66話
王都外の魔物は発生から一時間ほどでその八割が壊滅した。
十二天の防衛ラインの前進とゲートの破壊。そして八部衆阿修羅王と緊那羅王も早期に殲滅に加われたことが大きい。
各々は転生者を見張っていたのだが、一人は魔物使いらしく瘴気に侵された魔物をティムしようとして失敗。そのまま魔物の波にのまれた。
もう一人の転生者は王都側の結界に穴をあけて魔物を通そうとしていたのだが、四天王結界がSSRスキルごときに破られるわけはなくこれまた魔物に潰されている。
「正直、気が抜けてしまいましたが」
少し疲れたように薄紅が言う。
「そういうな、我らの処理が速いほど主への負担が減るのだからな。」
「それはわかってるんですが。」
薄紅は不服そうに言う、おそらくは雷桜、翡翠は活躍しているだろう。
主への覚えをよくするために何としても活躍したかったがまさかの自滅とは思わなかった。
これでは最初から雷桜のように殲滅戦に入るほうがよかったかもしれない。
『阿修羅王、ほぼ九割の掃討が完了した。あとは四天王、はじめ十二天の半数を残し召喚解除をしたいと思うのだがどうだろうか?』
マリーチーから念話が入る。白銀が同意の返事をしようとしたとき。
「待って!私は残らせてほしいの。ほら掃討ならなおさら私の能力も役に立つでしょう?」
何か言いたげな目で薄紅を見る白銀。緊那羅王薄紅は音楽神の一面も持っている。それゆえ能力として音域探査が使える。
通常の可聴域をはるかに超える耳と完全音感モードによりレーダー顔負けの探査を行える。
それはわかってはいるが、主にいいところを見せたいという心情も手に取るようにわかっている白銀は返事を躊躇する。
「いいぜ、オイラの代わりに残りなよ」
ふと振り向くと風天ヴァーユと迦楼羅王紫苑がそこにいた。
「実際残るのめんどくさいと思ってたんだよ。ちょうどいいや。かわってやるよ。いいだろ?姐さん」
顎をしゃくると白銀たちの後ろにマリーチーが現れていた。
ため息をつき、あきれたように。
「まあいいでしょう。主の負担にならないようになるなら問題ありません。」
残るのは四方を守る四天王と火天、伊舎那天、羅刹天、そして緊那羅王。その他を召喚解除とする。
因みに摩睺羅伽王と馬頭観音は残ることを主張したがそれぞれ阿修羅と、孔雀に(物理的に)納得させられている。
「これより後の掃討指揮は帝釈天に委譲します。私は主の補佐に行ってまいりますので速やかな掃討をお願いする」
そう言って各々散開する。
そのままその場所より魔物を探す薄紅。
数分付近を散策したことだろうか。魔物が一団になっている地点を発見する。
近づいてみると冒険者らしきパーティが魔物と戦っているようである。
「この付近に人の出歩きなんてなかったと思うんだけど」
とりあえず人にも見えるように姿を現す。
逆方向からではあるが巻き込まれはしないだろう。
「音圧榴弾」
唱えると冒険者に襲い掛かっていた魔物がはじけ散る
薄紅の能力である音使い。真骨頂は[音を超える音]を任意で作り出せること。
正確に大きさも調整しピンポイントで超音速音を作り出す。
体内に衝撃波が発生して耐えられる生物などいない。
苦戦していた魔物がいきなり全滅したことに驚く一団
「貴方たち。おそらく東回りで戻る道は魔物はいないはずだからそちらからお帰りなさい。」
確か紫苑がそちらから来たはずだからおそらく大丈夫だろう、程度の知識だがそういった。
彼らの存在は振り返ったときには頭から消えていた。次の魔物を探すために意識は既に別方向に向いている。
「まった!ちょっと待ってくれ!」
気にすることなく立ち去ろうとする薄紅を引き留める男。気にしてなかったとはいえ腕を掴まれ引き留められた。そこでようやくこの一団を意識して見る
屈強な剣士三人女性二人のパーティである。見ればわかるが全員の防具に防御魔力が付与されている。
それらの防御能力とおそらく魔術師の防御魔術によって何とか魔物を退けていたのだろう。
聞けば地下のダンジョンを探索中転移陣トラップで地上に戻ったときにいきなり魔物に取り囲まれていたとのこと。
ここまで魔物が減っていればおそらく死なずに街まで戻れるだけの実力はありそうだ。
なぜか一人の剣士が執拗に一緒に行くように勧めてくるがそんなことをしていられない。
なによりタイムリミットがあるのだ。こんなところで猶更時間の消費をしている場合ではない
しつこく掴みかかってくる男を投げ捨て。邪魔はしないように言い含めると私はその場を離れた。
そういえばダンジョンがあるとは聞いたことがなかった。主も知っているのか確認しよう。
ダンジョンならばなおさら私の能力も使えるし呼び出してもらえる頻度も高くなるだろう。
そうすれば覚えもよくなってなおさら親密になれるかもしれない。
主の事を考えると心が軽くなる。いい気分になったところで仕事の続きを片付けてしまおう。
その後魔物を殲滅する薄紅。出会った人間のことなど頭からはすっかり抜け落ちていた。




