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28匹目:好きなものから食べる派だから嫌いなものばかりが残ってしまう 2




「まぁいいや! もう知らん! 踊ろう!」


「あなたは本当にもう……」



クロエの腕に抱き着いたジェマは、その腕を引きながらホールへと戻った。呆れるクロエの小言を聞き流し、全力の現実逃避を始める。


将来のことなんて知らない。


これまでのほほんと好きなことだけをして生きてきた野良猫だ。いきなり計画性を持って今から今後の人生設計を考えよなどと言われても土台無理な話である。


そうでなくとも慣れない王都での貴族との生活で、つい現実逃避したくなるくらいには疲れている。そこに加えて、学園にも少し慣れてきたところでリリアン物語に巻き込まれたり【幸運の猫】が繁盛してしまったりと、ジェマの意思とは無関係に様々なトラブルが自らジェマの元へやってきていた。


ジェマは黙って話を聞いていれば――いや、ただお菓子を食べていれば良かっただけだが、それでも何も考えず気楽にぼーっとしていられる時間はぐっと減った。


いつかはきちんと考えて決めなければならないことだ。けれど今すぐでなくても良いではないか。



ぷりぷりと不機嫌に尻尾を揺らしながら、ご機嫌な生徒たちの輪に入っていく。ジェマは女役を覚えるだけで精一杯だけれどクロエが男役もできることは知っている。無理やりエスコートを押し付けて、鼻を鳴らしたあとつんっと顎を上げる。


悪戯っぽく口の端を上げたクロエが曲に合わせて動き始めた。一拍遅れて動き出したジェマをうまくリードして連れ出す。



「クロエ男役でもダンス上手いね。なんで?」


「随分と妹の練習に付き合わされたからね。それに、こっちの方が好きに動けて楽しいのよ。ほらっ」



くるりと一周させられて、戻った先には心底楽しそうなクロエがあった。得意げに微笑むクロエに思わず苦笑してしまった。ジェマは大きく息を吐き出しながら瞼を閉じると、にっと笑い返してクロエを見上げた。



「あら良い笑顔。もうやさぐれ猫は終わりなの? つんつんしてるのも可愛かったけれど」


「ふんっ。わたしはいつでも可愛いでしょ」


「そうねぇ。かわいいわねぇ」



べぇっと舌を出したのを合図に、2人でくすくすと笑い合う。クロエに導かれるまま適当なステップを踏んで、何も考えず、ただこの時間を楽しんで笑う。


またくるりと回されて、淡い水色のスカートがふわりと舞った。幅の広いリボンと尻尾が遅れて回り、眩いくらいの灯りを反射したビジュ―が煌めきを添える。


榛色のクロエの髪が靡き、ジェマの撫子色と混ざる。ダンスは好きではなかったけれど、こんなダンスならば何曲でも踊っていたい。



――ずっとこんな時間が続けば良いのに。



王都に来てから難しくて面倒くさくて、うっかり零した一言にも責任を取らなければならないような、逃げだしたいことばかりに追われている。逃げても先送りになることはわかっているけれど、やっぱり今はまだ考えたくもない。


ましてや他人のことなど考えていられる余裕などない。マーサのしたことの責任はマーサが取れば良い。


曲の終わりに合わせて足を止めた。ふわりと靡いた裾が名残惜しく揺れを残す。いつもより激しく動く心臓がまだ終わるなと告げているようだった。息を整えて礼をする。ゆっくりと上げたジェマの頭の上では、素直な耳がぺたりとへたり込んでいた。






「やだ」



ぎゅっとクロエの腕を握り締め、男子生徒からダンスに誘われたクロエを引き留めた。尻尾まで絡ませて、クロエの肩に額を擦りつけながら男子生徒を睨みつける。



「やだってあなたねぇ。わたくしはあなたの物ではないのだけれど?」


「だめなの!」


「まったくもう……」



クロエにも男子生徒にも苦笑され、それでもジェマはぷくーっと頬を膨らませて譲らなかった。頭の上でクロエが「うちの猫がごめんなさい」なんておかしな断り方をしているのを聞き流しながら、ちらりと周囲を窺う。


仲睦まじいカップルを見つけてしまって、またジェマの眉間に皺が寄った。


ずっと踊っていた気がするアンジェリカとエリオットだったが、さすがに休憩することにしたらしい。せっかくの社交パーティーだというのに、誰とも会話をしないでずっと2人きりの世界を広げている。


そんなことは構わないし羨ましくもないけれど、何の憂いもないような顔でパーティーを楽しんでいることだけは腹が立つ。八つ当たりにクロエの腕を強く握りしめた。



ぷいっと不貞腐れて目を逸らした先には、これまた幸せそうにふにゃふにゃと微笑むクリスティーナとフランツが。そこからまた顔を背けると、こちらにはぎくしゃくとしながらも照れくさそうに笑うベルノルトとアマーリエが。そのそばでは相手を見つけたらしいシェリーが澄ました笑みを浮かべていた。


ジェマはもう膨らまない頬をさらに膨らませて、もう何も見たくないとクロエの胸に顔を埋めた。



「何をしてるのよ」



さすがにこれはだめだったらしい。肩を掴まれ引き離されたあと、前髪の乱れた額をぺちんと叩かれた。





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