずつ亀裂が大きくなっている。もう数秒も持たないだろう。ユキトさんたちも間に合わない、俺も動けない…この状況を…なんとかできる方法が…ない…。
アストさんが頑張ってるのに、俺は何もできない。こういう時に限っていつもそうだ。どれだけ冷徹になろうが、それは態度だけが強くなってるだけ、俺自身は何も強くなってないんだ。
アトラ(ごめん…なさい…俺が…強ければ…)
◇◇◇
「アトラ、魔法は好きかな?」
「もちろん好きっすよ!でもどうしてっすか?」
「なら教えてあげるよ、魔法使いはね、本当に諦めないという強い気持ちを持つ人ほど、強い力を発揮するんだ。だから、簡単に諦めたらダメだよ。諦めなければ、魔法が応えてくれる」
「そうなんすね!分かったっす!」
「…はは、本当かな」
◇◇◇
アスト「負けるかぁぁぁっ!!!」
ちょっとだけ思い出した昔のこと。久しぶりに姿を思い出したかもしれない。どうして、今あの人を思い出したんだろう。アストさんを見ていると、あの人と姿を重ねてしまう。
パリーーーン!!
何かが崩壊した音があたりに響いた。俺はゆっくり顔を上げた。目の前には、仰向けに倒れようとしているアストさんがいる。
アトラ(アスト…さん…!)
その時だった。
アトラ(えっ…?)
アストさんの目の前にあった崩れた宝石たちが、急に辺りを明るく照らした。一瞬だった。色とりどりの七色の光が、その場にいた全員を包む。だけどその光の中で、アトラはシルエットを見た。大きな竜の翼と角、思わずその姿を見て言葉をこぼしていた。
アトラ「アレオ…さん…?」
シルエットの人物が振り返ったような気がした。しかし、その人物の顔を見ようとする前にアトラは気絶してしまった。
視点 ユキト
突然の光につい眼を閉じてしまった。急いで辺りの気配を探す。視界が奪われているのと同じ状態だから、頼れるのは他の五感と感知力だけだ。
ユキト「くそっ…どうなった?」
アストの宝石が破られたのは見えた。まずいとは思ったが、その瞬間急に眩しい光が辺りを包んだ。だから、何があったのか全く分からない。ちょっとずつ光が収まってきて、ゆっくり目を開けた。
ユキト「…は?」
シュート「こ、これ…」
ライキ「何が…起きたんだ?」
ジル「…マジかよ」
俺たちの目の前にはありえない光景が広がっていた。アストとアトラは気絶しているのか倒れている。もちろん2人の容体が気になったが、どうしても無視できないものがあった。
ユキト「オークロードが…宝石になってる…!」
目の前にいるオークロードが…大きな宝石のようになっていた。先ほどまでの氷漬けとは訳が違う。オークロードの身体から、宝石に変化しているのだ。何かやったとするならアストだが…アストがこんな宝石魔法を使えるなんて知らない。そもそも、これができるなら最初からやっているはずだ。
ユキト(今の一瞬で…何が起きたんだ?)
そう考えていた時、宝石からまたヒビが入る音が聞こえた。
ユキト「っ!?まさかまた…!」
俺は構えたが、その行動はすぐ無意味になった。パリーーン!!という音と共に、オークロードも、身体ごと崩壊したのだ。
ユキト「…は?」
俺たちはただ見ているだけだった。すると、オークロードだった宝石は、キラッと光ると、光の粒みたいになり、キラキラ輝きながら消滅してしまった。森には静寂と、俺たち6人だけ。先ほどまでそこにいたあの大きな怪物は、まるで元からいなかったかのように、姿が消えてしまった。




