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1-4 変身

 それは春休み中のある休日のお昼の出来事だった。

 見た目ちょっと太った一人の男が街を歩いていた。

 彼は使命という名の重大なる買い物を終え、意気揚々と自宅に帰っていた。

 事件はそんな時に起こった。



「や、やめておくれよ~」


 地べたに這いつくばり、男は情けない声を上げていた。


「うるせぇ! デブはピザでも食ってろ!」


 ここは大通りから少し離れた少々狭い横の通り。

 ラフな格好をした学生風の着こなしの若者が二人、男を足蹴にしていた。

 その手には男から奪ったのか、可愛らしい服を着た人形が乱暴に握られ、地には可愛らしい女の子のイラストのついた箱が無残にぼろぼろにされ、隅に放られていた。


「返して! 返して! 大切なお人形なんだよ~」


 男の必死の嘆願を若者二人は笑い飛ばした。


「聞いたかおい、お人形だとよ!」


「こーいう馬鹿は死なないと治らねぇよな」


 顔を見合わせ、下卑た笑みをさらに歪ませる。


「よし! 人形の服を脱がせてやるぜッ! あそこが本物と同じかどうか見てやるッ!」


「や、やめろォ! それだけはやめてくれー!」


 そんな光景を遠くの影から見つめる視線が二つあった。


「ま、マジに悪党だ」


 一人はマサヨシだった。

 そして横に目を向ける。

 そこには悪党探知機を手に持った「どんなもんですか」と胸を張る小生意気な少女が一人立っていた。


 ええぃ、さっきまでは気弱だった癖に。

 ともかく、どうしてくれようか。

 視線を元に戻し、考える。


 相手は頭は悪そうだが腕っ節は悪くはなさそうな学生風二人組だ。

 対してこちらは中等部の少年一人。この少女は使い物にならないだろう。

 このままでは勝ち目は無い。


 しかし、考える。


 行為に意味があるのであって、正義に勝ち負けは関係無いのではないだろうか。

 いや、正義は勝つという言葉もある。

 正義は勝たねばならないのではなかろうか。

 いや、しかし……


「あ、あのですね、一人で考えてるところ悪いのですが、一つ提案があるんです」


「む? そこのへなちょこ娘。何か良い案でも浮かんだのか?」


「へ、へなちょこ…………」


 なんとなく少し傷ついたようだがそれも一瞬、「ええ、良い案です」と持ち直す。

 むぅ、やはり意外に強い。このタフガイ野郎め。


「なんとなく悪い予感もするが言ってみろ二等兵!」


「ゲヴィッセンです!」


「えぇー……憶えにくい」


 マサヨシの言葉に少女は抗議の目を向ける。

 むむ、慣れてきたのか最初の気弱さが無くなってきたか?

 それと同時にそういえば少女の名前を一度も口にしていない事に気付く。

 なんとなくバツも悪い。


「縮めてゲヴィで、いいよな……んでなんだ?」


「はい、これです!」


 名前を呼ばれて嬉しかったのか、彼女は元気に返事を返し、あるブツをマサヨシの前に差し出した。


「これは……ステッキ……か?」


 形状は紛れも無くステッキだった。いや、むしろ先端が星型の布団叩きに近いか?


