第13話 アストとライキ
視点 ライキ
アスト「ううっ…すごく良い話…。」
俺の過去話を聞いて、アスト君は小さな涙をこぼしていた。
ライキ「なんだ?泣いてるのか?」
アスト「そりゃあ…泣いちゃうよ。そのペンダントが大切な物なのは分かってたけど、すごく良い思い出が詰まってたんだなって…。」
ライキ「まぁな。俺にとっても、人生が変わった1番の思い出だって思う。その日をきっかけに、俺はシュートを守りたいって思うようになって、訓練をするようになった。あの剣術も、しっかり努力したんだ。」
シュートが大切な存在になって、俺は失いたくないと思うようになった。その日から、外にでて体力をつけたり、自分で剣術や魔法を身につけるために、ずっと森で特訓をしたりしていた。
アスト「努力をしてるのは、剣の動きで分かるよ。いや…あまり剣術は詳しくないけど…でも、それでもたくさん訓練したんだなって思うよ。あのユキトを追い込めてたんだし。」
ライキ「あれは…あいつの粘り勝ちだったからな…。次は体力ももっとつけないとな。」
アスト「だね、体力さえつけたらユキトにも勝てちゃうかも。」
俺は気づけばアスト君にいろいろと喋っていた。実を言うと、嫌われるトラウマもあって、あまり人と関わるのは苦手になっていた。だけど、アスト君とユキトは喋っていてどこか安心する。こんな気持ちになるのはシュートしかいなかったのに。もしかすると、心のどこかでは2人のことを信頼しているのかもしれない。
アスト「そう言えば、もう目と魔力は大丈夫?」
ライキ「あぁ、アスト君のおかげで魔力が暴走せずにすんだし、体ももうずいぶん楽になった。」
アスト「それは良かった。さすがに…あんな膨大な魔力が暴走したら大変だからね。」
ライキ「そうだな、さすがに眼帯を奪われた時はどうなるかと思ったな…。」
俺の属性の目は、魔力の制御が難しく、放っておけば簡単に暴走してしまう。それを抑えてくれているのが、この特殊な眼帯だ。魔法を抑制する素材でできていて、魔力の出力を大幅に軽減してくれる。そのおかげで、俺は日常生活も問題なく送れていた。
ライキ「それにしてもアスト君、こそ大丈夫か?まさか魔力を吸収する魔法を持ってたなんて思わなかったから…かなり吸い取っただろ?身体に異常はないのか?」
アスト「うん、大丈夫。最初は体中がビリビリして動けなかったけど、今はもう平気だよ。」
ライキ「…ホントか?」
アスト「ほ、ホントだよ…!」
俺はアスト君のことを不思議に思った。ホントにそうならアスト君にはかなりの魔法の才能があると思う。なぜなら、属性の目の暴走した時の魔力は尋常じゃない程の魔力がでる。それを吸収して、ビリビリした程度で済むのは、その魔力を入れられる魔力袋があるということだ。
ライキ「なぁアスト君。自分のことを弱いとかいろいろ言ってたけど、ホントは魔法の才能があるんじゃないか?」
アスト「えっ……魔法の才能、って……?」
ライキ「だってそうだろ?属性の目が暴走したときの魔力を、吸収できたんだぞ?それってつまりお前の魔力袋がそれだけの量を受け止められるってことだ。魔力袋の大きさってのは、魔法の実力を測る上でひとつの基準になる。それに、シュートから聞いたが、お前は宝石魔法も使えるんだろ?自分で思ってるよりずっと凄い力を持ってるんじゃないか?」
アスト「そんな……僕はただ……!」
アスト君は目を伏せ、拳をぎゅっと握る。
アスト「……昔から、何をやっても周りの人には敵わなかったんだよ…。魔法の練習だって誰よりも時間をかけてたのに、結局他の竜人の人には追いつけなかった…。能力に目覚めたのも突然だし…。だから、僕には才能なんて…。」
ライキ「努力してるからって、すぐ結果が出るとは限らないさ。でもな、アスト君。お前は確かに俺を助けてくれた。魔法を使ってな。その事実が何よりの証拠じゃないか?魔法の才能があるってさ。」
アスト「……ライキさん。」
俺は少し笑って、アスト君の背中を軽く叩く。
ライキ「自信もてよ。俺は間違いなくお前は強いと思うし、才能もある。君にしかできないことがあるんだ。他の人たちなんてすぐだし抜けるさ。」
アスト「……ありがとう。」
アストの声は小さかったけれど、その瞳には迷いが少しずつ晴れていく光が宿っていた。
しばらく沈黙が流れたあと、俺はふと口を開いた。
ライキ「そういえば……俺、アスト君とユキトには謝らなきゃいけないことがある。」
アスト「え?謝ること……?」
ライキ「……その、俺の属性の目のことを黙ってたことだ。」
つい視線を落としながら、静かに続けた。
ライキ「シュートから俺の目のこととか…全部聞いたんだろ?」
アスト「……うん。」
ライキ「俺……正直、怖かったんだ。言ったら、また怖がられるんじゃないかって。だから、どうしても打ち明けられなかった。この目で誰かを傷つけるかもしれないって思うと……余計に。」
そこまで言って、俺は少し息をついた。胸の奥に溜め込んでいたものを、言葉にしてしまうのはやっぱり怖かった。でも、それでも…アスト君には言えた。
ライキ「……もし、この目が怖いなら……無理に一緒にいなくてもいいからさ。」
アスト「……えぇ?何を今更…。」
ライキ「……え?」
アスト「確かに、属性の目って、悪魔の目とか言われてるらしいけど、僕はライキさんを見てて……そんな風には思わなかった。すごく良い人なんだなって思ったよ。」
そう言って、アスト君はふわっと微笑んだ。
アスト「怖くなんてない。だって、酷い人だったらあんなにカッコよくハシゴから落ちた人を助けないよ。あの時から良い人なんだなってのは分かってたから。」
ライキ「……アスト君……。」
あの時のことを思い出し、少し恥ずかしかったが、胸の奥がじんわりと温かくなった気がした。
ライキ「……ありがとう。」
アスト君は笑いながら静かに首を振った。
アスト「あはは、僕は特に何もしてないんだけどね…。」
夜の空気は静かだったけど、不思議と冷たくはなかった。言葉にしなくても、今この瞬間だけは、確かにお互いを少しずつ分かり合えてる、そんな気がした。
ライキ「あ、あと…さ、今度からは俺のことは呼び捨てで良いから、俺も…今度からは呼び捨てで呼んで良いか…?」
こんなことを自分から言うのはなかなかないので、少し恥ずかしくなってしまった。
アスト「もちろん!これから長い付き合いになるかもだしね。改めてよろしく。ライキ。」
そう言って、アストは手を出してくる。俺もその手を取り、2人で握手を交わした。俺よりも小さい手なのに、すごく大きく感じた。
アスト「……ふわぁ……なんだか、話してたら眠くなってきちゃった。」
ライキ「俺も……ちょっと、まぶたが重くなってきたな。」
アスト「じゃあ、また明日だね。……床はちょっと硬いけど、我慢しないと。」
ライキ「……あぁ、そこは妥協だな……はぁ……仕方ない。」
ふたりは並んで、ゆっくりと体を横たえた。硬い床は変わらないけれど、不思議とさっきよりは落ち着いて眠れそうな気がした。




