第14話 帰還
視点 アスト
次の日、僕たちは朝早くから研究所を出て、国へ戻るために森を歩いていた。捕らえた研究員たちはまだ気絶をしていて、目を覚ましていない。最悪死んだのではないかと不安になったが、息はしていたので生きてはいるようだった。全員を国に連れて行くことはできないので、ひとまず国に戻ってギルド協会に報告をすることにした。
ライキ「結構遠くまで連れてこられてたんだな…俺」
シュート「そうだよ、アストさんがいなければライキの居場所分からなかったんだからね」
ライキ「どうやって俺を見つけたのか不思議だったが…聞いた時は驚いたな。まさか探知までできるとは…」
アスト「あはは…ちょっとだけね…」
ライキ「……まぁ、あとは体力さえあれば完璧だったな」
アスト「うっ……ご、ごめん……」
結局、帰り道でまた体力切れになってしまい、僕はライキの背中におぶられていた。
ライキ「……それにしても、お前ちゃんと食べてるか? なんか、やけに軽いぞ」
ユキト「あっ!それは俺も思ったんだ。アストももっと食えよ!俺くらい!」
その言葉で、僕は今まで見てきたユキトの山盛りの皿を思い出してしまった。……あの量は、さすがに無理だ。
アスト「……無理……」
シュート「無理ですね……」
ライキ「無理だろ……」
ユキト「…え?」
満場一致、どう見てもユキトの食べる量は常識の範囲を超えているし、あれを食うのは絶対に無理だと思う。しばらく歩き続け、ようやく森の木々の間から王都の城壁が見えてきた。
ユキト「やっと戻ってこれたな!」
アスト「だね…ホントにみんな無事で帰れてよかった…あっ、もう自分で歩けるから大丈夫だよ」
ライキ「分かった」
シュート「とりあえず一件落着…ですね。ギルド協会に報告に行きますか?」
ライキ「そうだな、捕まえた研究員たちのことも、しっかり伝えなきゃならないし」
ネイファル国の門をくぐると、いつもと変わらない人々のざわめきや行き交う商人たちの声が出迎えてくれた。先ほどまで殺伐とした空間にいたからか、国に入った瞬間すごい安心感を覚えた。
ユキト「とりあえずまずはギルド協会に…」
兵士「き、君たち!?」
突然、門の近くにいた兵士が慌てた様子で僕たちに駆け寄ってきた。
兵士「よ、よかった……無事だったんだな!」
アスト「…えっ?僕たちのことですか?」
兵士「ああ、そうだ。おととい、この国の近くでオルドフェクスの目撃情報があってね。人攫いの危険があるってことで、国としても注意喚起を出してたんだ。それに加えて、昨日の昼頃から、学園の生徒が何人か姿を消してるって報告があって……」
シュート「あっ…確かに俺たち夜はずっといなかったですもんね…」
兵士「学園は大騒ぎだったんだよ?姿を見た者が誰もいないってことで、オルドフェクスに攫われたんじゃないかって……」
アスト「そ、そんなことになってたんだ……」
兵士「詳しい話はギルド協会に伝えてくれ。本当に君たちが無事で、本当によかったよ」
ライキ「……分かりました、しっかり報告してきます」
そう言って、俺たちは足を早めてギルド協会へと向かった。ギルド協会の本部では、受付嬢が彼らの報告を丁寧に聞き取り、すぐに上層部へと情報が伝えられた。
受付嬢「……わかりました。報告内容は確かに受け取りました。研究所の件はギルド側でも正式に調査を進めます」
アスト「よろしくお願いします」
ユキト「ふぅ…これでやっと一安心できるな」
アスト「だね、じゃあ僕らも学園に戻ろうか」
受付嬢「あっ、少し待ってください」
戻ろうと思った瞬間、僕たちは受付嬢に呼び止められた。
受付嬢「学園長から今回の件を報告するように指示を受けています。生徒が見つかり次第呼ぶように言われていますので、学園長がいらっしゃるそれまでの間、あちらの部屋でお待ちいただけますか?」
僕たちは顔を見合わせた。学園長が来るあたり、かなり心配をかけさせてしまったようだ。
アスト「わ、分かりました…」
案内された部屋へ移動すると、数分もしないうちに学園長が姿を見せた。
学園長「あなたたち…!良かった…無事だったんですね…!」
学園長は僕たちの姿を見るなり、学園長はほっとしたように深く息を吐いた。
学園長「ギルド協会から報告は受けています。オルドフェクスに連れ去れていたんだとか…本当に無事で良かったです」
