第14話 想定外
アスト「ユキト!上に飛んで!」
ユキト「おう!」
僕の声にユキトは翼を使って大きく飛んだ。
アスト「宝石魔法 アクア・フロー!!」
僕の魔法でゴブリンを激流で流した。その先には、切り立っている崖があり、全員が一か所に固まる。
ユキト「どりゃあぁっ!!」
ユキトが大剣を持ち、空から落ちてきた。
ドゴオォン!
大きな衝撃波がこちらにも届いてきた。さすがユキト、破壊力が僕たちとは全然違う。
ユキト「まだまだぁ!!」
さらに力強く剣を薙ぎ払い、あっという間にまとめたゴブリンを一掃してしまった。
アスト「…よし!さすがユキト!」
ユキト「へへっ!いい連携だったんじゃないか?」
アスト「だね!」
ライキ「アスト!ユキト!こっちも頼む!」
アスト「うん!」
近くに大きな岩の壁があって助かった。同じ崖ではあるが、落とす以外にも崖には使い道がある。こういった場面では生き抜くために知恵が試される。僕はそういった知恵はまだまだだけど、足りないならみんなで補う。1人では無理でもみんなとなら乗り越えられる…これが大切なことなのだろう。
シュート「炎魔法 バースト・フレイム!」
遠くの方でシュートが炎を出している。
ライキ「雷魔法 エレクティル・ドライブ!」
炎はゴブリンを包んだ。広範囲に広がった炎のおかげで、ゴブリンからは周囲が見えない状態だ。そこを、炎が消えた瞬間にライキが切り付ける。
アトラ「金魔法 ゴールド・スラッシュ!」
ジル「天候魔法 レイン・スピア!」
アトラが二つのダガーで敵を斬りつける。斬った場所が金に変わり、動けなくなる。そこに、槍の形をした雨がゴブリンに降り注ぐ。2人も、魔法の技術力がかなり高い。おかげでそっちも安心して任せられる。
アスト「この調子なら…行ける!」
ユキト「おう!このまま押し返そうぜ!」
順調にゴブリンの数は減らせていた。と言っても数が多いのは変わりない。倒しても倒しても、どんどん次のやつがどこからかでてくる。
アスト「ユキト!右に3体!」
ユキト「おう!」
目視するまで気配を感じ取れないという仮説が正しければ、今は自分の目が頼りだ。特に周りを見る状況判断も重要。誰かが攻撃に行くと周りが見えなくなる。だからその分の目を別の人が補う。それができるのは、主に遠距離で戦う僕だ。僕はまだ近接での戦いが苦手だから、こうやってみんなの状況を見て指示を出す。
アスト「シュート!左から1体忍び寄ってる!アトラくんは後ろに気をつけて!」
シュート「はい!」
アトラ「…分かった!」
もちろん僕だけでは追いつかないので、たまにシュートやライキが余裕のある時に周りを見ている。ユキトとアトラくんとジルは本能的に分かるのか、たまに目視しなくても敵の位置を理解している。
ユキト「っと…だいぶ減ってきたな!」
ユキトが僕の近くに寄ってきた。離れすぎると僕を守れないため、いつも僕の見えるところで戦ってくれている。
アスト「…何でユキトは僕が指示しなくてもゴブリンの位置が分かるの?」
ユキト「ん?」
アスト「だって…さっき背後にいたゴブリン、目視してないのに急に後ろを向いて剣で薙ぎ払って倒したよね?しかも、まるで分かってたかのような動きじゃなかった?」
ユキト「あぁ…何というか、嫌な予感がするんだよな。確かに気配はないけど、こう…ビビッとくるんだ」
アスト「び…ビビッと?」
ユキト「背筋に何か来るんだよ。寒気というかなんというか…そんな感じなのが」
アスト「わ、分からない…」
ユキト「はは…まぁ後は…音だな。さっきのやつは草むらから飛び出した音がしたし、気配がなくても何かいるって分かるんだよ」
アスト「あっ…なるほど、それは分かりやすかった!僕も周りの音を聞いてみようかな」
ユキト「と言っても集中力も必要なことだから、やるにしても油断するなよ。俺だって常にここにいれるかは分からないんだ」
アスト「分かった、気をつけるよ。でも実際にやって見たいから、周り見てもらっても良い?」
ユキト「おう、任せてくれ」
僕は少しだけ、周りを見ながら音にも注意を向ける。確かに、いろんな方向から音が聞こえる。ユキトたちみんなの居場所は分かる。つまり、そこ以外の場所から音が聞こえれば、そこに敵がいる。
アスト(これなら…もう少し戦いやすくなる!)
