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第3話 前世では魔王でした

 はっ

 思わず辺りを見回す。


「なんだ夢か……」

「夢ではないわ阿呆」


 いつの間にか向かいの席に座った平坂に、現実に引き戻される。夢ではなかった。

「現実逃避するな阿呆。いや、ド阿呆。あー情けない。こんなのと相打ちするとは、儂も焼きが回ったのう」

 目の前の平坂の表情は、確かに玉座に座る魔王ダリューゼを思い出させるものだった。

「えっと、これって」

「あ、アイスティーをひとつお願いします」

 僕の言葉を無視して、笑顔で店員にオーダーをする平坂をぼーっと見つめながら、上手く使い分けてるなあ、と感心する。

 いや、呑気にそんな事考えていていいのか?

 平坂は、魔王ダリューゼは僕に復讐しようと、もしくは決着をつけようとしているのではないか?


 そう考えると、全身に緊張が走った。

 呑気に放心している場合ではない。

 咄嗟に鞄の中に武器になるものがないか思い出す。一番攻撃力が高そうなのはシャーペンだが、カバンの奥のさらにペンケースの中から取り出す手間を考えると、目の前にあるコーヒースプーンを使う方が正解か。

 そう決めて、気付かれないように手をテーブルに伸ばそうとした瞬間だった。


「選べ」


 高圧的な声に、手が止まった。

 恐る恐る問いを返す。

「な、何を?」

「儂と、私。喋り方の話じゃ」

 焦った。どんな殺され方がいいのか選べ、ってことかと思った。

「あー、えっと、平坂さんバージョンの方がいいな」

 険のある表情が、すっと和らいだ。

「……分かったわ」

 あまりの変わり身に拍子抜けした。


「同じクラスになって二ヶ月半だけど、こうして一対一で話す機会って、なかったわよね」

「あ、うん」

 ずっとペースを握られたままで、馬鹿みたいな返ししか出来ない自分が情けなくなった。


*


 平坂が居住まいを正した。

「改めて、平坂永遠です。前世では魔王でした」


 丁寧にお辞儀をするその姿は、どこぞのご令嬢らしいという噂に説得力を与える。

 つられてこちらも背筋を伸ばしてしまう。

「あ、不来方真白です。前世で勇者やってました」

 思わず敬語で挨拶をしてしまった。


 平坂は一呼吸置いて続けた。

「今日も学校で顔を合わせてはいるけど、前世的な意味で言えば『久しぶり』でいいのかしら」

 まあ、久しぶりと言っても差し支えないほどの時間は経っている。

 しかし、かつて殺し合いをしていた者どうしが十五年ぶりに会って、「よっ! 久しぶり!」だけで済むのだろうか。

 もう死んでしまったんだから、前世での因縁もリセットされるという認識なのか。平坂の考えが分からない。


「……リュミアの名前を騙って呼び出したのは、単純に僕を馬鹿にしたかっただけ?」

 平坂は鼻で笑った。

「私が魔王の生まれ変わりと馬鹿正直に言ってたら、あなたここに来てた?」

 確かにそうか。

 僕の間抜けな質問に呆れ顔で返し、続ける。

「まず最初に言っておくわ。私はあなたに復讐心も敵対心も全く無い」


 にわかには信じがたいが、よくよく考えてみると、あれだけ殺し合った仲ではあっても、今は平坂に対して悪い感情がある訳ではない。

 もう前世の関係性ではないのだ。

「じゃあ何で」

「その前に一つ聞かせてほしい。……あなた、誕生日は?」

 なぜそんな事を聞くのか。だが隠す必要もない。

「十月二十六日だけど……」

 そう答えた瞬間、平坂の目に輝きが見えた。


「やはりか! やはり儂の考えは間違っていなかった!」

 突然立ち上がり叫んだ平坂に、アイスティーを運んできた店員が驚いている。僕も驚いたが。

「す、すみません。演劇部なんです」

 慌ててフォローを入れると、平坂も我に返ったように座り直した。

「何なんだよ一体」

「素が出ちゃったわ」

 素は平坂の方じゃないのか。魔王の方が素ってこと!?


 アイスティーをストローでかき混ぜながら、平坂は語った。

「説明するわ。……私ね、元の世界に戻りたいの。だから手伝って」

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― 新着の感想 ―
コーヒースプーンを武器代わりに構えようとする真白の必死な思考回路が面白いです。 テンションが上がってカフェで思わず魔王の素が出てしまう平坂のキャラクター性がとても愛らしくていいですね! これからの…
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