63話
見る者がいたとするならばそれは異常な光景であったろう。
地面より何かがはじけたと思ったら突如空中に縦100メートル横500メートルはあろうかと思われる巨大な黒い平面が出現したのだから。
ただ異常はそれだけではない。その巨大な平面からは瘴気があふれ、狂ったように魔物が飛び出して来ていた。
獣型、鳥型、人型そしてトロール、サイクロプスなどの巨獣型まで。
彼らは瘴気に侵され目は狂気に満ちている。ただ破壊衝動のままに一方向を目指す。
導かれるように一点を目指す彼らだが進行の邪魔はできない。
そのようなものがいたとしてもそれは次の瞬間肉片となるだけのものである。
そう、本来ならば。
魔物の黒い大群の進行方向に立つ人影。
体つきから女性と判るが身長は170センチを超えかなり大柄である。
あまり長くない髪を後ろで束ねているのは邪魔にならないためか。ただし髪留めは女性らしい桜色である
そして特筆すべきはその得物。分類としてはグレイブであろう叩き斬るための刃物が付いた長柄の武器。
但しその先につく刃は斧と言わんばかりに大きい。それを軽々と回し準備運動のようにもてあそんでいる
八部衆が一人摩睺羅伽王雷桜である。
「見つけたよ~。やっちゃってもいいよね?」
「早いですね摩睺羅伽王。貴女が一番です。被害の出ないようにお願いしますね」
「うっし、やるかぁ」
遊びに行くようなノリで軽々と跳躍し魔物の大群の鼻先へと降り立つ。間髪を入れずに獲物をふるう。
一見すると軽い動作である。
だがその衝撃を受けた部分の魔物は消失する。死ではなく消滅ということからも威力がわかろうというもの。その力を感じ取ったのか狂気しかない魔物は迂回を始めた。この脅威からは逃れなければならないと本能で感じ取ったか。
雷桜を起点に二つに分かれる大群。さしもの神将とは言え点の攻撃で面を全滅させるのは難しい。
「あ~もう逃げるなっての。ここはあたし一人の手柄にして主にご褒美貰うんだから」
攻撃をするほど広がる大群にイラつきの混じる雷桜の攻撃は徐々に効果をなさなくなっていく
なおもイラつき効果の下がる悪循環が続いたとき。突如炎が上がり先頭を行く魔物が燃え出す。
炎の先には一人の女性 馬頭観音ハヤグリーである
「お手伝いいたします、摩睺羅伽王」
「いらないよ、あんたはどっかよそに行きなさいよ。ここはあたし一人で充分」
「充分で無いようでしたのでお手伝いに参りましたが」
「不要だね。特にあんたは主に手を出したそうじゃないか。それならあんたもあたしの敵ってことだよなぁ?」
始めて殺気を出す雷桜。だがそれに気にする風もなく
「そうですね。ですがだからこそ私は主の信を取り戻すために任務を全うしなければいけません。主にもう一度信じてもらい伽のお相手をすることこそ私の存在意義なのです」
「何だってぇ?伽?ダメだよ、それはあたしが御褒美でもらうんだから」
「無駄です、あなたのようなガサツな女では主には似合いません」
「ガサツはお互い様だろ、男女。あたしの方がいい身体だからな。」
言い終わらないうちに二人の影が交錯する。雷桜の顔面を狙ったハヤグリーの右ストレートを紙一重でかわしていた。
「お前に言われる筋合いはねえんだよ。」
先ほどの静かな言葉遣いとは確実に違っている。
「第一、お前のは胸があるんじゃなくタダでかいだけだろうが。主に合うのはアタイの方だって誰が見ても分かるってもんだ」
「うるさい、主もまだ成長期なんだからな。数年後には背も伸びてあたしをお姫様抱っこできるくらいになるはずだ」
「仮にその日が来てもあんたにお姫様抱っこは似合わないがね」
口喧嘩だけではなくお互いに攻撃しあっている。但しそれぞれが回避し被害はすべて魔物軍勢が受けている形となっている。
その後も二人は喧嘩を続け魔物を屠り続けて行った。
「何やっているんでしょう?あとで主に報告する私の身にもなってほしいです」
二人の戦果を確認しながらマリーチーはため息をついていた。