僕は、さらに音を集中して聞いた。みんなが戦う音。ゴブリンたちの足音。いろんな音が聞こえる。遠くからはまだファリルさんとオークロードが戦っているのか、大きな音も聞こえる。
…ドスン
アスト「…ん?」
僕はもう一度音を聞いた。
…ドスン
アスト「あれ…?この音は…?」
ユキト「どうした?」
アスト「えっと…みんなが戦ってる音の中に何か違和感のある音が聞こえる…」
僕が言うと、ユキトも耳をすませた。
…ドスン
ユキト「…確かに、何か聞こえるな。これは、足音…」
そこまで言ってユキトの表情が変わった。
ユキト(…いや待て、この辺りは今みんなが戦ってるから、大きな音で溢れてる。それなのに…足音が聞こえる…?)
アスト「どうしたのユキト?」
ユキト「ま、まさか…」
ユキトは音の方向を見ていた。それは、アトラが一度塞いでいた洞窟。そこから音が響いている。気配は…ない。でも、足音があるということはそこに何かいる。
ユキト「…は?」
アスト「…え?」
洞窟の奥を見ていると、暗闇から少しずつ足音の正体が現れた。とてつもなくデカいオーク。そして、黒い姿。さっきも感じた、あの嫌な気配が、見た瞬間にひしひしと感じ始めた。それは他のみんなも気づいたようだ。
アスト「オ、オーク…ロード!?」
シュート「な、なんで…今ファリルさんが戦っているはずじゃ…!?」
遠くから焦った声を出しているシュートが聞こえる。他の3人も、姿を見て驚いている顔が見えた。
アスト「…違う、今こいつの気配を感じれるようになった…それに、まだファリルさんとオークロードの気配は感じてる…!」
ユキト「…まさか…こいつ…2体目か…!?」
完全にやらかした。どうしてそこの可能性がよぎらなかったのか…。オークロードはずっと1体しかいないと考えていた。複数体の可能性…もっといろいろ考えるべきだった。
アスト(ダメだ…!こうなると話は変わってくる!)
オークロードは本気のファリルさんでようやく戦えている。そんな相手に、今の僕たちでは相手にもならない。ここは、やはり撤退するべきだ。僕は…みんなを守る義務がある。判断は間違えられない。
アスト(…ダメだ、まだ村の避難が完了したか分からない!完了してたらこっちにもギルドの人が来るはず…!ということは、まだ時間がいるはず…!)
ユキト「…どうする、アスト」
アスト「ギリギリまで…時間稼ぎ。ギルドの人が来るまで耐えよう」
ユキト「あぁ…!分かった!」
シュート「アストさん!ユキトさん!」
すると、後ろから4人が走ってきていた。
アスト「みんな…!」
シュート「俺たちの方もあらかた片付きました。俺も…手伝います!」
ライキ「6人ならそれなりに戦えるはずだ、やろう」
アトラ「…ゴブリン全員を倒せたかは知らないが、ギルドがフォローしてくれるだろ。俺たちはこいつをどうにかするぞ」
ジル「余計なことはするなよ。危険になったらすぐ撤退だ」
全員が武器を構える。僕も魔力を集めるように集中した。オークロードは睨みつけるような目で僕たちを見ていた。
「ブモォォォ!!」
アスト「うっ…!?」
大きな怒号が響く。それだけで体が吹き飛ばされそうになった。
ユキト「っ!くるぞ!」
顔を上げると、オークロードが既に巨大な棍棒を振り上げていた。
アスト「宝石魔法 クリオライト・バレット!」
棍棒と腕に魔法を放つ。みるみるうちに氷漬けになり、勢いが止まった。その隙に全員が距離をとる。しかし、数秒もしないうちに氷は割られてしまった。
ドゴーン!
