28匹目:好きなものから食べる派だから嫌いなものばかりが残ってしまう 1
あと数話で終わります~!
最後までよろしくお願いします!
今日のために飾り付けられた庭園はカップルでいっぱいだった。
クロエと連れ立ってホールを出てきたジェマは、居心地の悪さと心地よい夜風を両端に乗せた天秤をぐらぐらと揺らしていた。にこにこと楽しそうなクロエ越しの綺麗な星空を見上げて、諦めたようにまた息を吐く。
クロエの言う通り今日は目出度い日のはず。美味しいスイーツも食べて可愛いドレスを着てジェマもハッピーな気持ちで過ごす予定だったのに、先ほどからずっとため息を吐いている。
ジェマが主人公だかなんだか知らないが、リリアン物語には随分と迷惑をかけられた。リリアンがヒロイン役をやったのならジェマは関係がないはずなのに、なぜあの物語はずっとジェマに付きまとうのだろう。
不機嫌に尻尾を揺らしながら、ちみちみとアップルサイダーを舐める。
「あなたねぇ、いくら【幸運の猫】が見聞きしたことは他言しないって言ったって限度があるでしょう。もっと早く相談しなさいよね、友だちなのだから」
「いや、猫はあんまり関係ないんだけどね。なんとなくね」
ジェマはしゅわしゅわと泡立つグラスをぎゅっと握りしめた。
貴族令嬢が家も身分も関係なく、さも当然かのように友だちなのだからと言った。
こんな知ってしまえば面倒極まりないトラブルだとしても、ジェマのためならば全力で巻き込まれてくれると。まるでそうしない理由がないかごとく自然に、そうしなかったジェマが悪いとでも言いたげな顔で。
淡く色づく水面をじっと見つめながら、ゆらゆらと尻尾を揺らした。クロエの苦笑が聴こえて、照れ隠しに尻尾をクロエの腕に巻き付ける。
「……次は遊ばないでちゃんと相談する」
「そうね。ジェマはちょっと貴族と関わることに対して危機感が薄いもの。ちゃんと相談しなさいな」
ジェマは小さく頷いて、するりと尻尾を離した。
ジェマが対処に動けば、リリアンの杞憂通りヒロイン役を奪い返そうとしているように見えてしまわないかという心配があった。とはいえ1番大きかったのは、単純にすぐにでも誰かしらが何かしらの対処を行うと思っていたせいだ。アンジェリカが動かずとも学園や大人や、その他アンジェリカとエリオットの関係にヒビが入るのを恐れた誰かが動く可能性が高かった。
むしろここまで誰もが何もせずに揃って静観するという方が予想外だったのだ。
クロエに相談するまでもなくスッと消える話だと思っていたから、来年にでもそういえばこんな話もあったんだよねと話をしようと思っていた。
端的に言えば、本当になんとなく言うまでもないと思っていたから、だ。まさかここまで引きずった挙句にここまで盛大に巻き込まれるとは思ってもみなかった。
「でもマーサだったかしら。あなたの言う通りそのまま放置はできないわね。錬金術師にだって倫理観は必要だわ。少なくとも学園できちんと指導されるべき案件よ。あなたが許すかどうかはまた別の話ね」
とりあえずアシュダートン伯爵に報告しなさいと言われて、ジェマは深く頷いてからジュースを一口含んだ。
「それで、ルシアン様のことはどうするの?」
「…………どうもしないけど?」
「どうもしないの?」
「しないよ。わたし平民だから」
「本当に気持ちがあるならなんとでもできる方法はあるでしょう? それは逃げ道にはならなくてよ。他人の恋路に首を突っ込んでばかりいないで、自分のことも1度きちんと考えなさいな」
そんなことは言われなくてもわかっている。またぷくっと頬を膨らませて顔を背けた。
まだ入学したばかりだから考えなくても許される期間は終わりを迎えようとしている。学園生活はあと4年残っているけれど、貴族になるのならば学園在学中に決めてしまった方が色々と都合は良い。
ジェマは両親が好きだ。できるならばどこにも養子になんていかないで結婚できる人と結婚したい。
でも伯爵家の養子にしてもらうことがどれだけの幸運かも理解している。
そんな大事なことを考えて決断するなんて、今のジェマにはまだできない。
きゅっと口を結んで、ぼんやりと滲む灯りを睨みつけた。




