表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Belief of Soul〜繋ぐ者達〜  作者: 彗暉
第1章
31/75

Episode-31

 二人はばらばらに頭を振って周りを凝視するが、何も見えない。シーナは恐怖の興奮から息を上ずらせている。魔法使いは冷静に杖を握ると、すべての音に集中するために視点を一点に固定し、耳を澄ました。岩の引きずられる音が次第に近くなり、一番近い音が火明りの届く範囲に入ってきたかと思うと、魔法使いが蜥蜴を捕まえるかのごとき速さで杖を向けた。

 それは岩だった。シーナでも持てるような、焚き火の周りに組むのにちょうど良い大きさの岩だ。寒くて火にあたりに来たのだろうか? シーナはそんな呑気な考えを浮かべた自分を罵って思考を追い出した。

 自ら動く岩は、それぞれが重なったり、魔法の力なのか、ひっついたりして三歳ほどの子供の大きさになった。岩の小人のようだ。どうやって繋がっているのか、腕も三つの岩がただひっついているだけで、胴体の役目を果たしている岩の上に、頭の部分なのであろう岩が乗っかって、シーナと魔法使いを交互に見ているのか横に振れている。

 シーナは魔法使いの方を見た。言葉に出さずともその意味を察して、魔法使いは落ち着いた声で言った。


「私ではない。これは……魔法だろう。近くに誰かいるな」


 そう言うと魔法使いは、杖の先――宝珠の付いていない方を持ち、杖を高らかに掲げると、逆さに吊り下げられた大鍋を掻き回すかのように、大きく円を描いて振り回した。そのようすを、岩の小人たちは目も鼻も何もない岩の頭を魔法使いの方に向けて呆然と見ている。シーナは今にも岩の小人たちが襲ってくるのではないかと気が気ではなかった。

 二回ほど円を描いたところで、杖の先から炎にも似た薄い橙色の光が出ると、それは消えることなく宙に漂い続け、五回ほど円を描いたころには煌々と輝く、光で編まれたかと思わせる長い薄衣のような光が渦巻いていた。その美しさにシーナは小人が気になりつつも魅入って突っ立っていた。魔法使いは夜空を掻き回す勢いで杖を一回転させると、薄衣のような光が波動のように広がっていき、辺りを照らした。魔法使いは猛禽類のような鋭い目つきで辺りを素早く見渡したかと思うと、険しい顔になった。


「誰もいない。少なくとも私の感知できる範囲にはいない。私よりも高位の者の仕業だ。シーナ! 荷物を纏めろ!」


 魔法に気をとられていたシーナは、魔法使いの切迫した声に我を取り戻したかと思うと、椀の中身を火に投げ込み、拭きもせずに荷物に放り込んだ。だが、二人が荷物を担ぐよりも早く、岩の小人たちが動き始めた。二人は何をされるのかと身を固め、四方八方から歩いてくる岩の小人を見張った。

 岩の小人は、まず二人の足に群がり地面に倒そうとした。シーナはそれに負けずと必死に手をばたつかせて抵抗し、立ち続けようとしたが、ついには倒れた。魔法使いは声にならない唸り声をあげながら、風の魔法を操り、岩の小人を吹き飛ばそうとした。いくつかの岩の小人は、魔法使いの操る風の魔法で頭を吹き飛ばされたり、腕を飛ばされたりしたが、圧倒的な数の前に魔法使いも身動きが取れなくなってしまった。二人は地面に倒され、岩の手で肉の叩きにされるのかと想像したが、岩の小人は二人を持ち上げ、荷物も持ち上げ、親切に鍋も持ち上げて運び始めた。シーナと魔法使いは恐怖に顔を硬直させながらお互いの無事を確認すると、改めて岩の小人を見下ろす。


「師よ! これは一体!」


「わ、わからん! どこに運ぶ気だこいつら!」


 二人は岩の小人に担がれたまま、進んでいる方向――北を見た。明日の朝から進むはずだった方向に向かっている。

 シーナは何も抵抗できない状況に、ただ恐怖していた。

 恐怖のせいでどれほど時間が経ったかわからないまま、気づけば明かりの洩れる半球型の岩の小屋の前に連れてこられた。


 小屋をなす岩の一つ一つは一抱えほどの大きさで、それらを横一列に並ばせその上に岩の半分ほどずらすようにしてまた一列、というように互いの重さを利用して組み合わされ、天井は巧みに互いの重さを利用して構成されている。壁の隙間を適当な大きさの石で埋めているようで、モルタルやセメントを使う町の石造りの家とは程遠い構造に小屋と呼んでいいものか怪しいところであったが、アーチ状の入り口のところにかけられた角灯が小屋らしい印象を与えていた。