アスト「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした…」
学園長「ひとまず、何があったのか聞かせてもらっても良いですか?」
僕たちは、これまでの出来事をすべて話した。ライキが連れ去られたこと。僕たちが探しに向かい、古い砦の地下にあるオルドフェクスの研究所を発見したこと。そして、研究員たちとの戦い、ライキの属性の目のこと……そして彼の過去までも。学園長は、一言も遮らずに、真剣な表情で僕たちの話を最後まで聞いてくれた。学園長は沈黙の中で、しばらく考え込むように目を閉じていた。やがて、ゆっくりと目を開く。
学園長「……なるほど、今回の件は、ただの無差別誘拐事件ではなかったのですね」
ライキ「はい…。やつらは…俺の目を狙ってた見たいで…」
学園長「属性の目…ですか。私も存在は知っていましたが、悪魔との契約以外での物は初めて見ましたね」
ライキ「あ、あの…俺は契約なんてしてなくて…!」
アスト「そうなんです…!彼の目は生まれつきのものです。近くで見た僕が保証します!」
シュート「お、お願いです!信じてください!」
僕たちはライキの疑いをはらそうと必死になった。学園長ならきっと信じてくれると信じて。
学園長「ええ、わかっていますよ。あなたたちのことは信じていますから」
アスト「あ、ありがとうございます!」
穏やかに微笑むその顔に、ライキは安堵したように肩の力を抜いた。こんな話にも信じてくれた学園長には感謝しかない。
学園長「まさかオルドフェクスがこの国の近くで活動しているとは……油断していました。この件は、学園としても本格的な調査を始めます」
アスト「……ありがとうございます、よろしくお願いします」
学園長「ええ、ここからは私たちに任せて――」
兵士「女王様、失礼します!」
突然、扉が勢いよく開き、一人の兵士が慌てた様子で飛び込んできた。
学園長「どうかしましたか?」
兵士「はい。先ほど、生徒たちの報告を受けて問題の研究所へ向かったのですが……確かに牢屋には研究員が閉じ込められていました。しかし…」
そこで兵士は、一枚の紙を取り出して差し出した。
兵士「中には、こんなものが残されていたとのことです」
学園長「これは……」
僕たちもその紙をのぞき込む。そこにはこう記されていた。
「君たちにはまたしてもしてやられたよ。しかし、まだ私の…いや、私たちの計画はこの程度では止まらない。そして…次また邪魔をした時は私も次は本気を出させてもらおう。また会える日を楽しみにしているよ。 ドクトル」
兵士「牢の中には誰もおらず、転移魔法陣の痕跡が発見されたとのことです」
ライキ「ドクトル……!」
学園長「……逃走手段を用意していたのですね。追跡は可能ですか?」
兵士「現在、追跡班が転移魔法陣の残留痕から転移先の特定を試みております」
学園長「分かりました、報告ありがとうございます。 」
兵士「はい、では私はこれで失礼いたします」
兵士さんは丁寧にお辞儀をして部屋を出ていった。学園長は手紙にもう一度視線を向ける。その顔は怒りに満ちていた。
学園長「厄介なことになりましたね…」
ユキト「あいつ…目を覚ましてたのか…!」
ライキ「…あの野郎…!」
ライキの拳がゆっくりと握られる。その瞳には怒りと悔しさが宿っていた。
シュート「まさか……また何か企んでるんじゃ……」
不安げな声でつぶやくシュートに、学園長ははっきりとした口調で答えた。
学園長「たとえ何か企んでいたとしても、今度はそう簡単にはいきません。大丈夫、あなたたちは私たちが守ります。だから、安心してください」
学園長は僕たち一人ひとりを見つめながら、強い眼差しでそう言ってくれた。
学園長「今回、あなたたちのおかげで最悪の事態は避けられました。オルドフェクスの研究拠点を突き止め、研究員を捕獲することができたのは大きな成果です。ネイファル国を代表して、心から感謝を伝えます」
そう言って、学園長は静かに、そして深々と頭を下げた。あまりに突然のことに、僕たちは慌てて立ち上がり、同じように頭を下げた。
学園長「あなたたちを危険な目に遭わせてしまったのは、私たち国と学園の落ち度です。二度と同じことが起きないよう、対策を徹底します。そして……これまでの功績に対して、私から褒美を授けさせてください。何か欲しいものはありますか?」
