第1話 試験前夜
アスト「失礼します、学園長」
学園長「お待ちしておりましたよ皆さん。さぁ、そちらの椅子におかけになってください」
ギルドの設立を決めたあの日から数週間が経ち、僕たち4人は学園長室に集められていた。
学園長「さて、今日みなさんに集まってもらったのは他でもありません。ついに、皆さんがギルドを設立するための準備が整いました」
シュート「本当ですか!?」
ついにこの時がやって来た。ここしばらくはギルドを設立するには設立費用など、いろいろ用意しなければならない準備期間であったが、なんと学園長がその費用や準備をすべてしてくれた。褒美とはいえここまでやってくれるとは思わず、学園長には感謝しかない。
学園長「はい、しかしあなたたち4人のギルドは設立できる状態にはなりましたが、設立するためには試験を受けてもらう必要があります」
ライキ「試験…!ついにここまで来たんだな…!」
ギルド試験は自身の実力を証明する大切な試験だ。これはギルド設立に関係なく、加入などでも受けなければならない。ギルドに来る依頼は様々な種類があるが、多いのは討伐依頼だ。そのため、ギルド協会では実力面を大切に見ている。
学園長「試験は明日行われます。皆さん自分の力を思う存分発揮してくださいね」
アスト「あ、明日…!」
試験は明日だというのにもう緊張してきた。学園で受けるテストとは訳が違うのだ。この日は明日に備えるために解散ということになり、それぞれ自由に過ごすことになった。
———
アスト「集中…集中…」
僕は訓練所に来ていた。どんな試験が行われるか分からないため、せめて少しでも魔法の練習をしておこうと思っていた。あれから宝石魔法の技術をさらに高めていて、新しい魔法も習得することに成功した。
アスト「…宝石魔法 ルビーフレア・エンブレイズ!」
ドゴーン!!
激しい轟音を立てて、魔導人形を破壊する。日々の練習で宝石魔法もそれなりに慣れてきた。特に、炎はかなりの破壊力が出るようになり、今ならゴーレム型の大きな魔導人形も1発で破壊できるようになった。
アスト(大丈夫…僕は確実に強くなってる…!)
シュート「あれ?アストさん?」
アスト「わっ…!?シュ、シュートか…ビックリした…」
突然声をかけられて驚いたが、振り返るとシュートが立っていた。
シュート「す、すみません…驚かせるつもりはなかったんですけど…アストさんも練習に来てたんですか?」
アスト「うん…明日って言われると、どうにも不安になっちゃって…」
シュート「分かりますよ、俺も同じです。こう…何かしてないとそわそわしちゃうんですよね」
アスト「でも…こんな早くここまでくるとは思わなかったよ。ギルドを作るって話をしたのも、ついこの前だったのに…」
シュート「ホント、人生って何が起こるか分からないですよね。でも俺はワクワクしてますよ。俺たち4人だったらどんなことでも乗り越えられる…そんな感じがするんです!」
シュートは楽しそうに話す。もちろん僕も楽しみにしている。1年前もギルドの加入は考えていなかったわけではない。だけど、身体的にも弱い僕が入ったら迷惑なんじゃないかとか、いろいろ考えてしまっていたため、自然とギルドには入らないような思考になっていた。だけど、気づけば友達と一緒にギルドを作ろうとしている。今までの僕には考えられなかった話だ。
シュート「一緒に頑張りましょうアストさん!」
アスト「もちろん!」
シュートから拳を出され、僕はそれに応えてグータッチをした。
ユキト「あれ?2人もいたのか?」
ライキ「何だ、結局全員揃ってしまったな」
アスト「うわぁ!?び、ビックリした…!?」
