第5話 金猫種
アスト「ふぅ…これくらいあれば良い?」
そう聞きながら僕はかごを持ち上げて大量の果実をアトラくんに見せた。
アトラ「十分十分!いやぁ人手が足りなかったんで助かるっす!あっ、それはあそこの荷車の中に置いてもらっても良いっすか?」
そう言ってアトラくんは近くの荷車を指差す。
アスト「分かった」
慎重に持ちながら荷車へと運ぶ。
森の中に入ると、僕たちは二手に別れた。ユキト、シュート、ライキは果樹園で果物を、僕とアトラくんは草木や木になっている果実を集めていた。目撃情報があったモンスターも今の所見ておらず、順調に依頼をこなせている。
アスト「そういえば…アトラくんに聞きたいことがあるんだけど…」
アトラ「なんすか?」
アスト「アトラくんの髪…すごいキレイな金色だよね?それって生まれつきなの?」
アトラ「あー…これっすか?」
そう言って、アトラくんは自分の髪を触る。日に照らされているその髪はとてもきれいな輝きを放っている。
アトラ「そうっす、これは生まれつきなんっすよ」
アスト「へぇ…すごくキレイだよね。ホントに鉱石の金みたい」
アトラ「まぁ…あながち間違ってもないっすね」
アスト「…え?」
僕は思わず聞き返してしまった。すると、アトラくんは困ったような感じな顔をしている。
アトラ「俺、ただの猫種じゃないんす。アストさんは金猫種っていう種族を聞いたことないっすか?」
アスト「えっ…確か、猫種の中でもすごく希少な種族で…見たら幸運が訪れるとかいう噂がある…」
アトラ「確かにそんな話もあるっすね。でも実際はそんなこと全然ないっすよ」
アスト(あっ…ないんだ…)
おとぎ話のような話でもあったので、完全に信じていたわけではなかった。でもそんな話があるほど、金猫種はとても希少なのである。
アスト「その話をするってことは…もしかして…」
アトラ「お察しの通りっす。俺が、その金猫種なんすよ」
アスト(!?)
僕は驚きを隠せなかった。金猫種と言えば希少さはもちろんだが、とても数が少ない。それは遺伝子による影響が強く、たとえ両親が同じ金猫種の遺伝子であっても、金猫種が産まれる確率は低い。10万人に1人というほどの確率だ。そしてもし、金猫種以外の遺伝子なら、ほぼ確実に産まれない。だからとても貴重な種族だ。そして、なんといっても金猫種の特徴は、本物の金と思えるほどの金髪だ。その髪はとても貴重で、金と同じ価値があるとか…。それにしても、僕はよく希少種に会う確率が高い気がする…。僕は意外と運がいいのか…?
アスト「えっと…僕から聞いておいてなんだけど…それ言っても大丈夫なの?そういうのって、狙ってくる人とかもいるんじゃ…」
希少種はどうしても狙われる存在だ。金銭目的で狙ったり関わろうとする人も少なくない。特にアトラくんのような金猫種だけに限らず、金種とよばれる金色をした獣人は価値が高いため誘拐なども少なくないのだ。
アトラ「あぁ…それなら大丈夫っすよ」
アスト「えっ…そうなの?」
僕が聞き返すと、アトラくんは手を止めた。一瞬だけ、彼の顔が見えたのだが…ずっと変わらない笑顔…のはずなのに、その目は全く笑っているように見えなかった。僕がその時に一番に感じた印象は…冷徹だった。
アトラ「俺、こう見えても強いから」
アスト(っ!?)
