第7話 アトラの思い
ジル「おらっ!!」
ヒュン…!
アスト「宝石魔法 クリオライト・バレット!」
パキパキィ…!
アトラ「…ふんっ!」
ぐさっ…!
森の奥へ進んでいた僕たちだが、運悪くオークの群れに遭遇してしまっていた。しかし…全くと言っていいほど問題はなかった。ジルがオークに向かって斧を振る。その迫力にオークは怯み、そこを僕が氷の宝石魔法で動きを止める。最後にアトラくんが止めを刺す…と、初めてとったとは思えないほどの連携であっさり制圧してしまっていた。
アトラ「終わりか…すぅ…はぁ…」
アトラくんは大きく深呼吸をしだした。
アスト「す、すごい…アトラくんも十分強いね」
アトラ「…ふぅ…へへっ、そうっすか?」
そう言いながらアトラくんは2つのダガーを鞘にしまう。アトラくんはライキみたいに武器を二刀流で戦う戦闘スタイルらしい。しかし、速さはライキと比べて遅いがその分すばしっこかった。猫族は動きが機敏だとよく聞くが、アトラくんはその強さをよく出している。真っ直ぐ走っても急に方向転換して、オークの動きを翻弄していた。そして、気づけばオークの喉元にダガーが迫っている。その動きは本物の狩人のようだった。
アスト「でも…戦闘の時も冷徹モードになるんだね…」
オークの姿を捉えたかと思うと、その時には既にアトラくんの表情は変わっていた。絶対に倒すという殺意がこもった目…さっきも少し感じたが、あまり慣れるようなものじゃない。ちなみに僕は冷徹モードと呼ぶことにしている。
アトラ「はは…戦闘になるとどうしても集中しちゃって…」
ジル「冷徹モードのこいつは容赦がないんだ。口調も変わるし…残忍性が増す。俺でも冷徹モードのこいつを抑えるのは簡単じゃないからな」
アスト「その強さはよく分かったよ…戦闘になっても冷徹モードになるの?」
アトラ「そうっすね、この2本のダガーを持っていざ戦うとなるといつも冷徹モードになるんす。命は1つしかないっすから、負けないって気持ちが強くなるんすよね。あっ、でも深呼吸をすれば気持ちが落ち着いて冷徹モードも終わるので安心してほしいっす!」
アスト「なるほど…だからあんなに大きく深呼吸してたんだね…それにしてもいいなぁ…僕は近接戦闘って苦手だから…2人とも強くて羨ましい…」
ジル「…いや、お前も十分強い」
アトラ「そうっすよ!あんな的確に相手の動きを止めるなんて…おかげですごい動きやすかったっす!」
アスト「そ、そうかな?」
ジル「あの魔法でお前がちゃんとリーダーとしての実力があるのはよく分かった。あの氷の魔法…かなりの強度をもってただろ」
アスト「分かるの?」
ジル「あぁ、凍り方が普通の氷魔法と全然違った。もろい氷は白く濁ったような…そんな色をしていて壊れやすい。逆に硬い氷は透明で、水晶のようなきれいな色をしている。アストの氷は宝石とも言えるきれいな氷だった。あの氷はちょっとやそっとじゃ壊せない。俺でも簡単には攻略できないだろうな」
アスト「あ、ありがとう…それにしても、ずいぶん詳しいね?氷魔法を扱ったりするの?」
ジル「別に…知識として身につけただけだ」
アスト「勉強熱心なんだ!すごいね」
ジル「……」
アスト(……あれ?)
僕がほめると、ジルは何故か厳しい顔をしていた。すると、突然ジルが叫びだした。
ジル「あぁくそっ…!お前と話すと調子が狂うんだよ…!」
アスト「えぇ!?そ、そんな変なことを言ったかな…」
ジル「い…いいから早く進むぞ!」
アスト「う…うん…」
またまたジルくんは先に行ってしまう。僕も急いで追いかける。その背中を見て僕はどんどん後悔をしてきた。僕はもっと彼と仲良くなりたいのに…何というか…話すたびにどんどん好感度が下がってきているような…そんな感じがしてたまらない。
アトラ「アストさんアストさん」
すると、歩きながらアトラくんが小さく手招きをしていた。近づくとアトラくんは耳打ちをしてきた。
アトラ「あまり気にしなくても大丈夫っすよ。ただジルはあまり褒め慣れられていないだけなんす。だからほめられた時の反応が分からないだけで、あんな態度になっちゃうんす。気難しいって思うかもしれないっすけど…ジル本人はもっと仲良くなりたいって思ってるので、根気強く話しかけてあげてほしいっす」
アスト「そうなんだ…分かった。僕も仲良くなりたいから頑張ってみる!」
アトラ「その意気っす!」
と、アトラくんに慰められ、改めて気合いを入れなおした。諦めずに話しかけ続ければ、いつか心を許してくれるはずだ。
視点 アトラ
アトラ「ふぅ…ジルは本当に不器用っすね…」
と、アストとジルが話しているところを見て俺は小さくため息をついた。アストさんには分からないと思うが、俺はジルの気持ちを知っている。ジルは昔から人と話すのが苦手で、話しかけてもその威圧的な表情から恐れられることが多かった。でも本人に威圧しようとかそんな気持ちはない。ただ表情が怖いだけなのだ。…言動にも問題はあるとは思うけど。
ただそこは俺も悩んでいるところだった。ジルは内心はとてもいい奴なのだ。村のなかでも怪我をする人が現れれば積極的に治してあげたり、今回みたいにモンスターが現れたとなれば、自分から討伐に向かって脅威を取り除こうとする。そのおかげで村の人はジルの人柄の良さを理解してくれている。しかし、俺たちの村は小さいため、同年代の友達が少ない。それと村の大体が大人のための、ジルが同年代の人との付き合い方を全く知らないのだ。
だからこそ俺がどうにかしてあげたかった。昔ジルと話したことがある。ホントの彼はもっとかかわりを持ちたいと、そう思っているそうなのだ。数少ない同年代の友達だからこそ、彼の手助けをしてあげたい。そのためにはどうしたらいいかと考えていた時に…アストさんたちが現れたのだ。俺はすぐさまチャンスだと考え、このままジルと関係を持たせてあげるように誘導を始めた。
まだアストさんとしか関われていないけど、今のところいい感じにできていると思う。あんな感じで拗ねているような態度はしているが、あれはアストさんの言ったようにツンデレってやつだ。長い付き合いだから分かるけど、内心怒ってる訳でもないし、ただ初めて言われたからかなり恥ずかしがっているだけだ。それに…ジルがあんなに自分からほめたり話したりしているのは初めて見た。ジルはきっとアストさんのことを心から許せる人だって思ったのだろう。あとは…アストさんがジルさんに心を開くだけだ。
アトラ(もう…1人で抱えないようにさせたいっすからね…)
ジルのことを理解してくれる人は必ずいる。俺はずっとそう信じてきていた。
アトラ(信じればいつか叶う時がくる…。願うことは誰にでもできる簡単な魔法…。そうっすよね、アレオさん…)
俺には昔からずっと尊敬している人がいる。その人はギルドをやっていて、とても強かった。実力面だけという話ではなく、心も強い人だった。俺はその人から、信じることの強さというのを教わってきた。きっとその人からの教えがなければ、今の俺はいない。まだ俺がもっと小さい時の出来事だけど、今でも鮮明に覚えている。
アトラ(また…会いたいっすね…)
久しぶりに昔のことを思い出しながら、俺は再び歩き始めた。




