第10話 合流
視点 アスト
アスト「うっ…」
僕は気が付くとベッドに横になっていた。どうやら今まで気絶していたようだ。
ユキト「アスト…!!良かった…目が覚めたんだな…!」
真っ先に目に飛び込んだのは、涙目になっているユキトだった。
アスト「ゆ…ゆき…と?」
ユキト「そうだ!大丈夫か!?俺のこと分かるか!?」
ジル「落ち着け…今は安静にさせるべきだ」
ユキト「お、おう…そうだな」
僕は体を起こした。まだ頭がふわふわする。血を流しすぎたのか、体がすごくだるい。
アスト「こ、ここは…」
アトラ「森の入り口にある小屋っす。なんとか振り切れたのでここに避難したんすよ」
僕はあたりを見渡した。よく見るとユキト以外にもシュート、ライキ、アトラくん、ジルくんと全員そろっている。
アスト「そうだったんだ…」
アトラ「傷ももう完治しているので安心してくださいっす」
アスト「うん…ジルが治療をしてくれたんだよね、ありがとう」
ジル「…お礼はいい、それよりもお前にはいろいろ言いたいことがある」
そういうジルくんの目を見ると、すごいにらみを聞かせた目で僕を見ていた。明らかに怒っているのは確かで、すごく怖かった。
アスト「…う、うん」
ジル「…でも今はあいつらをどうするかだ。ここも時期に危なくなる。早く対策を立てないと…」
アスト「そう…だね、早くゴブリンたちをなんとかしないと、村に被害がでる…」
アトラ「それも…そうなんすけど…」
シュート「…」
何やらアトラくんの表情が暗い。それにいつも明るいシュートも一言も喋っていない。何やら様子がおかしい。
アスト「2人とも…?どうかしたの?」
ユキト「アストにも…説明しないといけないな。今、ものすごいまずい状況なんだ」
数十分前……
視点 ユキト
ユキト「こっちの方だ…!モンスターとは別の気配を感じる…!」
ライキ「アストたちの可能性があるな…!ただもしかしたら戦闘をしているかもしれないぞ…!」
シュート「だったらなおさら早く合流しないと…!」
俺たちはためらいもなく森の奥に走っていた。奥に進むたびに気配はどんどん強くなる。ただ、この気配はたくさんの気配が合わさって大きくなっているように感じていた。もしそうなら、モンスターの群れの可能性もある。あの黒いゴブリンたちの群れとか…考えたくもない。
シュート「あっ…あれって洞窟…!?」
シュートが指をさした。確かに目の前には大きな洞窟がある。気配もその先だ。
ユキト「行くぞ!」
俺の言葉に2人はうなずき、洞窟の中へ足を踏み入れた。
ライキ「っまて!」
その瞬間、ライキが叫び足を止めた。止めた理由は分かる。洞窟の奥から足音がしているのだ。何かがこちらに向かってきている。俺はすぐさま剣を構えた。
シュート「これ…誰か追われてませんか…?」
ライキ「あぁ…この異様な気配とは別の気配がある…その気配の方がこっちに来ている速度が速いな」
ライキがそういった後、洞窟の奥から足音が聞こえてきた。
ユキト(くる…!)
俺は目を凝らした。暗闇の奥、そこからきれいな光が見えた。この色…そして、こちらに走ってきているシルエットは…。
ユキト「アトラ!!」
俺が名前を呼ぶと、奥からアトラの声が聞こえてきた。
アトラ「ユキト!?」
俺はすぐさま駆け寄りに行った。徐々にシルエットが明らかになり、2つのダガーを持っているアトラの姿が見える。明らかに何かあったのは間違いなさそうだ。
アトラ「どうして…ここに…!」
ユキト「アトラたちがいつまで経っても戻ってこないから心配になったんだよ!一体何があったんだ!?」
アトラ「悪い、今説明している暇はない!お前たちもついてこい!」
ユキト「お…おう…!?」
最初に会った時とは違う様子であるアトラに驚いていたが、その慌てように何かあったことは間違いなさそうだ。ひとまず言われた通りにアトラについていった。そして洞窟の外に出ると、アトラが足を止める。
アトラ「あとは…これで…!」
そう言うとアトラは何やら魔力をためだした。
シュート「あ、あの…アトラさん…アストさんたちは?」
アトラ「もう来るはずだ!」
そう言うと、奥から再び足音が迫ってきていた。ただ、明らかに数が多い。
ライキ「な…なんだあれ…!?」
ライキが驚きの声をあげる。俺も同じ気持ちだった。奥から誰かが走ってきている。白い猫の獣人の少年だった。そして背中には見たこともない美しい羽が片方だけついている。珍しい姿をしている彼にも驚いたが、もっと驚いたのは、彼の腕には血まみれになっているアストがいた。
ユキト「アストっ!?」
俺はすぐさま走り出したい気持ちだった。不意に片足が洞窟に向かって進みだしている。ただその行動は次に見た光景により止められてしまった。
ユキト(な…なんだよ…なんだよあれ!?)