 小屋の前までたどり着くと、岩の小人は操り人形の糸が切れたように崩れ、ただの小振の岩となって地面に転がった。シーナと魔法使いは唖然とした表情で目を合わせた。

 二人は腰や背中を摩りながら立ち上がると、角灯の明かりの中に佇むアーチ型の入り口を訝しむように見た。気配も音もしない状況に、二人はもう一度目を合わせると魔法使いが入り口に向かって一歩進み出た。その手にはしっかりと杖が握られ、宝珠が角灯の明かりを受けて赤色に輝いている。魔法使いが二歩踏み出すのと同時に、小屋の中の奥の方から、木の扉を開ける音が響いた。魔法使いは足を止め、シーナを庇うように位置を変えて、杖を握り直しながら入り口を睨む。

 小屋の中から足音が近づいてくる。足音は重量を感じさせ、引きずるような足音ではなく、整然とした印象を抱かせる。角灯の明かりが作り出す光の闇との境界線に長靴だけが照らされた。それよりも上に続く体は小屋の影によって見えない。

 シーナは目を瞠った。魔法使いも唸りをあげた。その長靴は明らかに普通の人間の大きさではなかったからだ。膝までの丈はさほど変わらないが、厚さと太さが違う。そして、もう二歩ほど進み出て、明かりの中にその姿が曝された。


「なっ」


 魔法使いの思わず洩れた声に、その明かりの中に佇む男は何が楽しいのか、興奮を味わうかのような少年のような笑みを二人に向けた。

 シーナは恐怖を感じながらも、好奇心がまさり、無礼なほどの好奇の目で男を眺めた。男の顔は焼きたてのパンのような艶があり革のように厚そうだ。ふくよかだが逞しい肌で革を何枚も重ねたような、鍛冶屋のように炎を生業としている者を彷彿させた。顔は額と目元、鼻、頬骨の部分以外は黒色と灰色の髭に覆われ、まるで獣のように見える。髪は側頭部だけ編まれて後ろに流され、髭はおしゃれを意識してなのか、五本の三つ編みが、髪にも劣らない豊かな髭に混じっている。毛皮の服を着ていても、その下にある体は決して太っているわけではないと確信させる逞しさを放っていた。

 男はシーナと魔法使いをそれぞれつま先から頭のてっぺんまで、十秒はかけて眺めると、洞窟の中で発せられたかのような太く轟く声で言った。


「寒いだろう! さぁ入れ!」


 そう言うと、太鼓も顔負けの豪快な笑い声をあげながら中に戻っていってしまった。置き去りにされた二人は、その背中が消えるまで見つめた。


「あれは……人ですか?」シーナは魔法使いにようやく聞こえる声で言った。


「人のような獣か、いや、人だろう。だが、あそこまで体格の良い人間は見たことがない」


 聞かれるのを恐れて、二人ともかすれるような声で話している。


「なんだか、怖いです。……えっ? 行くんですか?」


 身なりを整えながら小屋の方へ歩く魔法使いに、シーナは驚愕の声をかける。


「少なくとも……悪い奴には見えなかったぞ」


「どこがですか! 全身凶器だったじゃないですか! 待ってください、小屋に入ったら殺されてしまうかもしれないですよ? あんな丸太みたいな腕……わたしは指で弾かれただけで死んでしまいそうです」


「おぉ、弟子よ。あの小人の魔法を見ただろう? 遠方からあそこまでの数の小人を操る魔法など知らない。好奇心はどうした?」


「好奇心って……。明らかに命の危険しか感じません。わたしはもう二度と死にたくありません」


 魔法使いは、とんがり帽子の影で眉を上げてシーナを見た。数秒その様子のままシーナを見たが、踵を返して小屋の中に入って行ってしまった。

 シーナはどうしたものか迷っていたが、迷いを振り切るように空を見上げて足踏みをすると、中身がこぼれてしまった鍋を拾い、それを武器がわりに構えながら魔法使いの後を追って小屋に入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