ユキト「わ、悪い…驚かせるつもりはなかったんだ」
シュート「あれ、さっきもこの光景を見たような…」
ライキ「どうかしたか?」
シュート「い、いや…なんでもないよ。それより2人はどうしてここに?」
ユキト「多分2人と一緒だ。俺たちは明日に向けて少しは練習しとこうって思ってな」
完全に意図はしてなかったのに、結局4人全員が揃っていた。理由も全員一緒だし、ここまで偶然が重なるのもすごい。
シュート「そうなんですね!予想通り俺たちも同じです!まさか全員同じこと考えてるなんてすごいですね!」
ユキト「だな!どうせだし、明日の調整に向けて全員で練習しようぜ!」
僕たちは夜遅くまで4人で練習した。終わる頃にはみんな疲れ切っていて、こんな状態じゃ明日のパフォーマンスに影響出るんじゃないかとみんなで笑った。昔はずっと1人だったのに、今はこうやって友達もできて、毎日楽しい生活が送れている。そして、明日は人生を変えるであろうギルド設立の試験。だけど、この4人なら乗り越えられるという、根拠はないけどそんな気がした。そして、その訓練場での帰り道…。
アスト「はぁ…ホントに疲れた…」
ユキト「だな…はは、流石に調子に乗りすぎたなぁ…」
シュート「俺お腹すきました…」
ライキ「…俺も」
時間を気にせず練習していたので、僕たちは暗くなっていることに気付かなかった。食べに行こうにも、既に近くのお店は全て閉店している。
ユキト「学園の食堂も空いてないだろうしな…どうする?」
アスト(食欲魔人のユキトがいたら大変なことになるからなぁ…どうしよう…)
このまま食べないで明日を迎えるというのはかなりきついだろう…主にユキトが…。空腹の状態になって暴れられても困るし…何か少しでも良いから腹を満たせる方法はないものか…。
ユキト「…何かアスト今失礼なこと考えてなかったか?」
アスト「あえっ!?そ、そんなわけ…ないよ?」
アスト(す、鋭すぎる…!)
ユキト「ん…ならいいけどな」
ユキト(分かりやすすぎる…でも何故かそういう反応が可愛く見えるんだよな…)
シュート(アストさんって噓下手くそなんだ…俺でも分かる…)
ライキ(アストでも失礼なこと考えるんだな…おおよそユキトの食欲のことでいじったりしたことでも考えてたんだろうな…)
と、実は全員からバレバレだったし、中には考えてたことまで分かっていた人もいたのだが…アストがそれを知る由はなかったのであった…。
アスト(と、とりあえずどうにかしよう…。…あっ、そうだあの方法なら…)
アスト「そういえば、まだ寮の方は台所が開いてるよね?」
ユキト「開いてると思うぜ、それがどうかしたのか?」
アスト「確か、台所に使っても良い食材があったよね?それを使って僕が軽く軽食を作るよ」
ユキト「えっ!いいのか!?」
アスト「うん、ユキトには一度作るって約束してたからね。久しぶりに作るな…腕なまってないといいけど…」
シュート「アストさんは料理もできるんですね?」
ユキト「らしいぜ、俺もアストの料理は食べたことはないんだけどな」
ライキ「すごいな…何でもできるんだな」
アスト「いや…ホントに軽くできるだけだよ…?そんなに期待はしないでね?」
ユキト「アストはムースタン国の出身だからな、なおさらどんな料理が出てくるか楽しみだよな!」
シュート「確かに…!そう考えるとさらにお腹すいてきましたね!」
アスト「いや話聞いて!?」
変な期待をされてしまったせいで、プレッシャーが出てきてしまった。だけど言ってしまったからにはもう逃げ出せないので作るしかない。
アスト(だ、大丈夫…だよね?)
