第2話 当方ユグレト
僕、不来方真白が前世の記憶を意識するようになったのは、六歳のとき――小学校の入学式の日の朝だ。
家の前で家族と記念写真を撮ったとき、「こんなこと、前にもあったな」と、ふと思った。
後から考えれば、それは魔王討伐の旅に出立したときの記憶だった。
仲間とともに王命を受け、城門の前で勇者一行のお披露目が行われたあの日。
そのときの光景が、ふいに頭に浮かんできたのである。
日本の一戸建ての小さな門と、何人もの兵士が警備する、白亜の巨大な城門。
規模はまるで違うけれど、状況が似ていたせいで、それが記憶の引き金になったのかもしれない。
もっとも、まだ幼い僕にとって、それがどんな意味を持つのかまでは理解できていなかった。
その日を境に、成長するにつれて少しずつ、「不来方真白ではない誰か」の記憶が、頭に浮かぶようになった。
奇妙な話に聞こえるかもしれないが、当時の僕は、その記憶が「前世のもの」だとは思っていなかった。
むしろ、自分の記憶の一部だと自然に受け入れていた。
*
それから三年ほど経った頃、テレビでオカルト番組を観ているときに、初めて「生まれ変わり」という言葉を知った。
その瞬間僕は、自分が普通ではないことに気づく。
これでようやく、突然頭に浮かぶ記憶の説明がついた。
それ以降、現世の記憶と、前世の記憶を区別できるようになっていく。
――自分は、かつて「ここではない世界」で、ユグレトという名の男だった。
その世界では千年以上もの間、人間と魔族の戦争が続いていた。
魔族を束ね、世界を掌握しようとする魔王を倒すために、仲間とともに各地を巡り、数多の困難を乗り越え、ついには敵の本拠地である魔王城の玉座の間で、魔王ダリューゼを打ち倒した。
と同時に、ユグレト本人も命を落とした。壮絶な相打ちだった。
その世界のその後のことは、分からない。
*
そこから、僕は考え始めた。
この前世の記憶を、どう扱えばいいのかと。
記憶はある。だが、身体能力は文字通り大人と子供ほど違うし、当然だが魔法も使えなくなっていた。
現世の科学水準や文化レベルの方が遥かに上で、前世の知識が何かの役に立つわけでもない。
できることといえば、せいぜいキャンプでのサバイバルか、かつて振るっていた剣技の記憶を使って、剣道教室で無双することくらいだった。
……それも、小学校卒業と同時にやめてしまった。
僕のやっていたことは、ただの弱い者いじめだったからだ。
前世の記憶があったとしても、僕のアイデンティティーはあくまで不来方真白である。
中学生になる頃には、前世のことはまるで「超リアルな映画を観た」ような感覚になっていた。
――けれど。そこは中学生、思春期真っ只中。
どうしても、忘れられない存在があった。
前世の僕、ユグレトと恋仲であったリュミア姫。
彼女のことだけは、どうしても頭から離れなかった。
リュミアは、ユグレトが生まれたスヴァルド王国の第二王女だった。
巫女として神の啓示を受ける役割を持ち、ユグレトを勇者として見出したのも彼女だった。
ふたりは出会ってすぐに惹かれ合い、将来を誓い合う仲となったが――
ユグレトは、王国に戻ることなく命を散らした。
そんな過去を知っているからこそ、記憶の中のリュミアに、恋い焦がれる日々を過ごした。
*
想いは募った。
「もしかしたら、彼女もこの現世に生まれ変わっているのではないか」
そんな淡い期待を胸に、高校入学と同時に手に入れたスマートフォンで、満を持してSNSに投稿をした。
リュミアを探しています。
当方ユグレト。会いたし。DMを待つ。
#異世界 #転生 #生まれ変わり
すぐに投稿を後悔した。
届いたダイレクトメッセージは、どれもイタズラか、妄想癖のあるヤバめな人たちからばかりだった。
僕があらかじめ用意していた、異世界についての質問に答えられる人は誰一人いなかった。
諦めかけていたそのとき、一通のDMが届いた。
……その結果がこれである。