ユキト「えっ…ほ、褒美…!?」
その言葉にユキトがすぐさま反応した。その反応を学園長は笑いながら続けた。
学園長「ただし…成績を上げるのだけは、さすがの私でも難しいかもしれませんけどね?」
ユキト「えぇ!?う、嘘だろ!?」
アスト「まぁ…そうだよね」
シュート「ですね」
ライキ「当たり前だな」
僕たちが納得しているなか、成績が少し厳しいユキトは落胆していた。だからあれほど勉強を頑張れと言っておいたのに…
ユキト「ぐ…まぁ…お願いできないなら…仕方ないか…」
アスト(ホントにお願いするつもりだったんだ…)
すると、ライキが手を挙げた。
ライキ「あの…少し時間をいただいても良いですか?少し話し合いたくて」
学園長「えぇ、今すぐという訳ではないので、4人でゆっくり話し合ってください」
そう言われ、僕たちは顔を見合わせた。
シュート「な、何か…欲しいものあります?」
そう言われると意外とパッと思いつかない。他のみんなも同じのようで、頭を悩ませている。
ユキト「…あっ!」
ユキトが突然声を上げた。
ユキト「なぁ、あれを…言ってみないか?」
アスト「あれ?」
僕が聞き返すと、ユキトはみんなに小声で耳打ちをした。
アスト「えっ!? そ、それって本当にできるのかな……?」
ユキト「相談してみるだけだろ?ダメ元でも言ってみようぜ」
ライキ「……確かに、今の俺たちには、分からないことが多すぎる。だからこそ、頼れるものには頼るべきだな」
シュート「うん、俺も賛成です!」
ユキト「よし、じゃあ決まりだな!」
アスト「……えっと、学園長。少しご相談があるんですが……よろしいでしょうか?」
学園長「ええ、どんなことでも構いません。遠慮なく言ってください」
アスト「実は僕たち……ギルドを作りたいって思っているんです」
その一言に、学園長は一瞬驚いたように目を見開いた。
学園長「……ギルドを…作る?」
アスト「は、はい。僕たちはまだ子どもかもしれません。でも…それでも、ギルドを作りたい理由が僕たち全員にあるんです。年齢の問題で既存のギルドに入るのが難しいなら……自分たちで立ち上げるしかないって、そう話してました」
アストは真っ直ぐな目で学園長を見つめながら、しっかりと想いを伝えた。数秒の沈黙のあと、学園長はやわらかく微笑んだ。
学園長「……なるほど、素晴らしい志ですね」
アスト「えっ……?」
学園長「私はこれまで、多くのギルドと関わってきましたが、あなたたちのように若くして、自分の意志でギルドを立ち上げようとする生徒たちを見るのは初めてです。いくつかの条件はありますが、それでよければ…ギルドの設立を、今回の褒美とさせていただきましょう」
ライキ「ほ、本当ですか!?」
ユキト「やったな!」
学園長「ただし、ギルドを設立するということは、責任が常につきまといます。そして、人を守る立場にもなり、時には争いに身を投じる覚悟も必要になることもあるでしょう…。そのようなこともあるということを忘れないようにしてください」
シュート「……はい!」
アスト「本当に……ありがとうございます!」
学園長は穏やかな微笑みを浮かべながら、頷いた。
ユキト「よっしゃ!俺たちで最強のギルド、作ろうぜ!」
シュート「おーっ!」
そんな僕たちのやり取りを、学園長は微笑ましそうに見守っていた。
学園長「では、手続きが必要ですね。またあなたたちには先生を通じて呼び出しをするので、その時に学園長室に来てください」
アスト「はい、分かりました!」
学園長「それでは、私はこれから報告書の作成に入るので、先に失礼しますね。この後の授業は皆さんお休みで構いません。寮でしっかり休んでください。先生方には、私から伝えておきますから、明日からまたいつも通り授業に出てください」
ユキト「はい!」
ライキ「何から何までありがとうございます」
そう穏やかに言い終えると、学園長は扉の方へと歩き出した。すると扉の前で立ち止まり、手をかけながら振り返る。
学園長「それではまた…ギルドの話、楽しみにしていますよ」
その言葉を最後に、静かに扉が開き、カタンと音を立てて閉じられた。
ユキト「ギルドの設立は学園長のおかげでできそうだな!」
ライキ「まさか学園長が手伝ってくれるとは…」
