閑話・ヴィヴィアン 「わたしの友達」
ねえ、聞いて。
わたし、この国に来てから、毎晩日記をつけてるの。お兄様に言ったら「三日で飽きるよ」って笑われたけど、もう四か月も続いてる。だって、この学校はおもしろいんだもの。
今日の日記は、ちょっと長くなりそう。
北の砦から帰ってきたの。大変だったのよ。魔物がたくさん出て、吊り橋が落ちて、わたしの友達が向こう側に残っちゃったの。
あの子のこと、前にも書いたかな。ダフネ。銅貨を噛む子。わたしの菓子を口へ運ぶところで取ると、ちょっと呆れた顔をして、それから口の端だけ笑うの。あの顔が見たくて、ついつい取っちゃう。ごめんね。
橋が落ちたとき、みんな泣いたり怒ったりしてた。熊みたいな先輩が三人に押さえられて、ものすごい顔で暴れてた。ああいう人を見ると、わたし、好きだなあって思う。
わたしはね、考えてたの。
だって、おかしいんだもの。鐘が鳴ったのは、あの子が走り出したあとよ。鳥が飛んだのを見たって、普通はあんな顔にならない。あの子、ずっと上を向いて、誰かの話を聞いてるみたいな顔をしてた。
旗取りのときもそう。茶会のときもそう。毛玉ちゃんはかわいいけど、あんなに賢い子には見えないわ。
すごいなあ。本当に、すごい。
だから、先輩を押さえてた人たちが手を離したときに、わたし、教えてあげたの。
「ねえ、聞いて。リュミエールの古い地図にね、この砦の西に、昔の鉱山の道があるって書いてあったの。尾根を越えれば、谷を渡らなくていいのよ」
先輩、びっくりしてた。王女様、本当ですかって。本当よ。わたし、地図は大好き。この国の地図は、お父様が全部くれたから、たくさん持ってるの。
先輩は寮の人を二十人くらい連れて、すぐに飛び出していった。地下の子たちも、鱗馬に乗って飛び出していった。背の高い、静かな子が、わたしに深く頭を下げてくれた。
いい人たちよね。
死なないでほしいな。あの子だけは。せっかく見つけた友達だもの。
あ、そうそう。メイドさんの話も書いておかなきゃ。ダフネの乳姉妹の。ネリネさん。
あの人、いい人なの。優しくて、よく気がついて、いつも静かにほほえんでて。わたし、お茶を習おうかなと思ってる。あの人が毎日あんなに大切に持ってくるお薬、どんな味がするのかなって、ときどき考える。きっと、とても苦いんでしょうね。ダフネはいつも一息に飲むもの。えらいわよね。
今日、夕方に戻ってきた馬車の窓から、門のところに立ってるあの人が見えたの。
小瓶を持って、じっと北の空を見てた。
三日も帰らなかったのに、ちゃんと時間どおりに。
わたし、手を振ったの。あの人も、そっと頭を下げてくれた。
なんだか、うれしくなっちゃった。友達の大切な人は、わたしにとっても大切だもの。
さて、星を数えて寝よう。
お母様が持たせてくれた蜜星、まだ箱に百七個あるの。一日に一つか二つしか減らないようにしてる。どんどん人にあげて、どんどん取り返せば、なくならないでしょう?
お手紙も書かなくちゃ。お父様へ。いつもの書き出しで。
『お父様。わたしは元気です。今月も、大切なお友達の話をしますね』
ねえ、聞いて。
この国に来て、本当によかった。
ダフネのことが、大好きよ。




