第9話 ライキの行方
視点 シュート
俺たちは牢屋の道を進み、アストさんたちが倒した研究員の人が来た道を進む事にした。ユキトさんがいるおかげで匂いの追跡ができるので、道に迷うことはなかった。
アスト「誰にも会わないね…」
アストさんがぽつりと呟いた。確かに、ここまで進んできても、他の研究員の人は見当たらない。それに不思議なこともある。こんなにたくさんの牢屋があるのに、中を見ても誰も入っていないのだ。オルドフェクスのことなので、誰かしらは捕まえていると思っていたので、とても不気味に感じた。
ユキト「そこまで匂いはしないな…。ホントに近くにはいないみたいだ」
鼻のいいユキトさんが言うのでそうなのだろう。
アスト「結構歩いてきたけど…ずっと牢屋が続いてるだけだね。もしかしてこの牢屋は使ってないのかな?」
ユキト「それもあるかもな、砦自体がかなり古いものだ。長年放置されてそうだし…。っと、どうやらここまでみたいだな」
目の前に1つの扉が見えてきた。それとともに突き当たりに来たので、牢屋はここで終わりの可能性がある。
ユキト「よし…行くぞ…!」
アスト「うん…!」
シュート「はい…!」
俺たちは覚悟を決めて扉の先へと向かった。
アスト「ここは…研究所…?」
扉を潜ると、そこは先ほどまでの牢屋とは違い、たくさんの棚が並んだ大きな場所に出た。壁にはたくさんのパイプやガラス管が伝っていて、不気味な紫色の液体のような物が流れていっている。
シュート「すごい数のポーション…」
ユキト「不気味だな…しかも変な匂いもしてるぞ」
アスト「色々な実験をしているみたいだから、匂いが混ざってるのかもね。あまり吸わない方がいいかも…」
ユキト「あぁ、急いで次の部屋に行くか」
シュート(何でこんなにポーションが…悪魔魔法の研究のためにしては多い気がする…)
アスト「シュート大丈夫?次に行くよ?」
シュート「っ!は、はい…!」
シュート(今はそんなこと考えてる暇はない…。急いでライキを助けないと…!)
俺たちは研究所の中を通り抜け、さらに奥へと足を踏み入れていった。
アスト「ずいぶん広いね…?あの砦の地下にここまで広い空間があるなんて…」
シュート「確かに…見た目からは想像できなかったですね…」
ユキト「あえて使われなくなった砦を使うことでバレないようにしてるんだろうな…いつ奴らに会うか分からないし、油断はするなよ」
アスト「う、うん!」
かなり進んでいるはずだが、一向にライキのいる場所が分からない。匂いではこの先にいるのは確かなのだが、ここに入ってからいろんな匂いがするため、なかなかライキの匂いをたどれなかった。
アスト「ホントにこっちであってるのかな…?疑ってるわけじゃ無いけど、さっき上で匂いがしたって言ってたよね?それにしてはちょっと移動しすぎなんじゃないかな…?」
ユキト「こっちにいるのは間違い無いぜ。俺の予想なんだが、さっきまでライキの匂いがしたのは、その時に牢屋側にいたんだと思うぜ」
アスト「えっと…どういうこと…?」
ユキト「俺が上にいる時、ライキの匂いと一緒に別の匂いもするって言っただろ?その時は下の牢屋側にいたんだ。そしてその後、こっちの研究所側にライキを連れて移動した。だから、こっちの研究所側で匂いがしたんだ」
アスト「な、なるほど…」
アストさんが不安になるのも分かる。俺たちはもう既に後戻りができないところまで進んでしまった。ここは、あの有名な犯罪組織オルドフェクスの研究所の可能性がある。捕まってしまったら何をされるか分からない。もしかしたら、またあの日のようなことをされるかもしれない。そう考えるだけでも俺はとても怖かった。
ユキト「静かに…!今…足音がした…!」
ユキトさんのその声に俺たちはその場で立ち止まった。
シュート(まさか…オルドフェクスの研究員…!?)
その時だった。
ドゴーン!
シュート「うわぁっ!?」
突如として、どこかで大きな爆発が起きたような音が聞こえた。天井からたくさんの砂埃が落ちてくる。
アスト「な、何!?」
ガタンッ
シュート(えっ…扉が倒れて…………っ!?)
