第11話 リーダーの決断
視点 アスト
僕は頭を抱えていた。ユキトたちから話は聞いたが、かなりまずい状況だ。推定Bクラスのモンスター…。ユキトの感覚ではあるが、おそらく間違いはないと思う。僕が実際に見たわけじゃないけど、ユキトの感覚はあてになる。
アスト「連絡はもうしてるんだよね?」
アトラ「はい、もう非難も行われていると思うっす」
アスト「そっか、なら…とりあえず安心かな?」
ユキト「でも…それも時間の問題だ…」
アスト「そうだね…聞いた話だと黒いゴブリンたちは洞窟で足止めされてるようだけど…村に続く道は他にもあるからそこから攻めてくる可能性もある」
アトラ「村の近くにあんなやつらがいたら安心して村で生活できないっす…」
その通りだ。いつ襲撃があるか分からない。このまま待っていても村の危険性が高くなるだけだ。
アスト「…行かないと」
僕は覚悟を決めて立ち上がった。
シュート「えっ…行くって…どこに?」
アスト「ひとまず様子を見たいからね。まずはオークとゴブリンの群れの動きを知りたいし…もう一回森に行くよ」
僕がそう言うと、みんなが驚いた様子で僕を見る。
ジル「な…なに言ってんだお前…!さっきあんな目に遭ったのをもう忘れたのか!?」
アスト「それでも…そのオークたちの情報を集めないと…」
ライキ「アスト…!今回は…今までの依頼とは違うんだ!あのオークに対抗するなら…最低でもBクラスの実力はいるんだぞ!」
シュート「さ…さすがに無謀です…!正直…俺たち6人が同時に戦っても勝てるとは思えないんですよ…!」
アトラ「アストさん…村のことを気にしてくれるのは嬉しいっすけど…ここは俺たちも逃げるべきっす…!」
ユキト「………」
みんなの様子がおかしい。僕は気絶してたから分からないけど、よっぽど怖い目に遭ったのだろう。
アスト「お…落ち着いてみんな…!」
なんとかなだめようとするが、みんなは落ち着く様子がない。
ジル「…お前は気絶してたから分からないと思うが、俺は本当に命の危険を感じた。村の人たちからも言われたんだろ?危険だと感じたら逃げろって」
アスト「た…確かに言われたけど…」
ライキ「俺…アストがあんなに血まみれになったのを見てすごい焦ったんだ。このまま失ってしまったらどうしようって…もう…俺はあんな思いはしたくないんだ」
アスト「ライキ…」
ここまで否定されるとは思わなかった。でも…僕はここで折れない。僕だって心に決めたことがあるから。
アスト「…それでも僕は行くよ。動けるのは僕たちだけなんだから」
ジル「お、お前…!」
僕がそう言うとジルが詰め寄ろうとしてきた。
ユキト「やめろ」
するとユキトが僕とジルの間に入ってくる。
ユキト「今は…仲間割れしてる場合じゃないんだ。それに、アストの話も聞いてみるべきだって思う。アストは…俺と違って頭が良いからさ」
ジル「…ちっ…分かったよ」
そう言って、ジルは元の位置に戻った。その様子を見てユキトは僕のほうを見る。
アスト「ありがとうユキト…」
ユキト「なぁアスト…あのオークを見て勝てないと思ったのは俺も同じだ。俺たちで戦ったあいつは学園長が言ってたようにランクCだ。でも今回出会ったあのオークは…推定ランクBの力はある。それでも……まだこの状況をどうにかできる方法があるのか?」
ユキトの目は真剣だった。みんなを落ち着かせてくれて、僕に話す機会をくれたんだ。僕のことを信じてくれたユキトの気持ちに応えたい。
アスト「考えてみたんだけど…まずみんなは勝つということのこだわりが強いんじゃないかな…って思う」
アトラ「こだわり…っすか?」
シュート「勝つなんて…当たり前のことじゃないんですか?」
僕は人間だから、獣人であるみんなとは考え方が違うはずだ。獣人は力があるが故に、勝ちへのこだわりが強いと聞いたことがある。
アスト「多分、その考えがみんなの心をバラバラにしてると思うんだ。そんなに強い相手だからこそ、僕たちは協力しあうべきなんだよ。協力ができれば、この状況をなんとかできる」
ライキ「バラバラ…」
アスト「うん、どんなに強大な相手でも、協力してみんなで力を合わせて知恵をだす。そうすることで乗り越えることもできるんだよ」
僕はなるべく1人1人の目を見て話す。この想いが届くように、伝わるように。
アスト「それに…勝つ必要なんてない。僕たちは目的を達成できたらそれで良いんだよ」
シュート「目的…?」
アスト「僕たちの目的…それは村に被害を出さないこと。これが、みんな思っていることだと思う。だからこれを達成できるのであれば、僕たちが勝つ必要はないんだ」
ジル「いや…確かに俺も考えてるのはそれだ。でもそれにはあの怪物をどうにかしないといけないだろ。倒さないとその目的は達成できない。矛盾してるじゃないか」
ユキト「…あっ!そういうことか!」
