第9話 気配の違和感
視点 ユキト
ユキト「遅いな…あの2人」
アトラがアストを追いかけてからかなり時間が経った。ずっとここで待っているのもそろそろ暇になって来た。
ユキト「はぁ…早く戻ってきてくれよな〜…」
シュート「あっ、ユキトさん!やっと見つけましたよ。ここで何してるんですか?」
すると、同じく採取が一通り終わったシュートとライキが合流した。
ユキト「それがさ…聞いてくれよ」
俺は先ほどの出来事を2人に説明した。
シュート「あぁ…たまにありますよねアストさんのおっちょこちょい…」
ライキ「しかも1人で行ったんだろ?大丈夫なのか?」
ユキト「アトラが行ったから大丈夫だと思うぜ。あいつならアストにすぐ追いつけるからな」
ライキ「それもそうか…」
シュート「でもそんなに待っても戻って来てないってことはずいぶん遠くまで行ったんですかね?」
ライキ「かもな、ここは坂道が多いし…荷車が遠くまで行った可能性はある」
シュート「俺たちも探しに行きますか?」
ライキ「いや、入れ違いになったら面倒だし、ここで待ってる方が良いだろうな」
ユキト「だな…もしかしたら逆に俺たちが迷子になる可能性もあるし、ここはこの森に詳しいやつに任せてた方がいい」
シュート「分かりました…あっ、そう言えば噂になってるモンスターって会いました?」
ユキト「いや、まだだ。気配を探してはいるんだが…特にこれと言った気配は感じないんだよな」
ライキ「…妙だな」
シュート「妙?」
ライキ「あぁ、この森…モンスターが少ない気がするんだ」
シュート「モンスターが少ない?そうなんですか?」
ユキト「あっ、それは俺も思ったな。この森は自然が豊かで、こういった作物もある。モンスターが住む環境にはうってつけなのに、明らかに少なすぎるんだよな。ゴブリンにだって少なからず気配はあるのに、全く感じないしそもそもモンスターに一度も出会ってない。そこは俺もずっと不思議に思ってたんだ」
ライキ「でも村のやつを襲ったモンスターはいるはずだ。そしてそいつはおそらくそれなりに力がある。だから気配も感じとれると思うんだ。それなのにそいつの気配もない…何か不気味な感じだ…」
シュート「う…うーん…俺には分からないけど…でも気配がないってことは安全で平和…ってことで良いんじゃないの?もしかしたら…もうこの森にそのモンスターもいない可能性もあるし…」
ユキト「それはそれで他の場所で被害がでる可能性もあるから問題だけどな」
ライキ「……」
ライキは腑に落ちないと言った表情をしている。ライキなりにどこか違和感を感じているのだろう。俺も違和感はあるが…ライキほど問題だとは思っていない。でも用心に越したことはないし、俺も警戒をしておく必要はありそうだ。
ユキト「まぁ、何もないならそれが1番だ。俺たちの依頼はあくまでも果実採取だからな。それが達成できたらそれで…」
ゾワッ…
ユキト「!?」
突然、俺の尻尾の毛が逆立った。今まで何も感じなかったのに、突然大きな気配が森を包んでいる。
シュート「ひっ…!?」
ライキ「な…なんだこの気配…!?」
2人も気配を感じ取ったらしい。いや、感じ取れない方がおかしいはずだ。
ユキト(でもこの感じ…どこかで…)
「ギヤァァァァ!!」
ユキト「っ!?シュート危ねぇ!」
俺は咄嗟に剣を取り出した。
シュート「えっ…」
シュートの背後に突然黒いモンスターが現れていた。
ユキト「おらぁっ!!」
俺は剣を振るが、モンスターはとてつもない身体能力で攻撃を避けた。
ライキ「っおいこいつ…ゴブリンじゃねぇか!?」
ライキの言った通り、よく見るとモンスターの正体は黒いが間違いなくゴブリンだった。だけど強さが明らかに違う。
シュート「い、いつのまに…!?ま、全く気づかなかった…!」
ユキト「いや…俺も目で見るまで気づかなかった…!一体どういうことだ…!?」
俺はモンスターの気配の探知にはかなり自信がある。それなのにこんな近くに来ても全く気配も感じ取れず、気付かなかった。でも、今はゴブリンの気配をしっかり感じ取れている。本当にいきなり目の前に現れたかのような…まるで透明になっていたかのような感じだ。
シュート「とにかく…こいつはここで倒しておかないと…!幻惑魔法 イリュージョン・テイル!」
ライキ「雷魔法 サンダーショット!」
シュートは分身を作りゴブリンを囲んだ。その隙にライキが雷魔法を打つ。
ユキト「1発で仕留めてやる…!剣技…凍刃一閃!」
俺は剣に氷を宿し、全力で剣を振った。
「ぐぎゃっ!!」
ユキト「!?」
ゴブリンはまたもや避けようと跳躍した。俺はすぐさまそれに気づき、飛んだ方向に剣を振る。急な方向転換はしたが、ギリギリ刃が当たり、胴体を真っ二つにした。
ユキト(今のこいつ…動けてたな…)
直前にライキの雷魔法を喰らっていたから、体が麻痺していたと俺は考えた。だけど、今の動きは効いてないやつの動きだった。そういえば、黒いモンスターと言えば以前戦った黒いオークがいた。その時も、アストの魔法が全く効いていない様子だった。もしかすると…こいつらには…。
シュート「すごい…!さすがですねユキトさん!!」
ライキ「……」
シュート「…あれ?ライキどうかしたの?」
ライキ「い、いや…何でもない」
ライキも薄々勘付いているようだ。多分俺と同じことを考えているはず。だけど俺の今考えていることにはまだ確証が足りない。
ユキト「…もう待ってるとか言える状況じゃない。早くアストたちと合流するべきだな」
ライキ「…あぁ、1体倒すことに成功はしたが、まだ他にいる可能性もある。しかも…一般的に数が多いゴブリンがだ。もしかしたら…何か異常が起きた可能性もある」
シュート「そ、そんな…」
ユキト「それに…仮にだぞ?元からこの森はゴブリンが多く、そいつらが何らかの影響で黒くなった…。そしてそいつらは何故かは分からないが目視するまで気配がない。さらにこの森はモンスターの気配が普通と比べて圧倒的に少ない…。つまり…この森にあの黒いゴブリンが大量に発生している可能性がある…」
シュート「そ、それって大変なことじゃないですか!?」
ライキ「少なくともランクを考えるとDはあるはずだ。そんな奴らが大勢いるとなると…俺たちじゃ対処できない…急いで合流するぞ!」
俺たちは森の奥に走り出した。おそらく時間との勝負になるだろう。早く見つけて早くこの森から抜け出す。じゃないと俺たちが危険になる。数が分からない以上長期戦になると確実に死ぬだろう。
ユキト(それに…もしゴブリン以外に暗くなったモンスターがいれば…)
俺はすぐさま考えるのをやめる。今考えても仕方ないことだ。それにそんな恐ろしいこと…考えるだけでも冷や汗がでる。それよりも今は…アストたちの無事を確かめるのが優先だ。
ユキト(無事でいてくれよ…アスト!)




