27匹目:ラストダンスはお菓子を食べながら見守る所存 7
ツイステやってたら遅くなりました。
(あ。ルシアンが踊ってる)
ルシアンも侯爵令息だ。学園の行事でも社交を一切放棄することは難しいのだろう。
なんて考えたところで、ジェマはウェイターから受け取ったアップルサイダーをぐいっと呷った。勝手にルシアンが望んで他の人と踊るはずがないと考えている自分に気が付いて、グラスに視線を落としながら眉根を寄せる。
エスコートの申し出を断ってからというもの、ジェマはルシアンから伝えられる好意に気付けるようになってしまった。ルシアンが素直になったのかジェマが意識を向けるようになったのかはわからないけれど、とにかくルシアンがジェマに構う理由がジェマへの好意にあると思うようになった。
ムスッと頬を膨らませて、けれど耳はしょんぼりと垂れる。
ジェマはルシアンとどうこうなることまでは考えたことがない。考えすぎたところで良いこともなし、ルシアンと変にぎくしゃくしてしまうよりもずっとマシだと自分に言い訳していた。
しかしどうやら随分と調子に乗っていたらしい。ハッキリと結論を出さずなぁなぁにしたまま好意を受け取るだけという関係が、これほど不思議な居心地の良さがあるとは。これではずっと結論を出すことを避け続けてきた結果、多くの人を巻き込んで盛大にアホな喧嘩をしたバカップルに文句など垂れる資格もない。
あれだけ他人に話し合えだのハッキリ言えだのきちんと考えろだのと言っていたというのに。
不意に殴られたようなショックと気恥ずかしさを自覚して、火照った気がする頬を冷たいジュースで冷ました。
とぼとぼとシャーベットの置かれている机へ向かい、冷えたグラスを1つ手に取った。
1人壁際にぽつんと佇み冷たいスプーンを口へ運ぶ。ふわりと溶けるようにシャーベットが消え、ぽぅっとのぼせていた頭が冷えていく。
良く考えるまでもなく、告白を断ったのはジェマである。断わられたルシアンがさっさと気持ちを切り替えてジェマのことを諦めてしまっても何の不思議もない。
先ほどはダンスに誘ってくれたけれど、それだって素気無く断ってしまった。
もうルシアンに愛想をつかれてしまったのかもしれない。
なんてわがままなのだろうかと自嘲しても、妙な寂しさとモヤモヤした気持ちが喉の辺りで閊えているような気がする。
凍ったフルーツを思い切り口に入れて、その冷たさにぶわりと尻尾が逆立った。
「あ、あのさ。そのドレスってやっぱり、私たち――じゃなくてリリアンの、せい?」
友人なのか他人なのか微妙な距離間で足を止めた制服姿の女子生徒は、そわそわと視線を動かしていた。顔を隠すように手で前髪を梳き、ぼそぼそと何かを呟いている。
こんな煌びやかなパーティーでも、マーサはいつも通りのみすぼらしさだった。
平民だからというより身なりに気を遣わないせいだろうなと思わせるその不格好な立ち姿は、このパーティーには酷く似合わない。
制服で参加しても良いことになっている。その証に貸し衣装を借りている生徒は半数ほどだ。貴族の生徒の中には、むしろ制服で舞踏会に出るという学生時代特有の非日常感を楽しんでいる生徒も多いらしい。
それでもやはり雰囲気に合わせてメイクは派手めだったり髪型が凝っていたりはする。平民の生徒だって、マーサのように本当にいつもと寸分違わず一切着飾らずに参加している生徒はとても少なかった。
別にそれはそれで悪いことはないのだけれど、とジェマは居心地悪そうにそわそわしているマーサを見遣る。
気にするならもう少し気を遣えば良いのに。お友だちのリリアンは何もしてくれなかったのだろうか。
全身きっちりと着飾ったジェマは遠慮なくマーサを見下し、一体全体今度は何を言い出したのかと首を捻った。




