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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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(54)伊勢海老と格闘。海老とか冷凍とかでしか食べないや(泣き)

 そうして、桜が用意してくれたプライベートルームの個室内で、オシャレに食事を取ることになった。瀟洒(しょうしゃ)なシャンデリアに、豪華な調度品の数々。イタリア製の老舗ブランドの肘掛け椅子に座り心地を堪能しながら、窓ガラスから地上150メートル下の夜景を見下ろす。


 どうやらこの部屋は、予約サイトにも乗っていない特別な部屋らしい。選ばれた招待客にのみ入ることを許された、インビテーション(招待制)オンリー・フロア(の部屋)。桜の父親がホテルの大株主であるがゆえの特権だ。そのことは、足元を包む毛足の長い絨毯、壁に掛けられた重厚な油彩画、専属ピアニストが弾くグランドピアノの生演奏がつく所からも、容易に伺える。


「アペリティフは、いかがいたしましょう」


 給仕係のウェイターが、恭しくメニューを持って話しかけてくる。

 アペリティフとは、シャンパン、シェリー、ベルモットなどの、いわゆる食前酒のことだ。


「そうね~。わたしは季節のフルーツを使ったノンアルコールのベリーカクテルを。拓夢くんは少し喉が渇いてるみたいだから、シチリア産レモンのスパークリングをお願いできるかしら? もちろん、ノンアルコールでね」


「かしこまりました」


 姿勢よくお辞儀をしながら、去っていくウェイター。


「あ、あの……」


 拓夢は、遠慮がちに話しかける。


「なぁに?」


「こういうお店……よく来るんですか?」


「まあ、たまにかな~。お誕生会や親戚の集まり、社交界なんかでね。だいたいこういう場所だったな~」


「お待たせいたしました」


 タイミングを見計らったように、ウェイターが銀のトレイを運んできた。

 シチリア産レモンの瑞々しい黄色が、スパークリングの泡と共にシャンデリアの光に照らされている。

 桜の前には、ベリーカクテル。透明なクラッシュアイスと、濃密な紅色が輝いて見える。


「さあ、乾杯しましょう?」


「あ、はい」


 拓夢は言われて、グラスを前に差し出す。「カチッ」という心地の良い音が、ピアノの演奏の音と混ざって溶け、重厚な余韻を部屋の中に残していく。


 拓夢は緊張した面持ちで、冷えたグラスを口に運んだ。


「……っ! このカクテル、味が濃いですね」


 清涼感を期待してカクテルを飲み込んだ拓夢の口にあったのは「違和感 」だった。確かに美味しい。甘すぎず苦すぎず、それでいて濃厚なレモンの酸味が口いっぱいに広がる。

 しかし奇妙なことに、なんともいえない薬臭さと、金属のような後味の悪さもこびりつくのだ。


(薬品?)


 そんな言葉が、脳裏をよぎる。

 まるで病院の薬液を飲んでいるような、そんな違和感が――


「拓夢くん、どうかしたのぉ?」


 桜が、心配そうに尋ねてくる。


「い、いや。何でもないですよ。普段はコンビニのペットボトルくらいしか飲まないから。なんだか味が違いすぎるなって」


「イタリアの潮風をたっぷり浴びたレモンを使ってるそうだからね~。炭酸の入れ方も、専用の加圧機でゆっくりと溶け込ませているみたいだから。そのせいじゃない?」


 桜はグラスを揺らしながら答えた。波打つ紅色のカクテルの渦が映る彼女の瞳は、とても妖艶で艶めかしかった。


「……それより、わたしはもっと拓夢くんのことが知りたいな。聖ジュリアンヌ女学院に入ってくる前のこと、もっと知りたい」


「僕のこと……ですか」


 拓夢はグラスをテーブルに置いた。透き通って冷えたグラスは、まるで自分自身の過去のように感じる。


「驚くかもしれませんけど……僕には幼い頃の記憶がないんです」


「え……」


 ピアノの旋律さえ、一瞬止まってしまったかのような沈黙。

 悲痛な表情で顔を覗き込む桜に拓夢は、


「僕は、五歳の頃に今の両親に拾われました。それ以前はどこで暮らしていたのか、実の両親はどこか、この『拓夢』って名前も、本当の名前かどうか分かりません」


「そう…なんだ……」


「失礼いたしました。本日のオードブル、『京鴨の生ハムと有機ベビーリーフのサラダ、完熟無花果(いちじく)添え』でございます」

 

 気まずい空気の間にウェイターが入ってきた。

 運ばれてきた皿の上には、薄切りにされた赤い鴨の生ハム。その周りを囲むのは、力強い緑のベビーリーフと、とろりと甘そうな無花果。仕上げに上質なバルサミコソースが細く線を描き、雪のように削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノが振りかけられていた。