その言葉を聞いた時、僕の体が震えた。彼は背中を向けている。だけど、彼の言葉にはただならぬ気配を感じた。それはまるで殺意にも感じる。決して僕に向けられているわけではないけれど、彼の特徴的な語尾もなくなって、まるで別人のようにも見えた。
アスト「……」
アトラ「…あ、あれ…?どうしたんすか?」
アトラはアストの目を除くように見た。そこでアトラは自分が失敗をしたことに気づく。アストの目はおびえている眼をしている。明らかに恐怖を感じている顔だ。
アスト「ア…アトラくん…怖い…」
小さい声で、アストはそうつぶやいてしまっていた。
アトラ「あっ…!?ご、ごめんっす…怖がらせるつもりじゃなかったんすけど…」
と言われつつも、僕の体は少し震えていた。決して悪意があってやったことではないことは分かるけど、それでも殺意に慣れてない僕にとっては耐えられないものだった。
アトラ「え、えぇと…こ、こういう時はどうすれば…あっ…!か、果実食べるっすか!?」
僕の様子を見てアトラくんはすごい焦っていた。…その反応だけで、彼の根は優しいことは分かった。
アスト「そ、そんなに気を使わなくて大丈夫だよ…その…ごめんね…気を悪くさせちゃったよね…?」
アトラ「ち…ちが…!?そ、そういうわけじゃないんすよ~!?」
アスト「えっ…ちょっ…と…!?っわ!?」
アトラくんはすごい勢いで近づいてきた…かと思うとすごい涙目になって抱き着いてきた。
アトラ「お、俺…昔から金種ってことで金目的で近づいてくるやつが多かったんす…そのせいでひどい目に遭ってきたこともあって…金種について話すとどうしても酷い態度をとっちゃうようになっちゃったんす…。で、でもアストさんがそういうつもりで聞いたわけではないことはわかってるっす!だ、だから…俺のことを怖がらないでほしいっす…」
アスト「わ…分かった分かった…!お…落ち着いて…!?」
先ほどまでの態度は大きく変わっていて、涙を流しているアトラくんはとても子供っぽく見えた。ころころ人格が変わるように見えるアトラくんだけど、多分これが本当の彼のような気がした。ちなみにそんな慌てているアトラくんをなだめるのにかなり時間がかかってしまった…。
アスト「…落ち着いた?」
アトラ「はい…その…ご迷惑をおかけしたっす…もう大丈夫っす」
そう言う彼の目はまだ赤いが、前の明るい目に戻っていた。
アスト「ホント…ビックリしたよ…何というか…うーん…」
アトラ「…まるで…別人格みたいに見えたっすよね?」
アスト「う…うん…」
アトラ「昔からそうなんすよ…別に俺は二重人格ってわけじゃないんす。でも…たまにあの冷徹みたいな…そんな感じの自分がでてくるんす。…原因は過去の出来事ってことはわかってるっすけどね」
アスト「そうなんだ…えっと…その過去のことって…」
アトラ「…そりゃあここまで言われたら気になるっすよね」
アスト「あっ…!?い、いや話しにくいことなら無理に言わなくても大丈夫だよ。そんなに辛いことなら思い出したくないだろうし…」
アトラ「優しいっすねアストさんは…。…あの、少し整理する時間をもらってもいいっすか?」
アスト「う、うん…!もちろんだよ」
そういうとアトラくんは眼を閉じてうつむいてしまった。今の彼が何を考えているかは分からない…分からないけど、彼がどんな決断をしてもしっかり受け止めてあげようと思った。
アトラ「あの…俺からも聞きたいことがあって…」
アスト「僕に…?」
アトラ「そうっす…俺にとっても大切なことなので…聞いてもいいっすか?」
アスト「う、うん…僕に答えられることなら…」
アトラ「ありがとうございますっす。あの…まずアストさんは星結の星座のリーダーなんっすよね?」
アスト「うん…まぁね」
アトラ「アストさんって…どうしてギルドをやろうと思ったんすか?子供でのギルドって、いろいろ問題があったと思うんすけど、それでもやろうと思ったんすよね?」
アスト「うん…成り行きではあるんだけどね」
アトラ「実は俺も…ギルドに興味があるんすよ」
アスト「そうなの?」
少し意外だった。ギルドにこそ加入してしまえば余計に目立ってしまい、なおさら危険性が高まると思った。…しかし考えてみると、僕らの正体を知ったとき、彼はすごくテンションが上がっていた。彼にとっては夢の様なものなのかもしれない。
アトラ「昔、あるギルドチームの人に命を助けてもらったことがあったんす。その人はとても強くて…尊敬できる人だったっす。俺も…そんな人になりたい」
そういう彼の目は、尊敬のまなざしで見る目だった。
アトラ「いつか…俺もギルドに加入して…その人に近づきたいんす。少しでも…早く…でも周りからも、ギルドからも反対されるし、どうしたら良いか分からなくなっちゃって…」