アスト「うわぁ!?ひ、人が…!?」
目の前の扉が爆発によって壊れたらしく、そのまま俺たち側に倒れてきた。しかも驚いたのは、扉と一緒にオルドフェクスの研究員の人と見られる猫族の獣人も一緒に倒れてきた。
ユキト「す、すげぇ爆発だったな…何があったんだ?」
俺たちは扉の先を見た。でも、何故か俺には、この爆発に心当たりがあった。そう、それはあの時と似たような爆発…。
シュート「……ライキ…!」
俺はすぐさま扉の奥に向かった。この爆発は間違いなく、ライキが起こした物。俺はその確信があった。
アスト「ま、まってシュート!」
ユキト「お、おい!」
2人の声は、俺には全く聞こえなかった。早く、ライキに会いたくて、ライキがいると分かった瞬間、居ても立っても居られなかった。急いで駆け抜けて部屋に入る。部屋の中はとても酷い状態だった。周りをみると、そこかしこに焦げ跡があり、床は割れ、煙が立ちこめていて、たくさんの研究員が壁側で倒れていた。そして、その煙の奥には、見たことのある影があった。
シュート「ライキ!!」
———
時は数十分前に遡る…
視点 ライキ
ライキ「うっ…ここは…?」
俺は暗い部屋で目を覚ました。妙に頭がくらくらしている。
ライキ「俺は…確か…あいつらと…」
ゆっくりと記憶を遡って思い出していく。シュート達と別れた後に、オルドフェクスのやつらを見つけたこと。そして、声が聞こえたと思ったら、布のようなものを当てられたこと。そこから考えるに、俺はやつらに捕まったと考えるのが自然だった。
ライキ(くそ…オルドフェクスのやつらか…。いつもだったら嗅覚や足音で近づかれているのは分かったはずなのに…!動揺しすぎて冷静になれなかった…!)
不覚をとってしまったことを悔やみ、俺は何とか脱出できないか試みようとした。
ライキ(落ち着け…まずは現状整理だ)
俺はゆっくり周りを見渡した。まず、今の俺は壁に座ってもたれかかっている体勢になっている。そして、両手は手錠のような物で縛られている。そして、目の前には鉄格子が見える。つまりここはどこかの牢屋のような場所なのだろう。持っていたはずの双剣はどこにもないため、おそらくやつらに取られてしまったようだ。
ライキ(くそっ…剣さえあればまだどうにかなったんだが…。とりあえずこの手錠だけでも…!)
手錠はもしかしたら牙でなんとかできるかもと思って噛みついてみたが、意外にもかなり硬く、壊すことはできなかった。
ライキ(かてぇ…くっ…どうにかして抜け出さないといけないのに…ん?)
トタトタッ
ライキ(足音…!?)
??「やぁやぁ、気分はどうかな?ライキ君」
ライキ「お、お前は…ドクトル!」
俺の前に立っていたのは、昔からの因縁のある相手である狼の獣人。ドクトル・ヴァルクだった。ドクトルは昔、俺とシュートを捕え、拷問を指示していた張本人だ。
ドクトル「ほぅ…私の名前を覚えていてくれていたのかね?」
ライキ「忘れるわけねぇ…!お前のせいでシュートがどれだけ辛い思いをしたと思ってやがる…!」
ドクトル「それはシュート君が頑なに君の契約のことを話さなかったからだろう?さてライキ君、前回は逃げられてしまったが、今回はそうはいかないよ?」
ライキ「……っ!テメェ…!今さら捕まってお前の言いなりになると思うなよ!!」
手錠を引っ張り、鉄格子に蹴りを入れる。ガン!と鈍い音が響いたが、牢はびくともしない。
ドクトル「そうそう、その目だ。その怒りに燃える目こそ、君の特徴だったなぁ。しかし、無駄だ。悪魔と契約したその目…やっとこの時が来た…!ライキ君には我々の研究に手伝ってもらうよ」
ライキ「だから…俺は悪魔なんかと契約なんてしてねぇ!これは生まれつきの能力だって言ってるだろ!」
俺はもう一度ガン、と再び鉄格子を蹴りつけた。
ドクトル「ほぉ……では仮に、生まれつきの能力だったとしても、それほどまでの強力な力を、一般人で大した技量を持たない君が、どうやって制御してきたのかな?その力を抑える眼帯があったとしても、そう簡単に制御はできない。悪魔の力を借りているのなら話は別だがね。悪魔と契約した人物は肉体に変化が起きて、身体の構造が変わってしまうからね」
ライキ「お前には分からねぇ…!俺は自分の目が、力が、どれだけ周りに怖がられてきたか知ってる……。だから、小さい頃から、ずっとこの目を気にして、抑えるように頑張ってきたんだ…!」
ドクトル「ふむ……まあ、本人が否定しようと関係はない。正直、君の目が本当に属性の目なのか悪魔から授かった目なのかはどっちでも良いのだよ。私にとってはその力の情報さえ手に入ればいいのだから」
ライキ「っ……!」
ドクトル「ふふ……この後すぐに解析に入る。君の目の血液から、細胞一つ残さずその目に関する情報を抽出させてもらおう」
ライキ「…何が目的だ、そこまでしてどうしてこの目にこだわるんだ!」
ドクトル「…君は素材なんだよ。素材がそんなことを知っても関係ない。大人しく、黙って研究に手伝ってもらう」
その言葉に、俺の奥歯がきしむ。これ以上何を言っても説得できないというのはよく分かった。
ライキ(この野郎…)
ドクトル「もう既に準備はできている。来てもらおうか…ライキくん」
ライキ「誰がお前なんかに…!」
俺は睨みつける。どうにかしてこいつに一泡吹かせてやりたい。何とか方法を考えようとするが、ドクトルはとんでもないことを言い出した。
ドクトル「そう言えば君は…シュート君以外にも友達ができたそうだね?」
ライキ「っ!」
その言葉に、俺の頭にはアストとユキトの顔が思い浮かぶ。しかし、こいつらはあの2人のことは知らないはずだ。
ドクトル「アストくんとユキトくんだったよね?いやはや、人間と混合種とは…この辺りでは珍しい種族だね」
ライキ(なっ…!なんでこいつ…!)
