おまけエピソード 猫になったリーダー (第4話)
視点 ユキト
ユキト「んっ…」
俺は目を覚ました。どうやら寝てしまっていたようだ。よく見ると、勉強机にいたシュートも、腕を枕にして寝てるし、ライキもソファで横になって寝ていた。
ユキト「…ふわ…寝てたのか…んっ…?アスト?」
横を見ると、寝ていたはずのアストがいない。部屋を見渡すと、アストがどこにもいない。
ユキト「…あれ!?アストどこ行った!?」
シュート「ふわぁ…どうしたんですかユキトさん…」
ユキト「な、なぁ!アストがどこにもいないんだ!」
シュート「そうですか…アストさんが…いない………アストさんがいない!?」
シュートも急いで飛び起きた。
ライキ「んん…」
シュート「ライキ起きて!!アストさんがいない!!」
ライキ「…は?」
シュートの声でライキも目を覚ます。3人で部屋を見て回るが、アストはどこにもいない。
ユキト「ど、どこいった!?」
シュート「アストさーん!」
ライキ「…おい、窓が開いてるぞ」
ユキト「えっ!?」
ライキに言われて見ると、確かに寝る前は閉まっていた窓が開いている。アストの大きさなら全然出られるくらいの広さだ。
ユキト「まさか…外に行ったのか!?」
アスト「みゃ〜っ……」
ライキ「待て…外からアストの声が…」
耳をすませると、確かに聞いたことのある声が聞こえる。
アスト「みゃ〜っ…!」
すごく不安そうな声。何かあったのかも知れない。
シュート「これ…庭の方からですよ!」
ユキト「行くぞ!」
俺たちは寮の庭へ向かった。そこには何人かの生徒もいた。
ルン「あっ!ユキト!」
俺たちと同じクラスの猫獣人のルンが声をかけてきた。
ユキト「あっ!ルン!アスト見なかったか!?」
ルン「見たぞ…というか、そこの木の上にいる」
シュート「木の上!?」
ルン「アストのやつ…猫みたいににゃあにゃあ言うし…呼びかけても、降りられない、助けてって言ってるし…助けたくても近づいたら威嚇されるし…」
ユキト「あっ!そうか、ルンは猫獣人だから言葉が分かるのか!」
ルン「あ…あぁ…一応少しだけな。というか…アストのやつどうしたんだ?」
ユキト「説明はシュートに聞いてくれ!アストのいる木はあれか!?」
ルン「あぁ、そうだ」
ユキト「行くぞライキ!」
ライキ「分かった!」
シュート「2人とも気をつけてください!」
ルンに言われた木に近づく。
ユキト「アスト!」
すると、1番高い木の枝にアストが震えるように乗っていた。
アスト「…みゃあ〜っ」
俺の姿を見ると、不安そうにしながら鳴き始めた。
ユキト「どうやって登ったんだよ…!?」
ライキ「…猫のように身体能力が上がってるんだろうな。ただ、木の上から降りられなくなった…猫にはよくあることだな」
ユキト「すぐ行くからな〜!」
俺は翼を使って飛ぼうとした…その時だった。
「ギュアアアッ!」
どこからか別の鳴き声が聞こえてきた。
ルン「あっ!?ま、まずい!?あれって「レイブンアクト」じゃないか!?」
後ろから事情を聞いたらしいルンとシュートがやってきた。
「レイブンアクト」は大きな黒い羽が特徴の大型の鳥モンスターだ。よく小型モンスターを狙い捕食する、Dクラスのモンスターであり、大型にも関わらず、すばしっこく飛ぶからかなり厄介なモンスターだ。
アスト「…みゃっ…!」
アストが本能で危機に気付いたのか、さらに体が震え出している。
ユキト「まずい…!弱ったやつがいると思ってアストを狙ってる!」
アスト「みゃあ〜っ…!みゃあ〜っ…!」
言葉の意味は理解できないが、今のアストが助けて欲しいと言ってるのは伝わる。
ユキト(絶対助け出す!)
