Episode-39
次の日、ようやく魔法使いは目を覚ました。シーナがオルスを集める練習に疲れて部屋に降りてくると、寝台から半身を起こした魔法使いとカイザスモーンが話していた。シーナを見るや否や二人は会話を終えたが、シーナは嫌な空気を一瞬訝しんだだけで、魔法使いの方へ駆けて行った。
「師よ! 気分はどうですか?」
「あぁ、シーナ。腹は減っているがいい気分だ」
シーナは魔法使いの弱い笑みを見て顔を覗き込んで「本当ですか?」と念を押した。顔が青ざめている。何か最悪の出来事を知ってしまったかのようなそんな顔だ。
魔法使いが「何も食べていないからな」というと、シーナは炊事場にいるカイザスモーンの元へ駆けて行った。
三人はカイザスモーンお手製のスープを囲んで快談をした。話したのはほとんどがカイザスモーンだったが、どれも未知の世界のことばかりで、シーナと魔法使いは時折、声を上げて笑った。魔法使いは愛想笑いのように生気の足りない笑いを作った。まるで心ここに在らずだ。シーナはそんな魔法使いが心配で仕方がなかった。
「それでだな、俺様が最後の蜜乳を頼んだもんだから、後から店に入って来た男の蜜乳が無いときた。上等な服を着たその男は諦められずに、胸を張って『蜜乳を今すぐ持ってこなければ明日にでもこの店を潰す』と言いやがった。乳が飲めなくて駄々をこねたんだ、大人がだぞ!」
シーナと魔法使いは、呆れた大人がいるもんだと笑った。
「だが終わりじゃねぇ、その男は地主の息子で言ったことはしっかりとやるやつだった。それが他人を不幸に貶めることなら絶対にな。店の主人は顔を白くして『ただいまお持ちします!』と言って裏手に駆けて行った。俺様は同情から『俺様があいつと話をつけてやる』と提案しに裏手に回ると、なんと! 裏手で主人に叱咤されながら夫人が自分の乳を搾ってるじゃねぇか!」
魔法使いとカイザスモーンが頭を仰け反らせて笑う横で、シーナは静かにスープを口に運んだ。師は大丈夫だわ。お下劣な話で笑えるんだもの。
これがその日の最後の話題だった。