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アスト「はい、お待たせ」
寮の台所にはそれなりに材料が残っていた。調味料もかなりの種類があったため、それなりに良い料理ができたと思う。と言っても残っていた肉と野菜を炒めて調味料で味付けをしただけの簡単な料理だ。
ユキト「待ってました!」
シュート「すごいいい匂い…!」
ライキ「悪いな、ごちそうになって」
アスト「いいよいいよ、僕も久しぶりに料理ができて楽しかったし」
ユキト「それじゃ…いただきまーす!」
シュート「いただきます!」
ライキ「いただきます」
パク…
3人「……」
3人が一口食べた瞬間、食べる手が止まってしまった。3人ともピクリとも動かない。
アスト「……あ、あれ?えっと…3人とも大丈夫?」
声をかけるが、3人は何の反応も示さない。
アスト「も、もしかしておいしくなかった!?ご、ごめん!すぐに水を…」
3人「うまあっ!?」
アスト「うわぁぁ!?!?び、びっくりしたぁ…!」
突然大声をあげられて心の底から驚いた…というか今日だけでずいぶんと驚かされすぎている気がする。
ユキト「す、すげぇ…!!こ、これどこでも買えるような肉だよな…!?何でこんなに柔らかいんだ…!?口の中で溶ける…!!」
シュート「や、野菜もすごい旨みが詰まってます!ただ炒めてるだけなのに…!!」
ライキ「は、初めて食べたこんな料理…い、今まで食べた料理の中で一番美味い…!!」
アスト(お…おぉ…食いつきが良い…)
アスト「そ、そうなの…?なら良かった…ん?」
どうやらまずかったわけではないようで安心した…が何やら嫌な予感がする…3人はすごい勢いで料理を平らげてしまった。そして…すごいキラキラした目で僕のほうを見てくる。こうなった時に次に出てくる言葉といえば…
3人「おかわり!!」
アスト(ですよねぇ…!?)
アスト「い、いや待って…!!もう材料ないよ!?」
美味しいと言ってくれたのは嬉しいが…僕は彼らの胃袋の大きさをよーく知っている…特にユキト…ここで何とか断っておかないと、いつも食堂で食べているあの量を僕が作らないといけなくなる。そんなことになったら…絶対に体力がもたない。というか…食堂のおばちゃんたちはいつもこの量以上をつくっているのか…すごすぎる…。
アスト「ま、また今度作ってあげるから…今日はこの辺で…」
ユキト「…俺今から材料買って来る!夜遅くてもまだ空いてる店はあるはずだ!」
シュート「俺も行きます!!」
ライキ「運ぶのは任せろ、速さには自信がある」
ユキト「よし!行くぞ!」
2人「おぉー!」
と…僕の言葉も聞かずに3人は城下町の方に行ってしまった…。もちろんその3人を止めることが僕にできるはずもなく…
アスト(あぁ…僕、死んだかも…)
諦めて突っ立っていることしかできないのであった…。
———
そして次の日、いろいろあったが試験日がやってきた。
学園長「それでは皆さん、準備は…ってア、アストくん…?大丈夫ですか…?」
アスト「だ、大丈夫です…」
アスト(もう…しばらく料理はしたくない…)
学園長は僕たち1人1人の目を見ていたが…明らかに僕の顔色が悪いことに気づいたのだろう。不安そうな表情で僕の顔を見ていた。昨日の夜はしっかりご飯を食べて今日に向けて備えることができたのだが…ユキトたちにいくら料理を作っても作っても全部食べられてしまっていた。そのせいで料理をずっと作っていたから、今すごく疲れていた…何なら夢の中で材料に襲われ、永遠に料理をさせられつづける夢を見たほどだ…すごく意味不明な夢だけど…。
ユキト「大丈夫だアスト、緊張しなくてもいつも通りやれば良いんだ!」
ライキ「そうだ、何も緊張することなんてないさ」
アスト「う、うん…」
2人に励まされたが…僕の顔色が悪いのは疲れのせいだということに気づいていないのだろうか…。いつもならシュートとライキも突っ込んでくれるのに…。
学園長「緊張しないでくださいね皆さん。あなた達の力は私も認めているので大丈夫ですよ。自信を持ってください。それでは、向かいましょうか」
アスト(…ふぅ、とりあえず気持ちを切り替えないと)
学園長はギルド協会へ歩きだした。僕たちも覚悟を決めて、その後ろを追いかけた。