アスト「そうだね…とりあえず僕たちも寮に戻らない?学園長がせっかく休みにしてくれたし…まだ疲れがとれてないから休みたくて…」
シュート「ですね、この2日間でいろいろありましたもんね」
ライキ「だな、俺も賛成だ」
僕たちはギルド協会の受付嬢と医術師にお礼を伝え、協会をあとにした。
———
受付嬢「あの……女王様」
学園長「はい?」
受付嬢は、どこか不安げな様子で口を開いた。先ほどの話を彼女は聞いていたのだ。
受付嬢「本当に、あのようなお約束をしてしまってよかったのでしょうか? 彼らはまだ子どもです。力はあっても、危険ではないかと……」
それは様々なギルドを見てきた彼女だからこそ感じる不安だった。ギルドの仕事は決して楽というわけではない。いつ命に関わる状況になるか分からない環境、常に命の危険性が付きまとうのだ。確かに、オルドフェクスの研究拠点を見つけ、研究員たちを捕まえたという大きな実績はある。しかし、そこには運も絡んでいたし、実力があったとしても、それだけでは生き残れない。そうやって実力があるからと言って帰らなくなった人を、彼女は何度も見てきていたのだ。
学園長「確かに彼らはまだ若く、経験も乏しいでしょう。本来なら子供だけのギルドなんて…危険なことしかありません」
受付嬢「それなら…なぜ許可を?」
学園長「それは…彼らの夢を潰したくなかったからです」
受付嬢「……え?」
学園長「私は彼らの意思を尊重したいのです。子供というのは、可愛いが故に大人たちが束縛してしまうことがほとんどです。その理由は決して失いたくない存在だから、つまり母性が働くのです。しかし、それをしていてはいつまで経っても成長することができない。大人になってから気づいても遅いこともあるのです」
受付嬢は黙って聞いていた。今でもあの少年たちにギルドを始めさせて良いかは疑問がある。でも、確かに学園長の言うことにも一理ある。
学園長「彼らは何度も壁にぶつかるでしょう。挫けそうになることもあるでしょう。この世界の厳しさを知ることになるでしょう。しかし、彼らならきっと乗り越えられる。その可能性を信じたいのです」
受付嬢「どうしてそこまで彼らのことを…?」
受付嬢は不思議に感じていた。あの学園長がそこまであの少年たちに期待しているとは思わなかった。受付嬢の彼女には分からないが、学園長にしか見えない魅力が彼らにあるのだろうか。
学園長「彼らに詳しい話を聞きました。アスト君は高い魔法の才能を持ち、あの宝石の力を自在に扱っています。ユキト君は戦闘経験が豊富で、剣術にも優れている。シュート君は炎を吸収する特異な能力と、上級魔法を扱う実力を備え、ライキ君は“属性の目”を持ち、双剣の使い手として見事な戦いを見せています。すでに4人とも、私たち大人以上の力を秘めているのです。そんな彼らが全ての壁を乗り越えた時、伝説とも言える人物になるかもしれないですね」
そう大袈裟に言う学園長に、受付嬢はただ話を聞くことしかなかった。でも、確かに彼らなら成し遂げれるかも…という思いもでてきた。
受付嬢「…改めて聞くと、すごい才能の子たちですね」
学園長「ええ、だからこそ…私は彼らの可能性に賭けたのです。確かに、年齢だけではギルドに入ることは難しいというのは現実ではありますが……逆に言えば、若いからこそ、無限の可能性を秘めているとも言えます。…私はその芽を潰したくない」
学園長は静かに彼らがいた部屋へ目を向ける。
学園長「彼らなら、きっとギルドに…いえ、世界中に新しい風を吹き込む存在になれるでしょう。……何しろ、この私が見込んだ生徒たちですから」
学園長は静かに目を閉じると、ふっと微笑んだ。
学園長(……時代が変わろうとしている。変えるのは私たちではない。新時代を生きようとする若者たち…あの子たちが、それを導く鍵になるかもしれませんね)
その胸に芽生えた期待をそっと抱きながら、彼女は再び歩き出した。もちろん不安はある。結局子供であるという事実は変わらないのだから。でも、彼らならきっとそんなことすらも乗り越えて行くのではないかと思う。彼らを見ていたら、そんな感じがするのだ。
前代未聞の子供のみのギルド。学園長…もとい女王は予感がしていた。彼らという存在がきっとこの世界に光をもたらしてくれると…。