彼の後ろに…たくさんの黒いゴブリンがいたのだ。しかも10体や20体どころじゃない。もっとそれ以上にいる。
シュート「こ、このままじゃ追いつかれますよ!?」
アトラ「落ち着け…!俺が何とかする!!」
今の俺達にはどうしようもできない。何をするつもりかは分からないが、今は彼に任せるしかない。
ジル「はっ…はぁ…あとは…頼んだぞ…アトラ!」
アストを抱えた彼が洞窟から抜け出した。しかし、もう黒いゴブリンの群れも、もうすぐそこまで迫っている。
アトラ「しつこい奴らだ…いい加減…あきらめてもらうぞっ!!大地魔法 ストーン・クラッシュ!」
アトラが魔法を唱えた。すると、洞窟の入り口に大きな魔方陣が現れたかと思うと、突然地面が動き出し、大きな岩が現れた。
シュート「す…すごい!完全に洞窟の入り口を塞いだ…!」
アトラ「はぁ…はぁ…なんとかなった…っすね」
ジル「あぁ…助かった」
ユキト「おい待て…!アストは一体どうしたんだよ!?というか…お前誰だ!」
俺は白い猫獣人に詰め寄った。だけどその間にライキが入ってきた。
ライキ「落ち着けユキト、アストはまだ生きてる。今彼に詰め寄ってもしょうがないだろ。それにアストのことを考えるならまずは治療を優先するべきだ」
ジル「そいつの言うとおりだ。とりあえずお前たちも知らないこともあるだろうし、お互い状況整理をするぞ。おいアトラ、近くの小屋に行くぞ。そこで治療する」
アトラ「分かったっす。それじゃあ皆さん行きましょう。歩きながら何があったのかも説明するっす」
俺たちは歩きながらアトラたちに何があったのかを聞いた。そしてこの人が話に上がっていたジルというやつだったらしい。
ライキ「黒蝕の波動…初めて聞いたな。この騒動は…そいつが原因かもな」
アトラ「俺もそう考えてるっす。でもそんなことができる人物…俺らの村では聞いたことがないっす…」
ユキト「なら、外部のやつの仕業って考えるべきだな…」
ジル「そうだな、といっても姿を隠していたから種族も分からない。声的にはおそらく男だとは思うけどな」
ユキト「その…さっきは悪かった…助けてくれたのに責めるようなことをして…」
ジル「別に気にしてない。それにあの状況なら取り乱してもおかしくない。あと…こいつはちゃんと治療するから安心しろ」
そう言いながらジルは魔力を込めている。聞いた話だとジルは回復魔法に真正があるらしい。アストよりも回復魔法の技術が高いようだ。そんな彼は歩きながらアストの治療をしているらしい。本格的な治療をするなら集中できる場所が必要になるらしいが、少なくともこれ以上の悪化はないそうだ。というか、この短期間にいろんな情報がありすぎて頭が追いついていない。
ユキト(それにこいつ…片方だけ羽があるしな…)
最初に出会った時はアストのことでいっぱいだったが、よく見ると彼の背中にはフワフワしていそうなきれいな白い羽が背中の左側…片方だけついていた。今考えると少し異様な姿だ。多分シュートとライキもジルの羽をちらちら見ているから気になっているはずだ。俺もすごい聞いてみたいが、今は緊急事態だ。そこを気にしている暇はない。
アトラ「あともう少しで小屋に着くっす。そこでならアストさんの治療もできるはずっす」
だいぶ森の入り口まで戻ってきた。ここまでくれば一安心できそうだ。
ライキ「…なぁ」
シュート「どうしたのライキ?」
その後ろでライキが足を止めていた。
ライキ「いや…何か音が聞こえないか…?こう…ドスン…ドスン…みたいな」
シュート「…えっ?」
俺はすぐさま耳を澄ませる。
ドスン…ドスン…
確かに言われてみればそんな音が聞こえる。
ユキト(なんの音だ…?)