そう言うアトラの目は、少し諦めているような感じも伺える。その目が、どこか昔の僕のようにも見えてしまった。
アトラ「子供がギルドに加入することのデメリットもよく理解してるっす。でも…それでもやってみたいんすよ。だから…教えてくれないっすか?」
彼の目は真剣な目をしている。詳しい事情は分かっていないが、少なくともアトラくんの夢と過去の出来事はどちらも関係しているのだろう。
アスト「えぇと…どこから話せばいいかな…」
僕がギルドをやろうとしたきっかけ。結果的に言えばユキトに誘われたからだ。でも僕は過去にいろんな劣等感をいだいていて、それを変えるために行動を始めた。今思えば、姉さんと一緒に行ったあの丘からが始まりな気がする。それにユキトも、シュートも、ライキも僕に負けない強い思いがある。みんなが強い思いがあったからこそ、僕たちはギルドを設立できたのだ。
アスト「これは…僕が小さい頃からの話なんだけど…」
僕は今までのことを話した。どんな思いをして過ごしていたのか。どんな心変わりをしたのか、そのすべてを。アトラくんは話を遮ることなく、真面目に最後まで聞いてくれた。
アスト「まあ…こんなところかな、それで今に至る感じだよ」
アトラ「…すごいっすね」
アトラくんは一言呟いた。
アトラ「アストさんにも誰にも負けない思いがあったからギルドを始めたんっすね…」
アスト「はは…でも僕は全然強くないし…僕よりもあの3人の方が強いよ。みんなも僕と同じくらいの思いを抱えてるんだ。それなのに僕はよく足を引っ張っていてばかりで…情けないリーダーだよ」
アトラ「そんなことないっす!!アストさんも…とても強いっすよ!」
いきなりアトラが大きな声をだした。
アスト「ア、アトラくん…?」
アトラ「そこまで挫折やつらい思いをしたのに、立ち直れるなんて…すごいっすよ…。俺とは…違うっす」
アトラの言葉は、少しずつ弱くなっている気がした。背中を向けているからどんな顔をしているかは分からない。だけど、その背中からは…どこか寂しさのようなものを感じた。
アスト「あ…えっと…」
アトラ「…ごめんっす、俺のせいで暗い雰囲気にさせちゃったっすね…。でも少しだけ…スッキリしたっす」
アスト「…そっか、スッキリしたなら良かった」
アトラ「今の話も踏まえて…もっと自分の考えをまとめようと思うっす。だから…もう少し待ってもらっても良いっすか…?」
アスト「…うん、分かった」
アトラ「…よし!とりあえず今は気を取り直してもっと集めていこうっす!」
そういう彼の表情は明るいが、どこか気まずい雰囲気が流れている。何か声をかけたほうがいいのかとも考えるが、僕はアトラくんのことを何も知らない。一体なんて声を掛けたらいいのだろうか…。でも少なくとも彼は話すと決めているようだし、それを信じて待つのが良いのかもしれない。
アトラ「…あれ、アストさん?」
アスト「っ!?な、なに…?」
急に声をかけられ、思わず驚いた声を出してしまった。見てみるとアトラくんは両手にたくさんの果実を抱えている。
アトラ「荷車ってどこに置いたんすか?」
アスト「に、荷車…?えっと…それならあそこに…あ、あれ?」
僕は後ろを振り向き、荷車を置いた場所をみる。しかし、僕の後ろにあるはずの荷車がなかった。
アスト「いったいどこに…あっ!?」
僕は坂道があるほうを見た。すると、荷車がどんどん坂道を下っていっていた。どうやらスタンドの部分があまかったらしく、ブレーキがかかっていなかったようだ。
アスト「あっ!?ちょ…ちょっと待って!?」
アトラ「アストさん!?」
僕は急いで走り出した。しかし、坂道がどんどん急になってきているせいで、荷車のスピードもすごい勢いで上がっている。このままだと見失ってしまいそうだ。
アトラ「お、俺も急いで…でもとりあえず果実をおかないと…」
ユキト「おーい、何してるんだ?」
ちょうどその時、ユキトたちがアトラのもとにやってきた。一通り採取が終わったらしく、様子を見にきたようだ。
アトラ「あっ!ちょうど良いところに!実は…」
アトラは事情を説明した。すると、ユキトたちは申し訳なさそうな顔をしていた。
ユキト「あちゃ~…まあそんなおっちょこちょいなところもアストっぽいな。俺が追いかけてこようか?」
アトラ「大丈夫っす!俺が追いかけるんで!その代わりなんすけど、この拾っておいた果実をそっちの荷車に積んで待っててくれないっすか?すぐ戻るんで!」
ユキト「分かった、じゃあアストのことはお願いするぜ」
アトラ「了解っす!!」
アトラは元気に返事をして、急いでアストの後を追いかけていった。