ドクトル「どうして知っているんだ?という顔だね?ふふふ…さてさて…何でだろうねぇ?しかし、ここで君が断れば…彼らは一体どうなるだろう?」
ライキ「クソやろうが…!」
ドクトル「さて、どうするのかな?」
俺はそう聞かれて、拳を握りしめてゆっくり立ち上がった。
ドクトル「ふふふ…正直でよろしいね。では、ついてくると良い」
これ以上、あいつらに迷惑をかけるわけにはいかない。それにここで断ったら、あいつらの命が危ない。少なくとも、シュートがこれ以上苦しむようなことにはさせたくなかった。長い廊下を歩き続け、研究所のような場所にたどり着いた。中に入ると、オルドフェクスの研究員が大勢いる。
ドクトル「さて、今回は前回みたいに逃すわけにはいかないからね。これをつけてもらうよ」
そう言われて、俺は首輪のようなものをつけられた。
ライキ「な、なんだこれは?」
ドクトル「それは魔力を吸収して魔法を発動させないようにする魔法道具だ。これで前回のように魔法で大爆発なんて起こさせないからね」
ライキ「…!!」
ライキ(そうか…!それだ!その方法がある…!)
俺は昔から、この目を抑えるためにありとあらゆる方法を試してきた。もちろんこの首輪のような物も試したことがある。だけど、結局は目から溢れる魔力を押さえ込まないといけないので、首輪では大量に溢れ出る魔力を抑え込めず、壊れてしまう。だから、眼帯で抑えるということに落ち着いたのだ。
属性の目は目に見えている範囲のマナを吸収する。だから、視界に移さなければ吸収は起きない。ただ、普通に目を瞑るだけでは効果がなく、油断をしてほんの少しでも開くとマナを吸収してしまう。そのため、完全に視界を塞ぐ必要があった。だから眼帯をつけるという結論に落ち着いた。さらに俺の眼帯は放出する魔力を抑える力がある。だからここまで暴走を起こさずに済んでいた。
ライキ(このままうまくいくと思うなよ…!)
俺は覚悟を決めた。隙を見て、この眼帯を外す。そして、あの時みたいに、わざと目を暴走させるのだ。そうすれば、雷が暴発し、また大爆発が起きる。そうなれば、もしかしたら逃げ出せるかもしれない。
ライキ(この首輪は属性の目の膨大な魔力には耐えられないはずだ…。吸収するといっても限度がある。俺の目の魔力がその許容範囲を超えるしかない…!)
ドクトル「ではライキくん、こちらにくるのだ」
俺はゆっくり奴の後ろをついて行く。目の前には、椅子と様々なチューブや機械が置かれている。あの日の状況と、全く同じだった。
ライキ(これ以上…こいつらの思い通りにはならない…!)