「わあっ、来た来た。ほら、拓夢くん食べて食べて~」


「あ、はい」


 明るく話す桜に助けられつつ、フォークで鴨の生ハムを一枚、口に含んだ。


「……っ! なんだこれ。すごく、おいしい……!」


 噛んだ途端に、口の中に油がじゅわっと染み出す。次に鼻から抜けていく燻製(くんせい)の香り。酸味の効いたバルサミコソースと混ざって、凄く贅沢な味に感じられた。


「すごい……おいしいですよ、桜さん」


「うふふ、無花果と一緒に食べると、もっと美味しいよ~」


「え、そうなんですか?」


 言われたとおり口に含んでみると、鴨肉の濃厚な塩気と、無花果の豊潤な甘みがワルツを踊り始め、一噛み一噛みが幸せなコンサートへと変貌する。


「ねえ、拓夢くん。さっきの話の続きだけどさ。本当に何も覚えてないの? 小さい頃誰と会って、誰と遊んだとか、どこに行ったとか」


 桜はフォークを置き、宝石のような瞳で拓夢を見つめながら問いかけた。その綺麗な瞳の奥には、きっと家族や執事に愛され、優しい同級生と健やかに過ごしていった記憶があるのだろう。

 しかし、拓夢には、


「本当に分からないんです。すみません」


 拓夢が頭を下げると、眼前の桜が「いやいや」と両手を振る。

 こっちの方こそごめん、とペコペコ頭を下げる桜に向かって、拓夢は気弱に笑いかける。


「すみません、せっかく僕の事聞いてくれてるのに。記憶……が……」


 拓夢は途中でハッと言葉を切る。最近よく夢に出てくる、怪しい女のことを思い出したのだ。自分を施設に閉じ込め、女に襲わせ、平然とモニター室からデータを取っていた。考えてみれば、あれは単なる悪夢ではなく、自分の記憶の断片だったのではないか?


「あの、拓夢くん怒ってる? ごめんね。私が変なこと聞いちゃったから」


 拓夢の無言を立腹と受け取ったのか、桜がおずおずと謝罪する。


「あ、いえ。今小さい頃の記憶を思い出そうとしてたんですけど、すいません。何も思い出せなくて」


「そんな。いいのよ。それに、わたし……」


 桜の言葉が言い終わらない内に、ドアがカチャリと開く。ウェイターがワゴンを引いて、次の料理を持ってきたのだ。


「お待たせいたしました。本日のスープ……『コンソメ・ドゥーブル』でございます」


ウエイターが恭しく、白日の器を音もなく卓上に置く。わずかな振動で、中の琥珀色の雫が静かに波打った。


「あれ? このスープ、具が入ってないのかな……?」


 拓夢が器を覗き込むと、桜はくすりと笑って、


「大丈夫だよ、拓夢くん。具なんて入ってなくても」


 と、スプーンを手に取りわずかにすくうと、


「これはね。牛の赤身肉と香味野菜を、数日間煮込んだスープなんだ。十分に煮出したら、また新しい食材を投入して旨味を凝縮させるの。おいしいから、食べてみて」


 言われたとおり、拓夢は恐る恐るスプーンでスープを口に運ぶ。


「はぅわ……!!」


 言葉にならなかった。

 温かいスープなのに、冷涼感すら感じさせるスッキリとした口当たり。その直後に押し寄せる、濃厚な肉の旨味。たった一口飲み込むだけで、このスープがどれだけの時間と手間がかけられているのかが分かるほど、豊潤な一口だった。


「すごいな、このスープ……」


「ふふっ、まだまだくるから。どんどん食べてね~?」


 桜がイタズラっぽく微笑む。と同時に、ウェイターが絶妙なタイミングで現れる。


「失礼いたします。本日のポワソン(魚料理)でございます」


 白手袋をはいた手で置かれた一皿は、活蝦夷アワビとオマール海老のポワレだ。トリュフが香るノワゼットソースがかかっている。フランス語で「ノワゼット」はヘーゼルナッツを意味する。それをバターでじっくり薄茶色になるまで加熱し、ナッツのような香ばしい匂いがしてきた状態の焦がしバターソースである。


 最高級だけあって、食欲をそそる匂いが鼻腔を刺激する。肉厚なアワビと色鮮やかなエビの濃厚な海の香りが、香ばしいバターの匂いと混ざり合って抜群の一体感を醸し出している。


「さあ、冷めない内に食べて~?」


 こちらの反応を楽しんでるかのような桜の言葉に押され、拓夢はナイフとフォークを手に取る。


「いただきます」


 想像していた通り、やはり旨い。口に入れた瞬間、「ブチン」と弾けるオマール海老、そこからナッツの香りと、豊潤な焦がしバターのコク、上品なトリュフの香りが鼻を突き抜けた後で、噛みしめるたびに磯の旨味が口元に流れてくる。


「ふわぁ……こんなに美味しいものを食べられて、幸せだなぁ」


 だらしなく頬を緩ませる拓夢を、桜はニコニコしながら見つめていた。


「ウフフ、そんなに慌てて食べなくても、これからも食べられるよ……。いつだってね(・・・・・・)


 彼女の表情には、先ほどの明るさから、底知れぬ怪しさが見え隠れしていた。だがそんなことは、必死にオマール海老と格闘する拓夢には気が付いていないのであった。

 

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