シュート「えっ、ユキトさん分かったんですか?」
ユキト「俺たちがオークを討伐する必要はない。倒せるやつが倒せば良い。そういうことだよなアスト」
アスト「うん、そう言うこと」
ライキ「…なるほどな」
アトラ「あっ…まさか…」
ジル「……そうか」
シュート「えっ…?ど、どういうことですか?今オークに勝てる見込みはないって話でしたよね?」
ライキ「あぁ、今はな。だがついさっき、アトラがギルドに依頼を出してただろ?」
シュート「…あっ、そうか。いずれはギルドから応援が来てくれる。そしてあのオークを討伐してくれるはずってこと?」
ライキ「そうだ、でもそれには応援が来てくれるまでの時間が必要…ここまで言えばアストの考えが分かるだろ?」
シュート「ギルドの応援が来るまでの時間稼ぎ…!」
アスト「そう、さっきも言ったけど…いま動けるのは僕たちだけなんだ。そのオークは森の奥に行ったらしいけど…いつ村に来るか分からない。それに、村の人に応援を求めても、きっと避難誘導で人員が足りないはず。オークがやって来たら、僕たちでどうにかしないといけない。だから…みんなの協力が必要なんだよ」
僕はもう一度1人1人の目を見た。それぞれがまだ戸惑い、恐れのある目をしている。だけど、少し前までしていた絶望感はもう感じられない。
アスト「今回は勝つことじゃない。逃げても良いんだ。あくまでも時間を稼げばいいだけ。そう考えたら…少し気が楽にならない?」
ユキト「だな、時間を稼ぐだけなら策も思い付けそうだ!」
ジル「ヒットアンドアウェイも駆使すれば…良い感じに時間を稼げるかもな」
ユキトはいつもの調子が戻ってきたのか、明るい表情をしている。ジルも、考えが変わったのか、何か策を練り出している。
シュート「…でも、俺はやっぱり怖いです。俺には…どうしても無謀に感じてます」
その時、シュートがつぶやいた。もちろんその気持ちもよく分かる。今の彼はこの勇気がまだ無謀に感じているのかもしれない。
アスト(それは…そうだよね…僕も怖いって感じてるし…)
アスト「シュート、無理にとは言わないよ。その気持ちも理解できるし…」
シュート「あっ…!!ま、待ってください!!」
アスト「わっ!?」
いきなり立ち上がって僕の話を遮ったシュートに驚いてしまった。
シュート「す、すみません、驚かせてしまって…。でも、確かにまだ無謀に感じてるんですけど、今アストさんの話を聞いて、別の視点からでの勝ち方もあるんだな…って分かったんです」
シュートは自分の胸に手を当てた。その目は覚悟を決めているような、力強い眼差しだった。
シュート「最初は、逃げたら負ける…って考えだったんですけど、それでも良いんですよね。それも、立派な戦術。なら、まだ簡単に諦めるわけにはいかないって思ったんです。俺も頑張りたい、だから協力させてください!」
アスト「シュート…ありがとう」
意気込んでくれたシュートは優しく微笑んでくれた。そして僕は横にいるライキとアトラくんを見る。まだ2人はどこか思うところがあるのか、腑に落ちてなさそうな顔をしていた。
アスト「ライキとアトラは…どうかな?」
ライキ「…時間稼ぎも長くは持たないぞ」
アスト「うん、分かってる。ゴブリンの群れとオークを相手にするんだ。長い時間を稼ぐことはできないと思ってるよ。でも、もう…ライキなら分かってるんじゃない?このまま見逃すことはできないって」
ライキ「…はは、それもそうだな」
アトラ「あの…アストさん…村のために考えてくれるのは嬉しいっすけど…いや、動けるのは俺たちだけ…っていうのも理解してるっす。俺たちが動けば、被害がでないかもしれない。でも…俺は…」
アスト「それだけじゃないよ。僕たちには…対抗できる力がある。でも、村の人たちにはアトラくんたち程強い力はないんだよね?」
アトラ「そ、それは…そうっす…ね」
ジル「あぁ…あの村は平和だから、闘いが基本的に起きてなかったからな」
アスト「世の中には力が欲しくてもない人がいる。力がないから守りたいと思っても守れない人もいる。でも、僕たちはそれができるんだよ。もし村にゴブリンたちが襲ってきたら…こう思う人もいると思うよ。力があれば…って」
アトラ「…っ」
アスト「僕はそんな人たちの想いを背負ってあげたい。対抗できる力があるからこそ、僕は代わりに闘ってあげたいって思うんだ。みんなの明日を守るために…」
アトラ「みんなの…明日を…」
アスト「もちろん無策で行くわけじゃない。ちゃんと策もある。この6人の誰も欠けずに、村の被害を出さない。それを…実現させたいんだ。だから…協力して欲しい…!」
ライキ「…分かった。そこまで言われたら…俺はアストを信じる。言われてみれば…俺はこんな時のために鍛えてきたのに、怖気付いてても仕方ないよな」
アトラ「…そうっすね。俺も、どうにかしてました」
パチンっ!
