第13話 アストとライキ
視点 ライキ
ライキ「それから…俺はずっとシュートと過ごすようになったんだ。あの日まではまったく楽しくない人生だった…でもシュートと出会ってから、俺の生活は大きく変わったんだ」
アスト「…シュートらしいね」
ライキ「だろ?昔からそういうやつなんだ」
アスト「すごく良い思い出が詰まってるんだね…大切にしてあげなよ。そのペンダント」
ライキ「あぁ…もう2度と離さない」
俺はペンダントを握りしめる。このペンダントをもらったあの日から、外にでて体力をつけたり、自分で剣術や魔法を身につけるために、ずっと森で特訓をしたりしていた。シュートを守れるようになるために。
ライキ「俺はもっと強くなりたい。俺にとっての大切な存在を、もう2度と失いたくないんだ。…今日は使い方を間違えたけど…いつかはこの…属性の目も使いこなせるようになりたい。俺が力を理解して扱えるようになれば、この目の力におびえる必要もなくなると思うんだ」
アスト「ライキさんが努力をしてるのは剣の動きで分かるよ。いや…ごめん…僕はあまり剣術は詳しくないんだけど…でも、それでもたくさん訓練したんだなって思うよ。あのユキトを追い込めてたんだし」
ライキ「あれは…あいつの粘り勝ちだったからな…次は体力をもっとつけないとな」
アスト「だね、体力さえつけたらユキトにも勝てちゃうかも。それに…属性の目も、制御できるようになれば、きっとライキさんにとって大きな力になるよ…あ、目で思い出した。目の痛みはもう大丈夫?属性の目の治療なんてしたことがなかったから…とりあえず魔力は全部吸収したけど…」
ライキ「あぁ、もう痛みはない。出血も止まってるし、もう大丈夫だ」
アスト「良かった…さすがにあんな膨大な魔力が暴走したら大変だからね…」
ライキ「そうだな、さすがに眼帯を奪われた時はどうなるかと思った…」
この眼帯は特殊な素材を使っていて、マナを受け付けないようにできている。そのため、眼帯の中で目をあけていても、マナを吸収せずに普通に過ごすことができるようになっている。
ライキ「それにしてもアスト君、こそ大丈夫か?まさか魔力を吸収する魔法を持ってたなんて思わなかったから…かなり吸い取っただろ?身体に異常はないのか?」
俺はあの時、必死に目を閉じていたがそれでもかなりの量のマナを吸収していた。またあの大爆発を起こしてもおかしくないくらいのエネルギー量だ。それを、アストくんは1人で吸収していた。普通に考えると危険な行為だ。
アスト「うん、大丈夫、最初は体中がビリビリして動けなかったけど、今はもう立てるぐらいにまで回復したよ」
ライキ「…は?」
アストくんはそう軽く言った。でもそれはおかしい。あれほどの魔力を吸収しているのに、何かしら体に異常が起きていないはずがない。魔力を吸収するということは、吸収した分が魔力袋に蓄積される。もし、魔力袋の許容量を超えてしまうと、魔力が溢れ出すだけでなく、「魔力暴熱」という現象が起きる。魔力暴熱とは魔力袋が魔力の負荷に体や細胞が耐え切れず、暴走して熱へ変わってしまう現象だ。身体中に灼熱とも思えるほどの熱に焼かれ、最悪死にも至る可能性もある現象だ。
ライキ「…ホントか?」
アスト「ホントだよ?」
俺はつい聞き返してしまった。身体がしびれる程度で済むわけがない。でも確かにアストくんを見た感じ、魔力暴熱も起きていないし、何ともなさそうだ。仮に…本当に今起きていることが事実なら…アストくんが何ともない状態になっている可能性は1つ。アストくんの持つ魔力袋は、属性の目が生み出す魔力量では追いつけないほどの許容量がある…ということだ。
ライキ「なぁアストくん…君は俺たちとは比べものにならないほどの魔法の才能があるんじゃないか?」
アスト「えっ……魔法の才能って……?」
ライキ「だってそうだろ?属性の目が暴走したときの魔力を、吸収していたんだぞ?それってつまりお前の魔力袋がそれだけの量を受け止められる程の許容量があるってことだ。魔力袋の大きさってのは、魔法の実力を測る上でひとつの基準になる。それに、シュートから聞いたが、お前は宝石魔法も使えるんだろ?自分で思ってるよりずっと凄い力を持ってるんじゃないか?」
アスト「そんな……そんなはずないよ…僕は……」
アストくんは目を伏せ、拳をぎゅっと握った。
アスト「……昔から、何をやっても周りの人には敵わなかったんだよ…。魔法の練習だって誰よりも時間をかけてたのに、結局他の竜人の人には追いつけなかった…。能力に目覚めたのも突然だし…。だから、僕には才能なんて…」
先ほどの俺に説教してきたあの強気な状態だったのはなんだったのか、すっかりアストくんは気弱になっている。きっと彼は、自分に自信を持つことができないのだろう。