俺は集中して音を聞き分ける。何か重たいものが動いているような…そんな感じがする。
ユキト「いてっ…」
音を聞くために目を閉じていたので、目の前で止まっていたアトラに気づかずにぶつかってしまった。
アトラ「……」
ユキト「わ、悪いアトラ…アトラ?」
アトラはずっと立ち尽くして前を見ている。一体何を見ているのだろうと思い、俺もその方向を見てみた。
ユキト(…は?)
俺は言葉が出てこなかった。多分他のやつらも、みんな同じ気持ちだったと思う。
ユキト(嘘…だろ…?)
俺の目の前にいたのは、とてつもなくでかいオーク。周りの木よりも何倍もでかい。身体は黒く染まっていて、身体全体に謎の模様が浮き出ている。俺は一度黒いオークとは戦ったことがある。でも、前のやつとは明らかに違う。桁違いに強いのは見て分かった。絶対に勝てないと…本能で感じてしまった。
ユキト(どうして…俺は…気づかなかったんだよ…!こんなの…さっきからおかしすぎるだろ…!)
俺があのオークを認識した瞬間、とてつもない邪悪っぽくて気持ち悪い気配に襲われた。体が震えあがる。こんな気配、こんな近くにいて認識するまで気づかないのはやはりおかしい。その時だった。とても巨大なオークと目が合う。
ユキト(っ!?)
その目を見た瞬間、俺は身体が動かなくなった。今感じているのは、恐怖。俺は人生で初めて…モンスターに恐怖を感じていたのだ。
シュート「あっ…うっ…」
ライキ「さ…下がれシュート…!」
アトラ「……っ」
ジル「なんだこいつ…!」
他のみんなも震えている。アストが気絶していて良かったかもしれない。アストには、こんな思いをして欲しくなったから。でも、まずはこの状況をどうにかしないといけない。オークはまだ俺たちのことを見ている。もし、俺たちに敵対してくれば…まずいことになる。
ユキト(逃げるしか…!…ん?)
そう思って声をかけようとする。その瞬間、オークはいきなり歩き出し、森の奥の方へ行き始めてしまった。まるで俺たちに興味を示さないかのように、あいつはどこかへ行ってしまった。
ユキト(助…かった…?)
