Episode-22
シーナは火を熾そうと指輪を使って試みたが、集中力の欠如からなかなかうまくいかず、苛立ちを押し殺せていない震える溜め息を吐いた。
魔法使いは腰掛けていた岩から腰を上げ、シーナの方に近づいていった。シーナは目を逸らすように反対側に顔を向け、その場に座り込んでいる。
「集中が足りんな」
集中ですって?
「集中と知識だけで魔法が使えるなら、わたしは今頃、きっと、女神でも何にでもなってるわ」
「嬢ちゃん、考えて感じるんだ」諭すように魔法使いは言った。
「何を? 魔法の何をですの? 起源、魔法の歴史? そんなものを考えて何になるの? わかるはずないわ。これじゃあいつまでたっても……!」
怒りをぶちまけているシーナが持つ指輪の赤い宝石が、川底で垣間見る魚の光さながらに、きらりと赤く輝いた。己の内にちらついた怒りの炎がその声を上げたかのようだった。はっとするように指輪を凝視し、ぶかぶかの指輪に右手の人差し指を通すと拳を握った。
できる。今なら。
そして、何もない宙を殴るように、思い切り焚き火の方へ拳を突き出した。
もしもそこから火が出ていなかったのなら、とても滑稽で取り返しのつかないほどにシーナの自尊心を傷つけただろう。だがそうはならなかった。それを見ていた魔法使いは驚きのあまり口を開きかけた。
本来は火熾しのために小さい蠟燭の火に近いものしか発動できない指環から、人の頭一つ分程の大きさの火球が飛び出て、空気を焼きながら薪として重ねられた小枝たちを吹き飛ばし、地面にぶつかると一際大きく空気を焼く音を立てて大気に砕けて消えていった。
魔法使いはあっけにとられながらも、危惧の念を抱いたかのように眉に深い皺を刻んだ。
シーナは沸き立つ泡のような怒りの中に、確かな喜びを感じていた。燻っていた怒りは、今こそぶちまける時だと言わんばかりに、何度も火球を吐き出す。旅の中での不安、今まで吐き出せなかった不運な人生に抱いた憎しみを、渦巻く怒りを、悲しみをぶつけようと、父と母を殺したあの魔法の使い手に対して、運命そのものに対して。
怒りが映像として脳裏を駆け巡るその度に、火球が生まれ、あるものは山の斜面に放たれ、次第に形を失い空気となって散り、またあるものは地面の落ち葉を舞わせて砕けて飛散して消えていった。拳を突き出しても微々たる魔法も起こさなくなると、湧き上がる怒りは山のような塊となってシーナを潰し、その場でふらふらと力なく揺れて膝から崩れて地面に伏した。
シーナは冷たい土の上で、魔法は自分の感情と結びつくのだと理解した。
そして心の中で歓喜した。自分の中で最も扱いにくく、苦くてどうしようもなかった不都合な運命に対する怒りや憎しみを、己の中で腐った沼の泥のように溜め続けるのではなく、昇華させる方法を見つけ出したために。
これで、この力でわたしは……お父さん、お母さん。わたしは強くなれる。
達成感と快感に満ちた微笑みを浮かべながら、シーナは遠のいていく意識の成すがままに、眠りについた。




