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28匹目:好きなものから食べる派だから嫌いなものばかりが残ってしまう 4

最終回です!!!!

ここまでお付き合いいただいた皆様に最大級の感謝を…!

言いたいことはいっぱいあるけどここで言うのも野暮な気がするのでエッセイとして別で出します!


とにかくみんなありがとう~!!!!




「それでやっと観念したわけか」



愉快そうに鼻で笑うシリルに、ジェマはいかにも渋々ですという顔をしながら頷いた。


年末の慌ただしいアシュダートン伯爵家に招かれたジェマは、シリルの部屋で小さくなっていた。


これでもかとしょんぼりと耳と尻尾を垂らしてついでに眉も下げて常に俯きがちなジェマに、こんな平民にかかずらって居られないはずの伯爵家の面々はひどく親切にしてくれた。わざわざジェマと年の近い平民出身のメイドを世話役に付けてくれたり、ジェマのためにとチーズケーキを作ってくれたり。


とても申し訳ない気持ちになったジェマは、メイドを仕事に戻すためにシリルの部屋へ押しかけた。そこで鬱陶しくしょんぼりしている理由を問い詰められて今に至る。



ふわりと漂うコーヒーの香りが心地よい。その香りをこっそりと吸い込んで、ふぅと息を吐く。


クッションを抱きしめて俯いていたジェマはそろりと顔を上げた。


シリルも暇をしているわけではない。この部屋にも絶え間なく誰かしらが出入りしていて、シリル自身の手元にも書類やら手紙やらが溢れている。


建国祭から年明けまで、王都周辺では第二の社交シーズンと呼ばれるほど貴族は忙しい。建国祭で王都に来たあとそのまま王都で新年の挨拶周りを終えてから領地へ戻る貴族も多く、夜会をはしごする日もあるらしい。


ジェマは招かれたから来たのだが、とても邪魔をしている気分になっていた。


顔も上げないシリルに片手間にあしらわれながら、ミルクティーをちびちびと舐める。



「だから初めから婆様たちがお前のこと囲おうとしてるって教えてやっただろうが。甘やかされてたからって貴族を甘く見たお前のミスだな」


「……まぁでも無理やりじゃないので」


「無理やりだと思われたら遺恨が残るからな」



つまりはそう思わず自ら頼りにくるように誘導されてきたということだ。ため息を堪えて頬を膨らませた。


正直なところ、ジェマはそこまでして自分を囲おうとする理由についてはっきりと理解していない。平民にとって有用な人間と貴族にとって有用な人間は同じではない。たしかに支援してもらえるだけの能力はあるかもしれないが、そこまでするかと思ってしまう。


どうしたものかと胸中で1人唸る。


どうするもこうするもジェマに残されている選択肢はたいして残っていないうえ、自由に選ばせてもらえるとも決まっていない。問答無用でシリルとの結婚が決まる可能性すらある。


けれどこれまで逃げ続けて後悔をしたばかり。自分の将来のことだ。他人任せにした結果を嘆くくらいなら、少しでも自分の望むものをつかみ取るために思考は止めるべきではないと学んだ。


やればできる子だからと自分に言い聞かせて、静かにカップを置いた。



「……まぁまぁ。まだ良い。ダイジョウブ」


「捕まったのが優しい貴族のおば様方で良かったな」


「それは本当に。しみじみと実感しておりますけれど」



それとこれとは別である。尻尾を強く振って抗議したが、シリルには笑われただけだった。



「まぁ今回の件はおそらくお前が思ってるほど我が家にダメージはない。大公家と公爵家にとってあの婚約はとても重要なものだ。当事者たちの仲があまり良くないと噂されていることは以前からずっと懸念されていたこと。十数年間悪化する一方だった2人の仲を、方法はともかくたった数か月で解決してみせたのは見事だったとお褒めの言葉をいただいたくらいだ」


「それはなにより……」


「さすがに引っぱたいたことについてはお叱りも受けたがな」


「それはあれじゃないですか。シリル様だって止めなかったし……」


「あれは一発くらい引っぱたきたくなるだろ」



だから止めなかったのかとパッと顔を上げると、スンっと真顔になったシリルがいた。シリルも面白がっているところはありそうだと感じていたが、やはりシンプルな苛立ちもあったらしい。結局あのお茶会は茶番になってしまったし、真面目に参加していたのはベルノルトくらいだと思っていたけれどそれで良いのか。


何も言っていないジェマに「うるさい」と吐き捨てて、シリルは忙しなく手を動かす。



「暇しているなら貴族名鑑でも読み込んでおけ。婆様たちは今度うちで開く年忘れの宴にお前も参加させるつもりらしい。あくまで個人的な宴だから夜会デビューとはまた違うが、貴族の客が来ることには変わりない。最低限名前を聞いてどこの誰かくらいはわかるようにしておくように」


「順調に囲われていく……」


「諦めたんだろ?」



くすくすと笑われてジェマは頬を膨らませたまま辞書のように分厚い本を開いた。


次の瞬間、ジェマの尻尾がぶわりと逆立った。王族の次に出てきたのはレッドグレイヴ大公家、そしてその次にはランプリング公爵家が。


思わず助けを求めるようにシリルを見遣るが、また鼻で笑われて終わった。ぼわぼわしている尻尾を膝に乗せて撫でながら、険しい顔をして貴族名鑑を読み込む。


実際に会った2人は意外と普通の学生だった。高位貴族っぽいなと思うことはあったけれど、完璧に住む世界が違うと実感させられて硬直したことはない。けれどこうして王族と名を連ねているところを目の当たりにして思わず驚いてしまった。いくら許される余地があったとはいえ、血の気が引くほどの不敬を働いた自信がある。


ミルクティーを舐めて少し落ち着いて、続きを読み込む。


少しめくってすぐに出てきたルシアンとクリスティーナの名前にまたドキッとさせられ、そのあと思っていたより早く出てきたクロエの名前に変な声が漏れそうになった。


これはもう強引に心臓を落ち着かせるしかないと、本を後ろからめくる。そしてすぐに出てきたリリアンとフランツになぜだかほっとした。



もちろん平民のジェマの名前は出てこない。今すぐ手の届く距離にいるシリルでさえ、本来ジェマとは住む世界が違う人間なのだ。


改めてそんな貴族たちに突撃していったリリアンのすごさが身に染みた。本当にジェマがリリアンのようなことをする物語がこの世に存在しているのだろうか。自分がそんなことをする様がまったく想像できなくて、ただでさえ動揺している頭が混乱する。



「…………どうした」



すぐそばでシリルの声が聴こえてパッと顔を上げた。影になるほどのすぐ隣に立っていたシリルに見下ろされ、ジェマは自分の尻尾を撫でながら口を尖らせた。



「なんだその顔。ただの貴族名鑑だろう。何も考えずひたすら情報を頭に叩き込め」



考えすぎても良いことはないし、考えなさ過ぎてもまたおかしなことをしてしまうかもしれない。


大人になるって面倒くさい。



「やらないなら黙って流されていろ。でも自分でやると決めたならやってしまえ」


「う」



ぺちんとおでこを叩かれて変な鳴き声が漏れた。ぎゅっと顔のパーツを思い切り真ん中に寄せて、八つ当たりにシリルを睨む。


意地悪に微笑んだシリルに頬をむくれさせたジェマは、尻尾を撫でる手を止めた。



甘いミルクティーを一口含み、そしてまた表紙から本を開き直した。






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