67話
王都内では祭りの神事は若干のざわつきはあるものの滞りなく続いている。
そもそもこの祭りとはすべての神が集う祝いのもの。
そして魔物侵攻という前代未聞の事態であうが王都を守るように張り巡らされた障壁により魔物は一匹たりとも入っては来ていない。
それこそが神の御業と例年よりも熱心に礼拝する人数も多い。
それを冷静な目で見ているのは女神ミーミルの筆頭司祭であるカシウス。
今、彼の頭を占めているのは信仰ではなく計画された被害との齟齬であった。
本来彼の用意していたのは神殿を中心とした半径500mほどの防御結界。
そこまで侵攻してきた魔物の瘴気に反応して展開するはずだったもの。
それがなぜ王都外で魔物の進行を止められるのか?
犯人はわかっている。この計画を知っていて止めようとするものはあのラウルとかいう少年だけ。
何かしらの別のスキルでもあるのかもしれない。だが、問題はそれだけじゃない。
どうやってこの計画を知った?流石に誰もそこまでは漏らしていないはず。
そもそも、仲間になれといったのは邪魔な人間を少しでも減らすため。
仲間になっていたところでこの時期は別の場所へと遠征に行かせるつもりであった。
まあいい、そもそも王侯貴族を守るだけか、住民すべてを守ったかの違い。シナリオに微修正さえすれば問題はない。
小僧は見える範囲にいない。そろそろ人狼も解き放たれているだろうしどこかで始末してくれているだろう。
正午に行なわれる神託の儀、それさえ過ぎれば作戦は成功したも同然。
他の神官たちは控室で青い顔だったのが魔物が来ないと判る途端に神のお力だ、信仰の勝利だとやかましい。権威しか持たないものが神の恩恵を受けることなどできるはずがないだろう?
思い出す、初めて神と会った時のことを。
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ここはどこだ?
真っ白な空間。そうだ。確か明日の裁判に備え事務所で深夜まで用意をしていたはず。
悪徳宗教法人の被害者が起こした裁判で明日は大事な口頭弁論。
被告は口は回るが信仰するのはお金のみという拝金主義者。
調べれば調べるほど灰色が黒く染まっていくような男だった。
それでも一定の信者がいて裁判の妨害は数知れずであった。
明日になればそれもひと段落付くだろう。
この裁判が終われば申し訳ないが担当を外させてもらおう。身が持たない。
そう思いながら帰宅の途に就く。危険だからと常時二人の警官が護衛をしてくれるのはありがたいが。それ以上にどれだけ危険なんだと思わざるを得ない。
事務所からは歩くのも危険ということで車で(初めて乗ったがどうやら覆面パトカーというものらしい)送迎。
おそらく、明日の裁判が終わると警備もなくなるのだろう。どうやって身を守るか、そんなことを思いながら後部座席にいると突然視界が明るくなる。警官の叫び声が聞こえたがそのあとの大きな衝撃で記憶が止まっている。あれは・・
「そうです、あなたはお亡くなりになっています。」
声のする方を振り向くと少女のような女が立っている。どういうことかと質問しようとするが頭の中がまとまらない。
「不幸なことですが貴方と同乗の警官二人の方はトラックの正面衝突により原形をとどめないほど無残にお亡くなりになっています。映像見ます?」
とりあえず頷くと、逆にびっくりしたようにこちらの顔を見る少女。
「いいんですか?自分で言っといてなんですけど結構グロイですよ?」
「かまいませんよ。仕事柄刑事事件多いので見慣れてはいますから」
「大変ですね弁護士さんも」
そういいながら空中にスクリーンが投影される。本当につぶれる瞬間を見せてくれた。確かに気分のいいものではない。続けてニュース映像である。こちらは某国営放送のニュース番組。どうやら本当に死んだらしい。かなり長い時間をかけて人の名前を連呼してくれているので間違いはないだろう
「さて、本来あなたはこのような無残な死に方をするべき人間ではありませんでした。そこで救済措置として異世界転生のチャンスが与えられます」
「いや、そこは記憶を残したままもう一度地球に転生でしょうが」
うっ、と唸る少女。正論に反論できないのは間違っている証拠だと思う
「じ、自己紹介がまだでしたわね。私は女神アルケー。あなたたちの住む地球とは別の世界の女神です。貴方の境遇は可哀そうと思うんですけれど実は地球に転生の権限がないんですよ。異世界の女神ですから」
申し訳なさそうに言う、女神だったらしい。それにしては幼い感じがするのだがやはり中学生みたいな体型だからだろうか?
少し目付きが冷たくなる女神。どうしたんだろう?
「それに万が一でも地球に意識を持ったまま転生したとしてもう一度赤ん坊からやっていけます?
30過ぎた男がプライド捨ててお遊戯とかできないでしょう?でしたらこちらの方がいいですよ。こっちは剣と魔法の世界ですし」
ロールプレイングゲームみたいなものかな?そういえば以前関わった被告の所持品に大量にあったのを見た気がする。異世界転生ものってやつだったかな?
「そう、それです。それに転生特典として便利スキルをプレゼントします」
そう言って出してきたガチャを回してから転生をしたな。
ただ転生前に女神が言っていた。
「哀しみをいつまでも覚えていることはありません。前向きに今度はきちんと愛情をもって生きてください」
どういう意味なんだろう?それは未だにわからないことだが
第一前世からも覚えている限り哀しみなんて感じた記憶はないのだから。
さてそろそろ正午が近い。祭りのメインだ。
これからが一番忙しい時間となるのだから気を引き締めて行こう。




