第55話 3階
鳴海圭や雪坂空音達の知る所ではないがあれから真野奏は自身の家に逃げ帰り母親に転校したい!学校を辞めたい!
等と一方的にまくし立てたがそんな勝手が通る訳も無く彼女は今も学校に通い続けている。
因みに彼女が認知する所では無かったのだが校則では一度入学した生徒は如何なる理由があっても退学、停学等の処置は行わず責任を持って学校側で公正させる事が義務付けられている。
また中退や転校も認められておらず一度入学した生徒は本校で最後まで在校してもらう事が義務付けられており親が単身赴任等で転校がやむなくなった場合学校側が保有する施設への転居も義務付けられている。
それらは入学時に保護者には伝えられており、これが認められないなら入学は叶わないとされている。
その代わりというわけではないが高い進学率を持っているにもかかわらず学費は他の学校のものより格段に安くこの不景気の現代においてはその条件を飲む保護者はとても多い。
真野奏の親は元々頭の硬い昔ながらの価値観を持った両親なので彼女が辞めたい転校したいと喚いた所で聞き入れる事等無かったがもとより此等の条件があった為に真野奏は学校から逃げる手段を完全に手放していた。
暗い顔で自身の座席の机にちらほら散見それる傷と染みの数を数える真野奏。
明らかな現実逃避だった。
そんな彼女を遠くから観察するのは彼女があぁなってしまった事に若干ながらの関わりがあるこの僕、鳴海圭だ。
「………はぁ…」
「どうしたのよ?」
溜め息をついた僕に雑に問い返したのは空音だ。
「人間関係って難しいものだなって思ってさ…」
「……まぁそうかもね…」
「どうして人は軽率に物事を簡単にきめちゃうんどろうね?」
「……、わかんないわよそんなの…」
「だ…だよね…あはは…」
「でもアンタが気にする事じゃないんじゃない?振った振られた、別れる別れたなんて何処にでもある話だしそんなのに一々気を使ってたら持たないわよ」
「だよね…」
空音は相変わらずサバサバとしている。
まるでこんな事既に経験済みだと言わんばかりに。
そういえば空音はこれまで彼氏とかっていた事とか全くにいのだろうか?
これ程までにモテるのだ、なんとなくで付き合って見た事とかあるかも知れない。
それは…何となく…。
嫌だな…。
「っ!?」
「今度は何?」
「え?いや…」
僕は今…何を考えたのだろう…?
空音に彼氏がいると嫌…なのか?
自分で自分が解らなくなる。
僕は空音が苦手だし関わりたくないって思ってたけどそれは昔の事だ…なら今はどうなんだ?
そんなモヤモヤとした懸念が自分の中にあった。
そうこうしていると教師が教室に入って来て朝礼が始まる。
日直が起立礼着席の口上分を口にして僕達生徒はそれに習う。
そうしてボードの前に立つ教師に皆の目がいく。
「え〜今日も光沢はお休みだ、皆見舞いとか声かけとかしてやってくれると助かるな、クラスの仲間なんだから助け合っていこうな!」
等と定型文を口にする担任教師。
クラスの仲間…ね…。
クラス内にカースト…序列なんてのが存在して誰かをトップにおいた派閥があってそれらが互いに睨み合って対立してるなんてこの先生は夢にも思って無いのだろうか?
思って無いんだろなぁ…。
「え〜今週末に健康診断を行う、皆はこれから配る受診表を当日には忘れずに持って来るんだぞ〜」
等と思ってたら担任はそんな事を言った。
そっか健康診断か…。
めんどくさいけど授業が合法的に無くなるからラッキーだ。
それに今回は友達も沢山増えた。
1人の時の健康診断は退屈で辛かったけど今回はそうはならないはずだ!
体重が増えた減った…背が伸びた縮んだ、視力がどうのと盛り上がれるのはなんだか新鮮だぞ!
少し楽しみになって来たな。
僕はそこでふと思った。
保健室って何処だろうかと…。
健康診断は大体保健室で行う物だ。
ならその保健室は何処だろう?
「ねえ?保健室って何処だっけ?」
「え?あぁ健康診断の場所かぁ!」
「うん。」
隣の席の相田君に聞く。
かれはう〜んと考えながらこう言った。
「3階じゃなかったっけ?」
「3階かぁ…うん?」
3階って3年がいるフロアだよね?
3年…それって寧音さんにばったり出くわす可能性もあるのか…。
それは…嫌だな…。
少し楽しみだった健康診断が途端に憂鬱な日へと変貌したのであった。