アトラ「はぁ…はぁ…なんなんすか…あいつ…」
シュート「…うっ」
ライキ「だ、大丈夫かシュート!」
シュート「…うん、大丈夫だよライキ」
そう言うシュートだが顔色が良くない。やはりあのオークの気迫に当てられたのが悪かったのだろう。
アトラ「急いで小屋に行きましょう…!そこで…少しだけ休憩をとった方が良いです。全員の体調が整ってから移動しましょう。とりあえず…この話をすぐに村に伝えて対策を取らないといけないっすね…」
アトラの言葉に頷き、俺たちは駆け足で小屋に向かった。道中、先ほどの恐怖からか、喋る人は誰もいなかった。
ユキト(俺たちを見逃した…というよりは俺たちに興味がなかった…って感じだったな…くそっ…)
俺は自身の弱さにイラつきを覚えていた。この感じは嫌いだ。興味がなかったということは舐められたということだ。実力が大したことないと思われたからこそのあの行動。現に俺の実力では敵わないとは分かってはいるが、やっぱり悔しかった。結局逃げるという判断しか思い浮かばなかったことも無性にムカつく。
アトラ「ここが小屋っす」
気がつけば1つの小さな家のような場所に辿り着いていた。中に入ると農業に使う道具や医療道具、簡易的な生活用品が揃っている。部屋の奥には小さなベッドも見えている。
ジル「俺はそこのベッドで治療を始める。アトラは連絡を取るんだ」
アトラ「分かったっす」
するとアトラは近くの棚から1枚の紙を取り出した。
ライキ「それは…伝達用魔法紙か?」
伝達用魔法紙は魔力を込めると宛名先の家に飛んでいく魔法道具だ。主に連絡用の手段で使われることが多い。
アトラ「そうっす。一刻も早く伝えないといけないっすからね。ここで一晩明かす人もいるので、村に戻らない人が連絡するために用意されてるんす」
アトラはそう言いながら紙にこれまで起きた内容を書いていく。その様子を見ながら俺は近くの椅子に腰掛けた。
シュート「あの…これからどうするんですか…?」
ジル「…あんな化け物が現れた以上、どうにかして討伐しないといけない。しかも今日は祭りがあるせいで、人もたくさんいるんだ。今すぐにでも対策をしないと大きな被害がでる」
アトラ「そうっすね。手紙にもギルドに緊急依頼を出すように書いておいたっす。すぐに…かは分からないっすけど、応援は来るはずっす。それじゃあ俺はこれを飛ばしてくるっす」
そう言ってアトラは外に出ていった。すぐに戻ってきたが、その時間がやけに長く感じられた。
ユキト「なぁアトラ…さっき応援は来るって言ったけどさ…その間悠長に待ってることはできないだろ」
アトラ「それは…そうっすね」
いつ襲撃が来るかわからない。こんな状況である以上、時間がかかると襲撃されて手遅れになってしまう可能性もある。とにかく1番の目的はモンスターからの被害をださないこと。そして今すぐに動けるのは…森の近くにいる俺たちだけだ。そうだとは…分かってはいる。
ユキト(っ…)
手が震えている。人生で初めて勝てないと感じたあの感覚。俺とは実力が大きく離れていることはすぐに分かった。そして死ぬ危険性が高すぎると気づいてしまった。そう考えるたびに、剣を持てる自信がなくなってしまう。
ユキト(くそがっ…!結局俺は…弱いまま…かよ…)
ジル「…治療は終わった。アストはもう大丈夫だ」
ユキト「おう…ありがとな…」
ジルはそのまま壁に背中を預けて腕を組んでいた。目をゆっくり閉じた彼は、何か考えているようにも見えた。
ユキト(どうすれば…)
その時、アストの寝顔が目に入る。つい俺はアストの横に立った。呼吸も整っていて心身的にも安定しているようだ。
ユキト(アストは…戦おうとした…命をかけて、守るために。勇気をだした。死ぬかもしれないのに…覚悟を決めた。俺には…なかった強さ…)
今の状況…もしアストなら、どうしていたのだろうか。俺にはもうどうすればいいか分からない。闘いでの知識はある。勝つための策も…あの時の黒いオークのように思いつくこともできる。でも今は何も思いつかない。いつもなら勝てる構図が見えるのに、今はそれが全く見えない。
ユキト(やっぱり…ダメだ…)
俺はもう分かってる。初めて会った時、目があっただけで俺は怖気づいてしまった。その時点で実力差をハッキリと理解させられてしまったのだ。あのオークは、強すぎる。おそらく推定Bクラスはある。今の俺の冒険者ランクは…まだEなのだ。いや、まだ受けてないだけでDクラスの実力はあると思う。ただDとBでは強さの次元が違いすぎる。ファリルさんと1度戦った時でさえ、4人がかりで一撃をなんとか当てられたほどだ。
ユキト(アスト…俺は…どうしたらいいんだ…?)
あの時は…アストが引っ張ってくれた。敵わないと思った相手にも必死に策を考えて、俺たちをまとめてくれた。やっぱり今は、どうしてもアストが必要だ。
ユキト「アスト…」
小さくつぶやくように名前を呼ぶ。
アスト「うっ…」
その時、アストがゆっくりと目を覚ました。