「はい、先祖伝来、昔から語り継がれている正当な魔女っ子ステッキです!」


 力説。何がそんなに嬉しいのか、ゲヴィはひどく元気だ。

 そしてそんな魔女っ子ステッキをマサヨシの前に差し出す。


「さぁ、変身です!」


 気弱さはどこへやら、今のゲヴィは無理を無理とも思わない敏腕マネージャーのそれだ。


「あの……ゲヴィさん……つかぬ事をお伺いしますが、変身をしたら私、男なのに少女チックな衣装なんぞに身を包まれるんでしょうか」


「でも、正義を行使できる強さが手に入ります」


 否定はしなかった。だが、交換条件とも言うべきか、魅力のある条件を提示された。

 男のプライドを優先し、ここは見て見ぬ振りをするか、それとも男のプライドを捨て、悪を叩きのめす強さを手に入れるか。


「誰か助けてくれー!」


 男の悲鳴が辺りにこだまする。だが、誰も助けない。見向きもしない。自分に危害が及ばなければ関わらない。そうだ、それが、利口な生き方だ。


 今のせちがらい世の中、正義を重んじる生き方はひどく生き辛い。

 そんな事はもう判ってる。

 だが……

 プライドと強さ。そんなもの、既に答えは出ていた。


「ゲヴィ、変身呪文を教えてくれ!」


 マサヨシはステッキを手に取った。



 世間的には間違った判断かもしれない。

 けど、俺はそんな俺の判断を歓迎する。

 俺は、正義だ。

 例え世界の全てが悪となってしまっても、俺だけは、正義のままでいる……それが、俺の誓いだ。

 破られる事の無い、俺だけの誓いだ。



「はい、変身呪文は先端近くのボタンを押しながら設定です!」


「よし、これか!」


 ボタンを押し、息を吸い込む。


 そんな時だった。


 一陣の風が吹き、ゲヴィのミニスカートを大きく浮き上がらせる。そこには純白のパンティがその存在を誇示していた。


「ウホッ、良い純白」


 バシッ!


 刹那、頬を染めたゲヴィの平手がマサヨシの頬に炸裂していた。


『ピッ、設定完了しました。以後変更は受け付けません』


 機械音声っぽい声がステッキから漏れた。


「…………」


「…………」


 魔法の国もえらく近代的になったもんですな。


「ゲヴィさん、一つ訊いていいかな……」


「…………はい、なんでしょう」


 聞かれる内容を予想しているのか、彼女の顔は青ざめている。


「これは、あれかな。変身のたびに、君に頬を叩かれないといけない……のかな?」


「…………」


 無言ではあったが、意を決したのか、力強く答える。


「せ、精一杯叩かせてもらいます」


 肯定かよ!


「ちょ、取り消しとかできないのかよ! 昔から語り継がれてるんだろ?」


「はい、この手帳にしっかりと。昔から語り継がれた正当な魔法ステッキって書かれてます!」


 手帳をチラ見しながら、ゲヴィ。


「変身呪文の初期化は持ち主の死亡によって行われるって書いてます!」


 何故か自信たっぷりに答えるゲヴィ。


「…………そういや、昔から語り継がれたって割りには呪文の設定はボタンなんだよな? しかも機械音声ぽかったよな」


「そういえばそうですね。けど、そんなの些細な事です! だって世の中には発掘された大昔の守護者にミサイルがついてるくらいなんですよ!」


 それは……テレビ番組だからじゃね……?


 その自信はどこから沸いてくるのか、今のゲヴィは疑問などどこ吹く風だ。


 駄目だこいつ。俺がしっかりしないと……

 そんな事を思った時だ。


「だ、誰かー!」


 男の悲鳴が辺りに響く。

 ええぃ、悠長に問答をしている場合じゃなかった!


「くそっ、変身いくぞ!」


「はい!」


 二人の意識が変身へと収束する!


「ウホッ、良い純白」


「えいっ!」


 バシッ!

 良い音がした。クリティカルだ。


『エラーです』


「ぐはっ」


 マサヨシに精神的ダメージ!


「ゲヴィ、掛け声駄目! 掛け声駄目!」


「は、はい!」


 痛む頬をさする。


「うう、もう一度だ!」


「はい、頑張ります!」


 強く叩きすぎるなよ! などと内心思うが彼女はひどくやる気満々だ。


「ええぃ、いくぞ……ウホッ、良い純白」


 バシッ!

 今度は無言の強烈な平手が正義の頬に炸裂する!


 目に星が飛び、身体に星が飛び、そして全身が光に包まれる。

 ふわふわとした感触がマサヨシの身体を包み込む。

 手に手袋の感触が、足にブーツの感触が

 そして変身が終わると同時に光が消し飛ぶ。


「変身…………完了!」


 敬礼!

 そして敬礼解除と共に左右に足を広げポーズを取る。

 いつか正義の味方になれると信じ、子供の頃から影で必死に練習していた変身完了ポーズだ。


「これが俺の……ジャスティス!」


 そして決め台詞!

ジョジョは一部二部が大好きです。

当時は後ろの方の人気だったんですよね。

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