第9話 本音
空音が帰ってしばらく立つ。
明日はちゃんと学校に行くつもりだ。
だからその準備を進めておく。
明日の時間割は空音に聞いてるからちゃんと把握している。
今だ頭の中はごちゃごちゃのぐちゃぐちゃで整理なんて付けれる訳もない。
しかし寝ていても仕方がないし学校をサボりたい訳
でもない。
まぁ正しくはじっとしているのが嫌…これだと思う。
1人でいるとあの日の光景がフラッシュバックする。
寧音さんとその家庭教師。
2人の関係。
寧音さんは美人だし大人びて見えるけど親しみやすい、取っつきやすい人だった。
あれは多分僕が無自覚に寧音さんは僕側の人間だと決めつけていたから取っつきやすいと感じていたんだ。
僕側の人間、つまりは日陰者。
僕は美人が苦手だ。
明るく社交的で皆にとってのカリスマ的な美人が苦手だ。
手の届かない高嶺の存在。
元来僕なんかが接して良い相手じゃ無い。
僕みたいなのとは価値観も倫理観もまるで違う。
話すと緊張するし機嫌を損なわせない様に常に気を張らなければならない。
多分僕のこの価値基準は空音で養われた物だと思う。
空音は勝ち気で自信に溢れていて実際やれば大抵の事は何でもやれてしまう。
オマケに凄い美人だ。
学校でも人気者でいつも周りには人がいる。
もっとも当人は割と面倒くさがりやで友達にも面倒くさそうに対応する。
所謂ダウナー系。
しかし何故か彼女は僕にだけは甲斐甲斐しく接してくる。
幼馴染だから?
僕が頼りないから?
見ていて危なっかしいから?
彼女は色々な言い訳を並べて来るけど多分どれも違うと思う。
まぁ彼女の本心がなんであれ僕は空音が苦手だ。
なにかしらの話題を振られても彼女が近くにいれば緊張するし落ち着かない。
また暴言を言われたり叩かれたりするかもしれないと警戒してしまう。
勿論それもある。
けど僕と彼女では住んでる世界が違う。
幼馴染である事を無視してしまえば交流している事それ自体が奇跡的なんだ。
分不相応にも彼女に片思いしていた時期もある。
そう自覚したのは随分後になってからだけど…。
住む世界が違う、価値観が違う、そう自覚してから気持ちにフタをしてなるべく意識しない様に努めていた。
兎に角僕は高嶺の花な空音よりも僕を気にかけてくれる優しいお姉さんで僕側の人間な寧音さんが好きなんだ。
寧音さんはいつも優しくて親身に僕の事を考えてくれる、とても優しいお姉さん。
だから自然と惹かれて空音の事も諦める事が出来た。
それに多分だけど寧音さんも僕の事を…そんな都合のいい事を考えて妄想していたんだ。
だからバチが当たった。
彼女は自身の家庭教師と既に恋仲だった。
だからきっといつも纏わりついて来る僕が煩わしくなってそれを分からせるために自分達が愛し合っている所を見せ付けて諦めさせようとして来たんだろう。
そう自分に言い聞かせた所で結果は何も変わりはしない。
当然僕の心はボロボロに壊れてその結果もう1つの人格?
そんな物が生まれてしまった。
彼については本当にわからない。
所謂二重人格、まさか自分がそんな存在になってしまうなんて予想外も良いところだろう。
しかも僕とは違い好戦的な性格で復讐を促して来る。
正直復讐なんて僕のキャラじゃ無い…僕はもうあの黒歴史を忘れ去りたい…寧音さんを好きだって気持ち自体を忘れ去りたいんだ。
そりゃ確かに悔しいし裏切られたって気持ちもあるにはあるんだけど…。
それでも僕は復讐なんて望まない。
あの人達にはもう関わりたくない。
ずっと逃げていたい。
それが僕の本音。
しかし彼はそれを認めてはくれない。
彼は僕の心の奥底で囁く。
それはお前の本音じゃないだろ…と。




