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八百万の精霊召喚~異世界神から日本妖怪~  作者: 那園曽 氏規
本編

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65話

王都ではパニックが起きていた。

大量の魔物が王都に進軍してはいるものの

手前で見えない壁に阻まれそこからは入ることができずにうごめいている。

そして物見が見るところ徐々にではあるが何ものかが魔物を蹴散らしている。


空に浮かぶサーペントドラゴンであったり巨大な鳥であったりまた巨大な獣であったりは確認できるがそれ以外にも徐々に減ってきているようである。

それはまるで潮が引くような歩みではあったが確実に減ってきているのは目に見えて明らかであった。

そのおかげもありパニックは徐々に収まってきている。住民も不安ではあるが落ち着きを取り戻してきている。

神殿内では王がその様子を聞き周囲の警戒と神事の続行を指示する。

何があろうと神事は中断できないからである。

ざわつきが大きいながらも神事は続いていく。


しかし王城ではそれどころではなかった。

騎士団は警備に駆り出されているうえに魔物の襲来ということもあり街中のパニックと変わらぬ様相で文官武官が走り回って処理をしている。


当然牢の見張りなどに人を割くこともない。


牢の中、フレドリック・ガルーはただ始まったなという感想しか持たなかった。どちらにしても今自分のすべきことはない。ただふざけた手で自分を倒したあのガキにもう一度対峙したいという思いはあるが、どちらにしてもここを出てからの話、今は静観しかない。


するとガチャリと牢の鍵を開ける音がする。ほどなく扉が開きスーツに身を包んだ男がニヤニヤしながら立っていた。


「やあ、助けに来たよ」


久しぶりの友人にでも会ったように気軽に言う。すると近づいてきて彼を拘束している首輪に鎌のようなものを差し込み引き抜く。

鉄の芯の入った頑丈な拘束具はまるで糸を鋭利な刃物で切断する様に何の抵抗もなく切り取られる。


「さて、これで僕の仕事は終わりだ。あとは君の残った仕事をするがいい。」


「この後どうするんだ?」


「何もしないよ?強いて言えば来る途中に出会った可愛い娘とデートするだけさ」


「好きにしろ。俺はいく」


「お気をつけて。ああ、キングからの伝言だよ。君を捕まえた少年、邪魔になったから排除していいってさ」


それを聞き残虐そうな笑みを浮かべる。その笑みは口角が広がっていき全身が毛深く体は一回りは大きくなっていく。狼男に変身し終わったと同時に風のように駆けだす。

目的地はにおいが教えてくれる。屈辱は倍にして返してやる。そう思い人狼は駆けていく。


残された男は一人悠然と牢を出て行く。はずであった。


「ねえ、どこに行くの?」


甘ったれた声をかけられ振り返る。牢の中には一人の女性が立っていた。

年のころなら20代になるかならぬかというところ。腰までとどこうかという黒髪のストレート。

そして若草色のドレス。ウエストはくびれ胸元は見事に強調されている。ある意味牢という場所にもっとも似つかわしくない清楚さと色気を漂わせる美女であった。


「デートだなんていって目の前の女を放って行くつもり?」


「いや、君以外目には入らなくなったよ」


そう言って近づく。女性は手を差し出し、男はエスコートする様に恭しくその手を取る。

刹那、男はその手を掴み女を引き倒す。同時にどこからか鋭利な刃を出し女の首筋を撫でつける。

必殺の間合い、手ごたえもある。

誰もいないはずの牢から突如現れた女が人であるはずもない。躊躇なく始末を選択した男であった。


だが


「駄目ね!、強引でせっかちな男は嫌われるわよ?」


女の首筋には赤いあざが残っているだけ。それも見る間に消えていく。

男はそれを見、初めて本気の戦闘態勢をとる

赤黒い刀身を持つ刃、先ほど女の首に切りつけた物より数段大きなものを構える。


「クリーク・チャップマン。貴方のデートってこの程度のイベントしか出てこないのかしら?」


そういって女、翡翠は微笑む。但し口調とは違いとても冷淡に。


「人違いだって言っても聞いてくれそうにないね」


「そうね、名前なんてどうでもいいの。問題は貴方のした行ないに私が我慢できないってことだけだから」


「君に対してしたことは謝るよ。でもそれ以外に何もしていないんだがなぁ」


「あら、そう?それじゃあその武器は誰の血でできているのかしら?」


感心したように口笛を吹く男。

そう、彼のスキルは血液操作。文字通り血液を操り使うスキル。

応用範囲は鋭利な刃物から錠前までその気になれば銃弾にもなるであろうが銃はその構造を知らないために作ったことはない。

ただ問題は新鮮な血(・・・・)でなければいけないところ。血であれば魔獣、家畜問わない分戦闘継続性は高いが最初の血液を用意するまでがネックとなるスキルである


目の前の女がそれを見抜き、なお対峙しているということにクリークは警戒を強める。

どのようなスキルを使ったのか知れないが自らの必殺の一撃を受けて平然としているなどあり得ない。


「ああ、そうそう。貴方のデート相手ですけれどとりあえず自由にしてあげましたわ。」


「自由ってどうやってだい?あの子は僕無しじゃ生きていけないんだよ?」


彼がこれから会いに行くつもりだったのは個人的な奴隷。彼個人に絶対服従とし血液をとるためだけに囲っている女である。


「そもそも、個人的な奴隷なんだよ?どこへ逃がそうとすぐに戻ってこさせるのは可能じゃないか」


「せっかちね。だからとりあえずって言ったじゃないの」


言うや否や視界から消える。

同時にわき腹に打ち込まれる衝撃。

男は持つ剣でとりあえず受けるが衝撃を殺しきることもできず吹っ飛ばされる。


「貴方を殺せばいいだけですもの」


そういって微笑む。その顔はセリフに似合わずとてもかわいらしい。


「貴方、そのスキルの為に何人犠牲にしたか覚えてる?」


「覚えているわけないよ。生きていて、した食事の数を覚えていられる人がいないのと同じだよ」


そういい壁を切りつける。

彼のスキルで作った刃は鋭利さと強度を兼ね備えている。

鉄の棒を力も入れず切断できるのもその力。

勿論牢の壁など本来は紙を切るように切れてしまう。

はずであった。


「無駄よ?あたしとデート中なんだから。」


壁には何の変化もなくただ作った刀身だけが削れている。それを怪訝に思っている男に対して笑うように翡翠は答えた


乾闥婆王翡翠の能力の一つ[消去(イレイズ)] 

スキル、魔力、物理 すべてのパワーベクトルを拡散させ現象を起こらなくさせる防御結界を発動できる


もちろん力の向きを変えるという性質上受けきれない力は拡散させることなどできないが人の魔力など神将である彼女の驚異にはならない。


「さあ、邪魔されることなくたっぷり楽しみましょう」


歌うように言い放つ。


「たっぷり逝かせてあげるあげるからね」


それが男の聞いた最後の言葉となった。

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