↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/21

第8話 話を聞かない人

「協力、ですか。マンテって人を探せばいいんですか?」

 それだけではない。記憶を取り戻して、さらには魔法まで使えるようになってもらわなければいけない。

 だが今、そこまで言うべきではないと思った。

「あ、協力って言っても、もちろんできる範囲で構わないんだけど」

 フォローして気づいた。なぜ僕が勧誘する側にまわっているのだ。そもそも朝までは断ろうとしていたのに。


「あなたにとっても、悪い話じゃないと思うの」

 平坂はテーブルの上で指を組み、まっすぐに宮森さんを見た。

「……あなたはずっと、自分が何者なのか分からないまま生きてきたんじゃない? 頭の中に、自分以外の何者かがいる。誰かに話しても、笑われるか、心配されるかのどちらか。だから、誰にも言えなかった」

 宮森さんの肩が、わずかに動いた。

「私たちは笑わないわ。だって、同じものを持っているから。私たちは仲間なのよ」

 ……こいつ、うまいなあ。

「それにね。あなたが思っているより、前世でのあなたは、ずっとすごい人だったのよ。私が保証する。魔王だった私が」


 声の調子も、間の取り方も、完璧だった。

 さらには、魔王だった私が保証する、ときた。最期の最後に自分の格を差し出したのだ。

 これが、何百年も魔族を束ねてきた者の交渉術か。

 宮森さんは、丸眼鏡の奥の目を潤ませ、深く、深く頷いた。

「はい。やります。お手伝いさせてください」

「賢明ね」

 平坂が満足そうに微笑む。

「集まるのは毎回ここを使ってもらって構いませんよ」

「それは助かるわ」

「真白様に頼まれたら、断れるわけないじゃないですか」


 平坂の指が、ぴきりと止まった。

「真白様は私の憧れですから」

「ちょっと、私は? 今の私のありがたい話は?」

「あ、真白様、コーヒーおかわりいかがですか?」

「あ、もらおうかな。でも様はやめてくれ」

「儂の話を聞けええええ!!!」


 魔王が吠えた。店の奥から「栞ー、大丈夫ー?」と暢気な声が飛んでくる。宮森さんは「だいじょうぶー」と返してから、にこりと笑った。

「あ、でもお店的にはすごく助かります。夕方って暇なので。お二人が来てくれたら、父も喜びます」

 商売の話まで始めた。

 この子、実はものすごく強かなのではないか。アルの片鱗が見えた。


「では改めて。これからよろしくお願いします、真白様、平坂さん」

「様はやめてくれ」

「私のことは栞でいいですよ」

 この子、こういうところあるよなあ。人の話を聞かないところ。

「もしくは前世でのように、アルストロメリアとお呼びください」

 誰もそんな名で呼んでいない。

「そんな名前で呼ぶと長いじゃない」

 平坂がむくれて言った。

「あ、実はミドルネームもあるんですよ」

 平坂が言葉を失った。魔王が、一日で二度も敗北している。

 平坂の、論理的なのに感情を揺さぶる語り方。

 それに勝てるのは、「話を聞かない人」なのかもしれない。

 まさに天敵である。

 いや、アルは天才と呼ばれていた。もしかして宮森さんも計算づくで……。

 気の抜けた笑顔の宮森さんを見て、それはないな、と頭を振った。


「宮森さん、よろしく」

 長くなりそうだったので無理矢理着地させ、ようやく本題に戻った僕たちは、次の目標について確認した。

 つまり、四人目であるマンテのことだ。

「そいつは、どういう奴だったんだ」

 僕が聞くと、平坂は少し考えてから答えた。

「私の配下には四人の幹部がいたの。日本語でいうところの四天王、みたいな言葉で人間たちは呼んでいたわね。その四人のうちの一人よ」

 なるほど、確かにそうだった。が、マンテだけは情報がほとんどなく、名前すらも昨日初めて知ったくらいだ。

「まあ、実際は四天王なんて大層なものではなくて、私の下に部門ごとの長が四人いただけ。軍事、外交、内政、そして祭祀」

「祭祀?」

「マンテは祭祀の長で、儀式や葬祭を取り仕切っていたわ。だから蘇生魔法という、戦場ではまず使わない術を持っていたのよ」

 納得がいった。あの最終決戦で蘇生魔法が飛んできたのは、普段は前線に出ない文官が、たまたま最後まで生き残っていたからなのだ。


「で、そいつをどうやって探す?」

 同じ誕生日、同じ市内。手がかりはそれだけだ。

「まずはそれぞれできることを試しにやってみましょう。うちの学校で探すのは私が。宮森さんは東高をお願い。不来方くんは――」

「僕は?」

「SNS担当。……今度は騙されないでね」

 何も言い返せなかった。


 こうして、僕たちの、あまりにも地味な人探しが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。