俺は歩く足を止めた。
ドクトル「…何をしているのかな?」
5年前、俺が弱いせいでシュートが傷ついた。自分に負けたから傷つけてしまった。だから俺は頑張って鍛えた。強くなった。強くなろうとした。トラウマを乗り越えようとした。正直、何度かこの目を潰そうとも考えたこともあった。その方が、楽な気がしたから。でも…やらなかった。情けない話だが、いざやろうとすると手が震えるし、怖気付いてしまった。それに、それをしてしまうと自分に負けてしまうような気がしたのだ。だけど、もっと怖いのは…シュートを失ってしまうことだ。
ライキ(後悔した…あの出来事で、シュートは一度心を閉ざした。俺のせいだ。俺の責任だ。もうあんな思いを、させたくない。でも、こいつらがいれば、またシュートは同じ思いをするかもしれないし、もしかしたら、他の奴らにも同じことをするかもしれない。止められるのは…俺しかいない…)
今だに、この目の制御をできたことはない。あの日、シュートを助けようとして目の力を使った時、一瞬だけ目を開けた。それだけでも暴走で大きな威力がでた。だけど今回は、この首輪を壊すために目を開け続ける。きっと、俺も…ただでは済まないだろう。大きな反動もくるし、俺自身雷に耐性はあるが、属性の目の威力を受ければきっと耐えられない。
ライキ(でも…それでも…)
俺は…覚悟を決めた。このまま奴らの思い通りになるなら、大切な人が傷ついてしまうくらいなら…
ドクトル「聞いているのかな…?何か変なことをするつもりなら…」
ライキ「俺の命で…他の奴らが助かるなら…」
ドクトル「…何?」
喜んで差し出してやるよ
俺はすぐさまドクトルと距離をとった。周りの研究員もすぐに駆け寄る距離にはいない。俺は手錠がかかった手を目に近づけ、眼帯を外した。
ドクトル「な…何を!?」
ライキ「ッぐぅ……!!」
俺が左目を出したその瞬間、周囲の空気が一変した。目が熱くなる。力が溢れて、抑えられないこの痛み。首輪を壊すまで、これに耐えないといけない。研究員たちがザワザワと騒ぎ始める。
研究員A「な、なんだこの異様な魔力量は!?」
研究員B「ま、まずいです!魔力抑制首輪の許容値を遥かに超えています!」
ドクトル「ば、馬鹿な!?魔力抑制首輪が……効いていないだと!?」
ライキ「……ぐっ…あぁぁぁっっ!!!?」
首輪の表面がバチバチと火花を散らし始める。そして、首輪が赤色の熱を出し始めたかと思うと、ヒビがはいりはじめ、そのまま首輪を破壊した。
ドクトル「な、何だと!?首輪を壊すなど…!?」
ライキ「ぐうっ…!?はぁっ…!はぁっ…!」
しかし、首輪が壊れても目の暴走は止まらない。部屋中に電気がほとばしっている。
ライキ(後は…こいつらをぶっ倒すだけだ…!)
痛みがおさまらない。視界が、どんどん赤くなってきている。充血というレベルじゃない。目から血が溢れてきている。それでも、俺は目を開け続けた。確実に、こいつらを…倒すために。
ライキ「ガァアァァァァッ!!!」
ドゴーン!
俺の目を中心に、大きな雷が落ちて、大爆発が起きた。
ドクトル「ぐわぁぁぁぁ!!??」
ドクトルの悲鳴が聞こえる。この大爆発に巻き込まれたらさすがのあいつでも無事では済まないはずだ。それはもちろん…俺も。
ライキ「はぁっ…はぁっ…うぐっ…」
目の力の反動がすごかった。身体中が痺れていて、大爆発のせいで全身が焼けたようにすごく痛い。おまけに魔力をすごく使ったため、身体中に疲労感がでている。正直、全く体を動かせる気もしない。
ライキ「…はは、あれを受けても生きてるんだな…俺」
自分でも正直驚いている。周りを見渡す、研究員は皆吹き飛び、機械は木っ端微塵で壊れている。あの時以上の破壊力だ。
ライキ(でも…もう体が動かない…な。死ぬのも…時間の問題…か)
そう考えると、何故か涙がでてくる。覚悟は決めていた。こうなることは、わかっていたのに。今になって、ここ最近のことを思い出す。学園に入学して…シュートたちと過ごして、とても楽しかった。アストやユキトとも出会って、初めてシュート以外と仲良くなれた。久しぶりに、楽しいと思える日々を送れた。
ライキ(ダメだ、やっぱり俺…)
そんな生活も…もう終わりだ。シュートを守れただけで、もう十分。むしろ、俺がいたらまた怖い思いをさせるかもしれない。他のオルドフェクスの奴らが狙ってくるかもしれない。それなら…俺はアイツの側にいない方が良い。アイツには…俺以外にも友達がいる。きっと生きていける。そう思って…死を受け入れていたはずなのに…。
ふと、天井を見た。そこには、属性の目の暴走で起きた雷によって大きな穴が空いていて、綺麗な星空が広がっていた。まるで、たくさんの星が俺のことを見ているようだった。そして、何故かは分からないけど、星に願いたくなった。もし叶うなら、シュートたちと一緒にいたい。もっと友達を作りたい。4人で…また同じ時間を過ごしたい。
そう考えていると…自然と…声が漏れてしまっていた。
ライキ「俺…まだ…生きたいよ…」
その時、1つの大きな星が、一瞬煌めいたような気がした。
シュート「ライキ!!」
ライキ(えっ…)
もう一度星を見ようとした時、聞き馴染みのある声が聞こえた。それは昔からの大切な、たった1人の友達の声。
ライキ(シュート…?)