ライキ「努力してるからって、すぐ結果が出るとは限らないさ。でもなアストくん、お前は確かに俺を助けてくれた。魔力の吸収だけじゃない。回復魔法で俺のことを治してくれたし、宝石魔法で俺を探し出してくれた。回復魔法なんて魔法の種類の中でも魔力の消費量がトップクラスで高いほうだ。そんな結果をたくさん出している事実が何よりの証拠じゃないか?魔法の才能があるってさ」
アスト「……ライキさん」
俺は少し笑って、アスト君の背中を軽く叩く。さっきアストくんは俺にたくさんのことを気づかせてくれた。なら俺もアストくんに気づかせてあげるべきだ。
ライキ「自信を持てよ、俺は間違いなくお前は強いと思うし、才能もある。君にしかできないことがあるんだ。他の人たちなんてすぐに出し抜けるさ」
アスト「……ありがとう」
アストの声は小さかったけれど、その瞳には迷いが少しずつ晴れていく光が宿っていた。悩みを持たないひとなんてこの世にいない。そしてアストくんはこれから大切な仲間になる。アストくんは俺の属性の目や過去のことを全て知ったうえで、俺のことを受け入れてくれた。なら俺も、彼の悩みも過去も受け入れて、彼の助けになりたい。
ライキ「そういえば……俺、アストくんとユキトには謝らなきゃいけないことがあるんだ」
アスト「え?謝ること……?」
ライキ「……その、俺の属性の目のことを黙ってたことだ。どうしても喋れなくて…悪かった」
そう言うと、アストくんは困惑した表情をしていた。
アスト「えっと…い、今更だね?」
ライキ「そ、そうかもしれないが…改めて謝ろうって思ったんだ…もう知ってるとは思うが、俺はこの目で嫌われていたから…また嫌われたくなかったんだ…」
つい視線を落としながら、静かに続けた。
ライキ「どうしても怖いって理由で…俺は他人を信じることができなかった。…今思えば、もし俺が誰かに助けを求めてたら…こんなことにはならなかったはずだ」
アスト「…しょうがないよ、悪いのは全部オルドフェクスなんだ。ホント…迷惑しかかけないやつらだと思うよ」
ライキ「…意外とアストって怖いもの知らずだよな」
アスト「えっ…そ…そうかな?」
あの犯罪組織に向かってはっきり言うアストくんにはむしろ尊敬までしてしまう。
ライキ「属性の目を持っているって分かっても、こうやって接してくれるんだ。そんなことをしてくれるのはシュート以外では初めてなんだ。だから…どうしても俺は不思議に感じる…アストくんは…俺のことが怖くなかったのか?」
俺の問いに、アストは考える素振りを見せた。どんな言葉が帰ってくるのかと、少し気になっていた。昔の俺なら、なんていわれるか分からなくて怯えていたかもしれない。だけど、もう今の俺に怯えは…ない。すると、アストくんは優しく微笑んだ。
アスト「確かに、属性の目って、悪魔の目とか言われてるらしいけど、僕はライキさんを見てて……そんな風には思わなかった。すごく良い人なんだなって思ったよ。怖くなんてない。だって、酷い人だったらあんなにカッコよくハシゴから落ちた人を助けないよ。あの時から良い人なんだなってのは分かってたから」
ライキ「アストくん……」
あの時とっさに体が動いたことを思い出してしまい、少し恥ずかしかった。だが、俺の胸の奥がじんわりと温かくなった気がした。
ライキ「……ありがとう」
アストくんは笑いながら静かに首を振った。
アスト「あはは…僕は特に感謝されることは何もしてない…いや偉そうな説教はしちゃったけど…」
ライキ「はは、今のアストくんからは到底考えられないな。あれくらい強気になれるほど自信を持てたら良いんだけどな」
アスト「い…いや…あの時は…ついあつくなっちゃっただけなんだよ…」
ライキ「俺のことも呼び捨てになるほどあつくなったんだな?」
アスト「うっ…ほ、ホントにごめんね…」
ライキ「はは、気にしないでくれ」
夜の空気は静かだったけど、不思議と冷たくはなかった。言葉にしなくても、今この瞬間だけは、確かにお互いを少しずつ分かり合えてる、そんな気がした。
ライキ「あ、あと…さ、今度からは俺のことは呼び捨てで良いから、俺も…今度からは呼び捨てで呼んで良いか…?」
こんなことを自分から言うのはなかなかないので、少し恥ずかしくなってしまった。
アスト「もちろん、これから長い付き合いになるかもだしね。改めてよろしく、ライキ」
そう言って、アストは手を出してくる。俺もその手を取り、2人で握手を交わした。俺よりも小さい手なのに、すごく大きく感じた。
アスト「……ふわぁ……なんだか、話してたら眠くなってきちゃった」
ライキ「俺も……ちょっと、まぶたが重くなってきたな」
アスト「じゃあ、また明日だね。……床はちょっと硬いけど、我慢しないと」
ライキ「……あぁ、そこは妥協だな……はぁ……仕方ない」
ふたりは並んで、ゆっくりと体を横たえた。硬い床は変わらないけれど、不思議とさっきよりは落ち着いて眠れそうな気がした。