棍棒が地面にぶつかる。勢いは落としたはずなのに、それでも巨大な穴が空いている。
アスト(こんなの喰らったら…)
死の危険を感じ、足が一瞬すくみかけた。だけど、しっかりと足を地面につけ、力を入れる。
ライキ「雷魔法 クラッシュ・ボルト!」
オークロードに雷が直撃する。しかし、雷をくらったにもかかわらず、全くダメージを受けていないようだった。お構いなしにどんどんこちらに歩いてきている。
ライキ「俺の雷魔法…全く効いていないのか?」
ジル「おい、お前ら2人は戦ったことがあるんだろ!何か情報はないのか?」
横にいたジルが、少し焦った声で僕とユキトに聞いてきた。
アスト「僕たちが戦った時は…確かに魔法は効いてなかったかも…」
ユキト「そして見てわかる通り、一撃の力がとんでもなく強い。だがその分移動スピードは遅いってところだな」
アスト「あとは…喉元が弱点だよ。剣か何かで貫けば…倒せると思う。ただ肉が凄い厚くて丈夫なんだ。ちょっとやそっとの力じゃ…倒せないと思う」
ユキト「それに…俺たちが戦ったのは普通のオークだ。だから、もしかしたらまだ知らない情報もあるかも知れない」
ジル「そもそも、あいつには再生能力があるんだろ?」
シュート「その再生能力よりも高い攻撃力かつ…喉を貫けるほどの破壊力をもつ攻撃…そんなの、誰も出せないですよね…?」
ライキ「…ユキトは…厳しいか」
ユキト「…あぁ、悔しいけど、今の俺じゃまだ攻撃力が足りない」
そう言ってユキトは歯をギリリと噛み締めた。
ジル「もう考えてる暇はない!全員で遠距離で攻める、それで行くぞ!」
ジルの言うことは最もだった。もう近いところまでオークロードが迫っている。
アスト「ま、待ってジルくん!」
ただ、あのオークロードに他の力があるとまずい。だから、何とか作戦も立てておいた方が良い。
アスト「みんな、ちょっとお願いがあるんだけど…」
ユキト「なんだ?」
全員が僕の方を見た。
アスト「ちょっとだけ、僕に攻撃がいかないように時間を稼いでくれないかな?」
シュート「何をするんですか?」
アスト「僕が魔力を貯めて、あいつをクリアライト・バレットで完全に凍らせる」
全員が驚いたように息を呑んだ。
ライキ「そんなこと…できるのか?」
アスト「かなり魔力を貯める必要があるけどね。ただ、その間僕は無防備になるし、確実に当てないといけないから、あまり距離も取れない。だから、みんなにちょっとだけオークロードが僕に意識が来ないようにもして欲しい」
ジル「…はっ、ずいぶん注文が多いもんだな」
アスト「そ、それは………ごめん…」
ジル「…いいぜ、やってみろよ。その代わり、絶対失敗すんじゃねぇぞ」
そう言ってジルくんは斧を構えた。その横で、アトラもダガーを構え直していた。
アトラ「やれるだけはやってやる」
アスト「2人とも…!」
ライキ「…頼んだぞリーダー」
シュート「絶対にアストさんには攻撃させませんよ!」
ユキト「…よっしゃ、やってやるか!」
5人が僕の前に立っていた。すごく頼もしい背中だ。僕も失敗するわけにはいかない。
アスト(絶対に成功させる…!みんなで…一緒に帰るんだ!)
自分の魔法を信じろ。こんな状況になった時に、これまで鍛え続けてきたんだろ。だから、絶対成功させろ。
アスト(この一撃で…決める!)
意識を集中させ、魔力を集める。そして、オークロードに照準を合わせた。