ユキト「ライキ!アストを助けてあげてくれ!俺はレイブンアクトを何とかする!」
ライキ「分かった、気をつけろよ」
俺は翼を使って高く飛ぶ。そして大剣を構え、レイブンアクトと前に立ち塞がった。
ユキト「こい!」
レイブンアクトはすごい勢いで突進してきた。咄嗟に大剣を構える。
ドカッ!
ユキト「ぐっ…強い力だな…!」
空中では浮いているから足の踏ん張りが使えない。かと言って、避ければアストのいる木にぶつかる。そうなるとアストが危ない。
シュート「炎魔法 ブラストフレイムエッジ!」
下から炎の斬撃が飛んできた。レイブンアクトはそれに気づき、すぐさま避けていった。
シュート「ユキトさん!援護は任せてください!」
ルン「俺先生たちを呼んでくる!ユキト!頑張って耐えてくれ!」
ユキト「あぁ!頼んだ!」
◇◇◇
その頃、木の上ではなんとか登り切れたライキがアストのもとに辿り着いていた。
ライキ「よっと…大丈夫かアスト?」
アスト「みゃっ…」
小さく鳴くが、体は震えている。よっぽど怖かったのがライキにも伝わった。
ライキ「怖かったな…もう大丈夫だ。俺に捕まれ」
そっと腕を広げると、アストはそれにもたれかかるように捕まった。怖くなったのか、爪が出てしまっている。
ライキ「いてて…はは…背中に爪が食い込んでるぞ?」
ライキは苦笑しながらも、しっかりアストを抱えて飛び降りた。
ライキ「よっと…もう大丈夫だからな」
アスト「にゃ…」
猫アストは上を見る。そこでは、一生懸命戦っているユキトと、レイブンアクトがいる。
アスト「…シャアアアッ!!」
猫アストは許せなかった。ユキトを傷つけようとしているやつがいる。そう考えるだけで、気に食わないし怒りもでてきていた。
◇◇◇
ユキト「ぐっ…相変わらずの速さだな!」
レイブンアクトは分が悪いと感じたのか、凄い勢いで空を飛び始めた。必死に追いかけるが、速すぎて全く追いつけない。シュートも狙いを合わせようとはしているが、速すぎて打てない。下手すれば俺に当たる可能性もあるし、変に魔法を使えない。やっぱりここは俺がどうにかするしかない。
ユキト「ちょっとは…当たれ!氷魔法 アイスショット!」
初級クラスの簡単な魔法。尖った氷を飛ばす魔法だが、これで少しでもダメージを与えられれば…と思っていた。だが俺の考えは甘かった。
「ギュアアアッ!!」
レイブンアクトは羽から衝撃波を出してきた。さらに魔力がこもっていて、風の刃になっている。俺の氷も簡単に壊したかと思うと、貫通してそのまま俺の方に飛んできた。
ユキト「ちっ…!」
大剣を使ってすぐさま受け止めた。だが、その一瞬を狙われていた。
ユキト(っ!レイブンアクトが…いない!?)
目の前にはレイブンアクトはいなかった。必死に周りを見渡すが、姿がどこにもない。
シュート「ユキトさんっ!上です!」
シュートが叫んだ。俺は咄嗟に上を見た。そこには凄い勢いで突進しようとしているレイブンアクトがいる。
ユキト(しまっ…!?まずい…このままだと地面に…!)
その時だった。
アスト「シャアアアッ!!」
強い魔力反応を感じた。一瞬見ると、爪を出して威嚇するアストがいた。
シュート「アストさん!」
ライキ「アスト!」
毛が逆立ち、尻尾は大きく膨れ上がっていて、耳は伏せている。でも、体にまとわれ始めた魔力だけはアストそのものだ。そしてこれは…何度も見てきた。この魔力の集め方…アストのあの魔法…。
アスト「宝石魔法 デトネーション・ラッシュ!」
アストの前に綺麗なダイヤモンドが複数現れる。すると、それらが一斉にレイブンアクトへ飛んでいった。
ドゴーン!
