おまけエピソード 猫になったリーダー (第2話)
視点 ユキト
ユキト「なんとか理解してもらえたな…」
シュート「はい、フォンゼル先生が優しくて助かりましたね」
事情を説明し、学校生活に支障が出たことを伝えた。すると、ファンゼル先生は理解してくれて、しばらくの間は面倒な方を優先してほしいと言ってくれた。ただもちろん条件もある。3人同時には休めないので、戻るまでは1日ずつ交代で見るようにとのことだった。
ユキト「なるべく早く戻ってほしいけどな…」
シュート「た、確かに…アストさんのあの状態が続くと大変ですね…」
ちなみにファンゼル先生の見解では、そういった変身魔法は数日後に戻る可能性があるものが多いらしい。もちろん薬で戻す方法もあるが、今のアストの反応を見るに、無理に飲ませると大暴れするだろうからやめておいた方が良いと言われた。
ユキト「ライキは…大丈夫か心配だな…」
シュート「大丈夫だと思いますよ。ライキには凄い懐いてましたし」
ユキト「ぐっ…それ聞くと何か悔しいんだよな」
シュート「あはは…」
そうこう話していると、アストの部屋に辿り着いた。中からは大きな音は聞こえない。
ユキト「ライキ、大丈夫か?」
俺たちは部屋に入った。そして、ライキのいた場所を見た。
ユキト「…は?」
シュート「…え?」
俺たちは息を呑んだ。ライキを見ると、あのライキが寝落ちしていた。もちろん肩にはアストがいる。2人とも幸せそうに寝ている。
ユキト「…氷魔法使ってやろうかな」
シュート「だ、ダメですよ!?猫アストさんまで巻き込まれますよ!?」
ユキト「…いやライキも心配するとこだろ?」
シュート「…ちょっと羨ましかったので」
結局、アストを起こさないようにライキだけを起こすようにした。
◇◇◇
ライキ「その…わ、悪かった」
シュートが肩を揺さぶると、ライキはすぐに起きた。そして、状況を理解したライキは申し訳なさそうな顔をしている。
シュート「ホントだよ…何でライキはそんな幸せそう…ごほん、被害がないのさ。俺とユキトさんはあんなに襲われたのに!」
ユキト「…俺も静かにしてたら寄ってくるかな」
ライキ「…ユキトには無理じゃないか?」
ユキト「なんか腹立つな!!」
シュート「それは…俺も思っちゃいました」
ユキト「シュートも!?」
アスト「…にゃ」
つい声が大きくなってしまった。すると、アストがゆっくり目を開けた。
ユキト「あっ…」
シュート「し、しまった…!?」
ライキ「…おはようアスト」
アスト「にゃー」
ライキはゆっくり頭を撫でた。すると、すり寄せるようにして頭を擦り付けている。
シュート「な、撫でてる!?」
ユキト「懐きすぎだろ!?」
ライキ「…か、かわい」
シュート「ライキ?」
ユキト「今なんて言った?」
ライキが呟こうとしていた言葉を、俺たちはもちろん聞き逃さなかった。
ライキ「な、何でもない!」
シュート「いやそんな顔赤くしても何も説得力もないよ!」
シュートは少し面白かったのか、尻尾を揺らしながらライキを見ていた。
その瞬間…またアストの目が変わった。
シュート「…あれ」
ユキト「さっきと目が違くないか?」
ライキ「あっ、まさか…」
シュートの9つの尻尾の1つがアストから見て右に揺れた。自然もそれに合わせて動く。さらに左に揺れた。それに合わせてまた動く。
シュート「…ぷっ」
シュートがとうとう面白くなって吹き出した。
シュート「か、可愛い…」
ライキ「シュート…あまりやりすぎると飛んでくるぞ」
シュート「そ、そうだね…またあんなことには…」
しかし、注意するのが少し遅かった。
アスト「にゃーっ!!」
シュート「うわぁ!?やっぱり来た!?」
ライキ「遅かったか…」
シュートは尻尾が捕まらないように逃げ出した。もちろんそのせいで尻尾が揺れるため、アストはそれを追いかける。
ユキト「…これ止まったら捕まるし、止まらなかったら追いかけられるよな。もう無理じゃないか?」
ライキ「あぁ、捕まるまで永遠に終わらないだろうな」
シュート「冷静に解説してないで助けてー!?」
アスト「にゃっ!」
シュート「い、いたっ!?」
ドカッと大きい音が鳴る。狭い部屋で逃げ回るのはやはり限界があり、アストはシュートの尻尾に飛びついた。その勢いに耐えられず、シュートは倒れてしまった。
シュート「あ、アストさん…!どいてください…!」
アスト「にゃっ…!にゃっ…!」
シュート「いたっ!?け、毛が!?むしられてる感じがする!?」
ユキト「完全におもちゃだな」
シュート「見てないで助けてくださいー!?こ、こうなったら…」
その時、シュートは何か思いついたのか、9つの尻尾をバラバラに動かし始めた。
アスト「にゃっ…!?にゃっ…!?」
一気に動き出した尻尾を忙しなく追いかける。ただ、どれを追いかけたら良いか分からなくなっていた。
シュート「やっぱり…こうすれば迷いますよね…!」
シュートはしてやったりという顔だった。
ライキ「…それ最後はどうなるんだ?」
シュート「えっ?」
ユキト「確かに…むしろ自分から遊んでる感じになってるし、シュートそのまま動くことができないんじゃないか?」
シュート「……し、しまったぁ!?」
ユキト「ぷっ…ほ、ホントに気づいてなかったのか!?」