アスト「えっ!?」
その瞬間、アトラくんがいきなり思いっきり自分の頬を叩いた。かなり痛そうな音が鳴り、アトラくんの頬は赤くなっている。
アトラ「ったぁ…!」
アスト「だ、大丈夫!?」
アトラ「大丈夫っすよ…!もうちょっと気合いを入れ直しただけっす。…アストさん!」
アスト「は、はい!?」
アトラ「ありがとうございますっす!おかげでやる気がでました。そうっすよね、俺がしっかりしないと村のみんなを守れないっす。みんなの未来を守るために…頑張るっすよ!だから…もう少し協力して欲しいっす!」
アスト「…うん!もちろん!」
ユキト「よし!決まりだな!」
ジル「あぁ、ここまできたらとことん抗ってやる」
すると、ユキトが片手を前に出した。
ユキト「それじゃ…みんなで円陣を組もうぜ!」
シュート「円陣!良いですね!」
ユキト「だろ!これならみんなの士気が上がってより一体感が出やすくなる!協力して頑張る…だろ?アスト」
アスト「…うん!」
僕はユキトの横に立ち、手を重ねた。それを見たみんながどんどん手を重ねていく。
ユキト「やっぱこういう時の掛け声はリーダーにしてもらわないとな!」
アスト「えっ!?僕!?」
ジル「当たり前だろ、あそこまで言い切ったんだ。ちゃんと頼むぞ」
アスト「そ、そうだね…ゴホン」
僕はひとつ咳払いをした。
アスト「…これから僕たちはすごく危険な任務に挑む。でも、この任務は僕たちにしかできない。この中の誰も欠けずに、そして被害も出さずに…みんなで協力して…完全勝利しよう!頑張るぞ!」
「「「「「おぉーっ!!!」」」」」
みんなで大きく手を上に振り上げた。周りから見ると無謀とも思えるかもしれない。だけど、みんなで出したこの一体感なら、何でも乗り越えられるんじゃないかと感じるんだ。
視点 ???
??「……」
「あら…こんなところまで来てたのね」
??「…ルリナか」
後ろを振り向くと、竜人の女性が飛んで近づいてきていた。
ルリナ「何の用でここにいるのかしら?悪魔であるあなたがここにいる意味はないでしょうに」
??「あいつらが…アストの存在を勘ぐり出している」
ルリナ「そう…思ったより早いわね」
??「あれを見ろ」
俺は遠くにある森を指差した。
??「あの森には、アストがいる」
ルリナ「…あそこ、見た感じ黒蝕モンスターがたくさんいるじゃない」
かなり遠くまで離れているが、さすがは星竜。距離にすると100キロメートルはあるが、良い目をしている。
??「アストたちは…あれに対抗する気みたいだ。この戦いがきっかけで、力を解放する可能性もある。それを奴らに勘付かれると面倒だ」
ルリナ「そうね…まさか、能力に目覚めるだけじゃなくて、宝石魔法まで扱えるようになったのは本当に驚いたわ。まさかここまでなんて…もしかしたら、近いうちに<あれ>も使えるようになるかもしれないわね」
??「あぁ…確実に、アストは力を取り戻してる。これは…俺たちも計画を早く進める必要があるぞ」
ルリナ「…えぇ、お母様にも掛け合っておくわ」
??「頼む」
俺がそう言うと、ルリナは背中を向けた。どこかにいく前に、俺はルリナを止める。
??「おい、ルリナ」
ルリナ「何?」
??「あいつは…いや、アストは…真実を受け入れると思うか?」
俺たちはある計画を進めている。しかし、それはここ数年でイレギュラーがあまりにも起きすぎている。
ルリナ「…分からないわ。私にも予想外だったもの。まさかアストが<あの方の弟>と接点を持つなんて…」
??「…どこかで計画の歯車が狂い出している。完全に狂う前に対策をするぞ」
ルリナ「ホント…悪魔なのにずいぶんアストを気にするのね…ディル。この世界のことは、嫌いなんじゃないの?」
ディル「…当たり前だ。だが、この世界であいつは生きている。守る理由ならそれだけで良い」
ルリナ「そう…失敗するんじゃないわよ。これも…アストのためなんだもの」
ディル「分かってる。俺はあいつのためなら命をも犠牲にできる。あいつは…アストは…俺の、弟なんだからな」
黒い風がなびく。真っ黒に染まった竜の羽を持つ少年は、静かにその場を立ち去った。それをルリナはただ黙って見ていた。
ルリナ「…アストなら、きっと真実に辿り着くかもしれない。そうなった時は、私も…覚悟を決めないとね」




