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28匹目:好きなものから食べる派だから嫌いなものばかりが残ってしまう 3

次かその次くらいで終わりです!

ここまで書いた私すごくすごい





リィンと涼やかな音が鳴った。


静かに波打つ水面の下で透水花が揺れる。湖のふちに腰を下ろしたジェマは、風に靡く髪もそのままにじっとその様子を眺めていた。


耳を澄ましても聴こえるのは美しい自然の音色ばかり。


空気は冷たいがたっぷりと降り注ぐ陽射しは暖かい。芝生に直接座り込んだのはちょっとした反抗心ゆえだろうか。自分がしていることながら子どもっぽい抵抗だと自嘲して、ふぅと息を吐いた。



恐ろしいことに、マーサは正式に留年が決定した。まだ春まで時間がある。本来ならばこの時期の留年通告は仮のもので、冬季休暇明けに死ぬ気で頑張れば挽回できる可能性は残されている忠告でもある。しかし実行犯であるリリアンが公式には処罰を受けなかったのにマーサは許されなかったらしい。


報告をしたジェマのせいではないから気にするなとは言われたけれど気にはなる。これ見よがしにしょんぼりとしてみせたら夫人がこっそりと少しだけ事情を教えてくれた。



マーサの処分が重くなった原因は、やはり彼女が錬金術科の生徒だったからというのが大きいそうだ。


マグワイア魔導学園の錬金術科では授業と並行して錬金術師としての資格も取得していかなければならない。2年生以降は対応する資格を持っていなければできない実験なども授業に組み込まれているためだ。


錬金術科では薬学も学ぶ。そうなれば必然と毒物に関する知識も学ぶことになる。病を癒す薬でも処方を間違えれば毒となりうる。錬金術師が薬を勧めるのならばきちんと効果や副作用について説明をしなければならない。


マーサがしたように、何も知らない相手に何も説明せずに誰かに薬を盛ることを勧めるなんてもってのほかだ。そんな倫理観の欠けた危うい子どもに人体に有害な薬物を生成する許可を得る資格など与えられない。マーサが今持っている資格も一度効力が停止されるそうだ。



リリアンの馬鹿な行動は、エリオットの方が受け入れる姿勢を見せたうえ、忠告する者たちから庇っていたということもあり処分が軽くなった。けれどマーサの場合は、たとえ純粋な厚意から行ったことだとしても質が悪いと判断された。倫理観なんて数か月で身に付くものでもないし、マーサはまったく反省してもいなかった。もともと成績が良かったわけでもないらしく、一足早く留年が決定してしまったというわけだ。



保温の効く水筒に入れてきたミルクティーをカップへ移し、ふわふわと湯気の漂うカップに向かって小さく息を吹く。ちびちびと舐めるように温かい紅茶を口に含み、ほぅっと白い息を吐いた。


初めてマーサが来たときにきちんと話を聞いておけばよかったような気がしてきた。昼寝中に無理やり起こされたので何を言っていたのかよく覚えてはいなかったが、リリアン物語を知っていてジェマの元へ来たのならば少しは得る話も聞けただろう。


ジェマはリリアンの話も半分聞き流していたし、聞き流しておけば良いアンジェリカには余計なことを言った。


勢いよくカップに息を吹きつけて、ぴるるっと耳を震わせる。



思い返せば随分と危ない橋を渡って来た気がしなくもない。リリアンやマーサを馬鹿にしている場合ではない。ジェマもかなりの阿呆だ。


きっと逃げられないのだから、諦めて貴族との上手な付き合い方をもっと学ぶべきだ。冬季休暇は実家には帰らず寮に居るつもりだったけれど、もういっそ覚悟を決めてアシュダートン伯爵家でお世話になろうか。



「いやでもなぁ……」



あーうーと唸りながらへたり込んだ尻尾を撫でさする。


これまで避けてきた問題が一気に押し寄せてきたようだった。ご丁寧に逃げられないよう壁際に追い詰められて、しかもそれに気付かないようじわじわと時間をかけて確実に囲われた気分である。


ハッと動きを止めて静かに揺らぐ湖面を見つめる。


ジェマはリリアンの不可思議な言動について初めからシリルにきちんと報告していた。リリアン物語のことは黙っていたけれど、それでも大公令息の周りをちょろちょろしているやつに絡まれているということは伝えていた。シリルがそれを伯爵たちに黙っている理由もなく、ジェマの報告は伯爵たちにも伝わっていた。


ということは、アシュダートン伯爵たちはいつでもジェマの迂闊な行動を止められたということだ。危険人物(リリアン)との付き合いを控えろと命じられればジェマはリリアンに捕まらないよう徹底的に逃げ回っただろう。


それをせず、最後までほとんど放置され、結局にっちもさっちもいかなくなったジェマが泣きついてくるまで待っていた。



「こ、これが貴族のやり方か……!! あぁもう! 負けた!!」



完敗だ! と叫んでぐいっとミルクティーを飲み干した。


もう今のジェマには優しい後見人を頼る以外の選択肢がない。明確に迷惑をかけてしまった以上、これまで以上に頭も上がらなくなっている。



冬は雪に閉ざされてしまう遠い故郷に冬季休暇中に行って帰ってくることは難しい。手紙のやり取りも時間がかかり、大事なことをすぐに相談することができない。


1人で考えていられる問題ではないのに、それを後見人に相談してしまえば丸め込まれることは目に見えている。



カップを仕舞ってごろんと横たわった。目を閉じて深く息を吸って、思い切り吐き出す。


それを数度繰り返して、唸り声を絞り出して諦めた。


カッと勢いよく目を見開き、ジェマの瞳と同じ色をした淡い青空を見上げる。



貴族の後見を得て学園に通うという選択をしたのはジェマだ。その責任は誰に押し付けることもできない。アンジェリカたちにだって自分の責任は自分で取らせたのだ。自分だけ甘えて他人のせいにするのは、ジェマの小さなプライドが許さない。


ふんふんと荒い自分の呼吸がとてもうるさい。意識して透水花の柔らかい鈴の音のような綺麗な音に耳を傾けて、静かに目を閉じた。





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