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1-5 教訓

 ふっ、決まった。

 だが、ふと辺りを見回す。ゲヴィの姿が見えない。見えるのは、遠くに見えるいまだに苛められているデブと若者二人だけだ。


「ゲヴィ、どこに行った……?」


 思わず口に出る。


『ここにいますよー?』


「…………!」


 その声は間近に聞こえた。

 いや、むしろ、近すぎるというか脳内からというか。


『言い忘れてました。変身はステッキの呪術変換で私と一体化にする事によって出来るものなんです』


「な、なんですと」


 そーいう大事な事は前もって言おうね。


 と、同時に一体化という言葉に興味が沸く。

 そういえばどんな風に変身したんだろうか。

 ふと浮かんだ疑問に身体に目をやる。


 物凄い格好をしていた。


 どう形容すればいいものやら。

 全体的な服の色は純白に統一されていた。胸元はピンクのハート型の胸当てが着用されていた。肩当ても付いている。これはこれで防御力がありそうなので良しとする。手袋とブーツは純白で、脛当は色はハート型からきているのかピンクだった。スカートは予想通りひらひらしていた。


 アイドルデスカ……?


 そして何故か下着の代わりにブルマを着用していた。

 謎だ。


 髪の毛もどうやら伸びているらしく、デフォルトで結わえてあった。

 見たところ髪色は変わっていない……鏡が無いので確かな事は判らなかったが。

 まぁ、こんな格好は予想していた事だったので覚悟はあった。


 だが……だがしかしだ……なんとなく、胸が膨らんで見えた。

 それに下半身が何とも言えない頼りない感覚だ。


「んむぅ」


 まずは胸の方に着目してみる。

 目の錯覚ではないらしい。

 触ってみる。

 弾力があった。

 意外にボリュームがある。


「…………」


 次は下の方を触ってみた。

 弾力が無かった。


「…………な、なんですと!」


 びっくりしていた。

 いやもうこれはびっくりを遥かに越えていた。


 俺は……女の子になってしまったですかー!


『びっくりしてる場合じゃないです。早く助けに行かないと手遅れになってしまいます』


 うっ、そうだ。考えるのは助けてからでも遅くはない。


 しかしこれはあれだ。


「正義のヒーローとしては顔丸出しはちょっと信義に外れるな」


「魔法少女ですけどね。それに関しては安心してください。認識障害がかかってるはずです。親しい人には効かないらしいんですが……」


 親しい人にこそ効いてほしいんだぜ!


「ええいとにかく、今助けに行ってやるぜ、デブ!」


 ジャスティス、初の一言は正義の味方がするような発言ではなかった。

 しかしどうあれ、少年は悪を正す力を手に入れ、正義の心を存分に発揮する場を手に入れた。


 強大な危機とは何なのか。

 それはどんな危機なのか。

 降り注ぐ困難は、まだ見えない……




「ただいまー」


 しばらくして、悪党共をぶちのめし、男を助けてマサヨシは家へと帰ってきていた。


「おかえりー」


 リビングにいるらしい姉の夢見の声が出迎える。

 テレビでも見ているようだ。

 奥では母親の無駄に音量の大きな鼻歌が聞こえてきていた。

 料理でも作っているのだろう。


 よし、なんとかなりそうだ。


「今だジョニー」


 マサヨシは後方に目配せをする。


「私ゲヴィッセンです。ジョニーなんかじゃありません」


 んなこたーどうでもいい。


 口を尖らせるゲヴィを二階へと導く。


 早く、二人に気付かれる前に!


 見た目可愛い少女を部屋に連れ込むところなんぞを見られた日にゃ、何を言われるかたまったもんじゃない。


「あれ、あんた階段で何やってんの」


 だが、そんな時だった。


 間が悪いというか運が悪いというか、CMの合間にトイレにでも行こうとしたのかひょいっと姉が顔を出す。鉢巻をリボン代わりに横に一房まとめた活きのよさそうな娘だ。


 そして見た。


「正義……あんた……少女とか……ロリすぎるでしょ」


 その目が見開かれる。

 最悪の事態だ。


 さすがに無断で連れ込もうとしたのはまずかったか。

 せめて迷彩服でも身に着けてさせておけば良かった。


 とりあえずマサヨシは灰色の脳細胞をフル回転させ、苦し紛れのいい訳を考え付いた。

 そして言おうとした。


「あっ」


 同時にゲヴィが階段から足を滑らせていた。

 その手は助けを求めるようにマサヨシのズボンに伸びていた。


 溺れる者は藁をも掴む。

 だが所詮は藁。


 ドスンッと、健闘空しくゲヴィは盛大な音を立てながら階下の廊下へと胴体着陸していた。

 マサヨシを巻き込んで、だ。


「なぁに~どうしたの~?」


 台所から母親も顔を出す。

 その目には、ブルマを履いた息子の姿が映っていた。


「…………」


「…………」


 時の世界に放り込まれたかのように、姉母両人ともその動きを止め、微動だにしない。


 この場にしばし、静寂の世界が訪れた。


 いつまでもこの世界にいるわけにはいかない。

 意を決し、とりあえず、この静寂を最初に破ったのはマサヨシだった。


「ブルマを履きたい年頃ってあるよね?」


 あるわけなかった。

 問答無用で張り倒された。

 しかも容赦も全く無かった。


 ブルマに思い入れでもあったのか、姉の一撃は速く重かった。

 クリティカルが何発もその身に入り、マサヨシの意識は飛んでいた。

 そんな光景を眺め、母は口に手を当て、のんびりと口にした。


「方向性はちょっとアレだけど、マサヨシも大人になりつつあるのね」

 

 その夜直ちに家族会議が開かれた。

 その際にうやむやのうちにゲヴィの同居は認められていた。

 一応本人の口から家出じゃないと説得し、なんなら捜索願いも調べても構わないという強い意思からとりあえず様子見という事になった。

 ブルマショックの影響からか、反対の声は上がらなかった。


 だが、父の顔が少し紅かったのが懸念と言えば懸念だっだ。


 何はともあれ、マサヨシは今回の事件で教訓をその胸に刻み込んだ。



 教訓【ブルマは履いたらすぐに脱ごう】

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