ライキ「…くくっ」
どうやらシュートは自分のミスに気づいたようだ。
アスト「にゃーっ!!」
魅力あるおもちゃが9つもある。アストは最初こそ困惑していたが、今は目をキラキラさせて楽しんでいる。
シュート「や、やらかした!?お、お願いですユキトさん!ライキ!助けてください!」
アスト「…どうする?」
ライキ「でもアストは楽しそうだからな」
シュート「そ…それは…」
シュートは顔をゆっくり上げ、背中に乗って楽しく遊んでるアストを見た。すごいキラキラした目を見てしまう。無邪気に、いつものアストからは考えられない笑顔。
シュート「…やっぱりこのままにしておいてください!」
ユキト「負けたな」
ライキ「おれたな」
倒れている狐獣人に馬乗りになって遊んでいる猫。こちらから見たらすごく面白い光景だった。
ユキト「そう言えば…アストの治療法分かったのか?」
ライキ「あぁ、薬でも治るが、1日経てば戻るらしい。薬の材料は城下町に行けば揃うと思うが、そこそこ高価なものもあるし、時間経過の治療でいいと思う。」
シュート「良かった…寝落ちしてたから治療法を知らなかったらどうしようと思ったよ」
ライキ「そ…それは忘れてくれ」
シュート「…ちょっと面白かったから忘れられないかも」
ユキト「いや、そんな倒れてる状態で尻尾を動かしながら話してるシュートも結構面白いからな?」
シュート「…忘れてください」
ライキ「さ、流石に…くくっ…無理」
ユキト「む…無理だな」
シュート「うぅ…でもそうですよね…俺でも笑うと思いますし…」
アスト「…みゃ」
シュート「…あれ?」
その時、アストの動きが鈍くなっていた。心なしか、目も少しずつ細くなってきている。
ライキ「あっ、もしかして体力切れか?」
シュート「…えっ」
アスト「にゃー…」
すると、アストは1つの尻尾を抱き抱えて枕のようにして眠る体勢に入ってしまった。
シュート「…えっ?もしかして本気で寝る気ですか?」
すると、アストから再び寝息が聞こえてきた。俺とライキはつい笑ってしまった。
ユキト「あ、遊び道具から寝具に変わった…!」
ライキ「良かったなシュート、猫アストの中で評価が変わってるぞ」
シュート「…嬉しいかも」
ユキト「嬉しいのかよ!」
ライキ「でもそれじゃまだ動けないな」
シュート「た、確かに…でも今のアストさんは動かせない…というかこの倒れた体勢意外ときつい…!」
ユキト「…仕方ない、どかそうか?」
シュート「い、いや…また暴れられたら困りますし…耐えます!」
ライキ「本当は?」
シュート「…まだこの状況を堪能したい」
ユキト「おい!?」
シュートのホントの答えを知り、ライキはまた笑っていた。
ユキト「仕方ないな…よっと、少し頭をあげてくれるか?この枕を入れるからさ。そうしたら頭だけは少しは楽になるだろ?」
シュート「あ、ありがとうございます!」
シュートの頭と床の間に枕を差し込んだ。ふと、棚の上にある時計に目が入った。
ユキト「…そう言えばいろいろあったから、まだ朝ごはん食べてないな」
シュート「確かに…でももう時間的にお昼に近いですよね?」
ユキト「だな…流石に腹減ったな…」
ライキ「…ご飯どうする?」
ユキト「え?どうするって?」
ライキ「アストがこれだから…ご飯作れる人いないじゃないか。学園は休みだから、食堂も空いてないだろ?」
ユキト「た、確かに!ご飯を作る人がいない!」
ギルド結成をしてからの休みは、いつもアストが用意してくれていた。ちなみに俺たち3人には作れる人がいない。俺は不器用すぎてできないし、シュートは火力を強くし過ぎてしまい炭にする。ライキに関しては…本気で思い出したくないほど料理が下手だ。いつか語りたいほどのレベルだ…。
ユキト「仕方ない…どこか買いに行くか?」
シュート「えっ!俺行けないですよ!?」
ライキ「俺たちで2人で大丈夫だ。シュートはアストの面倒をお願いしても良いか?」
シュート「…分かった。あ、後アストさんのご飯もどうにかしないとですよね?」
ユキト「確かに…でも今のアストは何を食べるんだ?」
ライキ「ケットシーや猫の餌…」
シュート「さ、流石に食べさせるのは可哀想ですよ?」
ユキト「そ、それもそうだな…とりあえずいろいろ買ってみるか」
シュート「あまり使い過ぎないでくださいね」
ユキト「おう、それじゃあ行こうぜライキ」
ライキ「分かった、あとは頼んだシュート」
シュート「うん!」
倒れたシュートと寝ているアストを置いて、俺たちは城下町に向かった。
◇◇◇
その頃、2人きりになった倒れた体勢のシュートは…
アスト「すぅ…すぅ…」
シュート「…ちょっと重い」
そう思いながら顔を上げてアストの顔を見た。すごく幸せそうな顔。あの遊んでいた顔とは違う、安心しきった落ち着いた顔。
シュート「可愛い…」
1本の尻尾は捕まっている。そして、シュートの大きな尻尾のうちの5本はアストの体で動かせない。だから残った3本の尻尾を動かして、アストの体の上に布団のように乗せた。
シュート「これなら…もっと落ち着くかな?」
完全に寝具になっている。尻尾が9つあるせいで、生活では苦労のあることが多いシュートだが、この日は本気で尻尾が9本あって良かったと感じた。