周囲に大きな爆発音が響き渡った。ギリギリ、俺が魔法に巻き込まれないところだった。俺はすぐさま離れ、地面に降り立った。すると、水色の煙からレイブンアクトが落ちてきた。
ユキト「す、すげぇ…」
レイブンアクトは息をしていなかった。
アスト「…みゃ」
シュート「おっと…アストさん大丈夫ですか?」
アストはふらっとしながらシュートにもたれかかった。どうやら想像以上に体力を使ったようだ。
ユキト「今の…アストだよな?」
ライキ「…あぁ、間違いなくアストの魔法だった」
シュート「すごい…まさか猫になっても魔法が使えるなんて…」
ユキト「いや普通に詠唱もしてたよな!?俺てっきり喋れないのかと…」
ライキ「…もしかして、ユキトの危機だからアストが一瞬戻ってきたんじゃないか?」
ユキト「…えっ?」
シュート「ですね、アストさんレイブンアクトにすごい怒ってましたから。じゃないと、今の猫アストさんからは考えられませんよ」
アスト「…にゃ」
ユキト「…そっか、ありがとなアスト」
アスト「にゃっ!」
アストは尻尾をピンと立てた。その後は先生たちがやってきて、事情を簡単に聞かれた。全員無事で良かったのと、レイブンアクトが学園に来たことを調査することになったそうだ。
結果から言うと、俺たちの倒したレイブンアクトは行動範囲が広い個体だったらしい。本来は森周辺からでないやつが多いが、森で食料が見つからないと、たまに外まででてくるのもいるそうだ。それがたまたま運が悪く、学園にまで来てしまったらしい、先生たちからは安全確認ができておらず申し訳ないと何度も謝られた。まぁ、今回はアクシデントだし、無事に倒せたので問題ない。
ユキト「ふぅ…疲れたな」
いろいろ事情を聞かれたり、怪我の確認をされていたら夜になっていた。
ガサガサ…ガタガタ…
アストの部屋に戻り、少し休憩しようと思っていた…時だった。
シュート「アストさん何してるんですか?」
アストがやけに騒がしい。昼とは違って元気がある。少し走ったり、棚を見てたりととにかく落ち着きがない。
ライキ「夜になると猫は元気になるからな。アストもそれと同じなのかもしれない」
すると、アストはじーっとソファの下を見ている。
ゴツっ
アスト「んにゃっ!?」
ライキ「アスト!?」
下に潜ろうとしたのか、思いっきりソファに頭をぶつけた。痛そうに頭を抑えている。
シュート「だ、大丈夫ですか!?」
アスト「…にゃ?」
すると、もう一度ソファの下を見る。そして…またゴツっと音がする。
アスト「にゃあっ!?」
シュート「いや入れませんよ!?大きさを考えてください!アストさんは猫じゃなくて体は人なんですから!?」
シュートはまたぶつけないようにアストを抱き抱えてソファから遠ざけた。
アスト「…シャーッ!」
すると、アストがソファを見ながら爪を出した。
シュート「ちょ…ソファに威嚇しないでください!?」
ライキ「…ははっ!ホントに威嚇するなんて…」
ユキト「…ぷっ!ほ、ホントに分かってないんだな…!」
その様子がおかしくてつい笑ってしまった。
アスト「…シャアアアッ!」
すると、アストが俺を見て怒り出した。
ユキト「えっ!?俺何で威嚇されたんだ!?ライキも笑ってただろ!?」
シュート「あははっ!い、今の面白い…!ユキトさんだけ冷たすぎる…!」
ユキト「おかしいだろ!?ホントに何でだよ!?」
アストはしばらく威嚇を俺に続けていた。それを見てシュートとライキはずっと笑っていた。2人には怒らなかったのに俺だけこの対応…ホントに酷すぎる。
ただ、そんな猫アストとの生活も、もう少しで終わろうとしている。まだ夜は長いが、この夜を超えるとアストは元に戻る。
それを少し考えると、ちょっとだけ…寂しい感じもした。




