第5話 荒唐無稽
「当ててごらんよ?君になら出来るかも知れないよ?」
「はぁ!?」
目の前の圭は質問を質問で返してくる。
普段のコイツにこんな対応力はない。
もっと弱々しいし何かにつけて直ぐにキョドってしまう様な奴だ。
だからこんな対応をされた事に私はびっくりしてしまった。
「………巫山戯ないでくれる?」
「巫山戯てなんかないさ、それとも空音は俺が巫山戯てるとでも?」
「俺?」
なんだ…この違和感。
目の前にいるのは間違いなく圭だ…その筈だ…その筈なのに私はどうしてもそう思えない。
目の前の事実を受け入れられない。
この目の前の男を圭だと認識する事に強い嫌悪感を感じてしまう。
「あんたいつから一人称が俺になったわけ?全然似合ってないんだけど?」
「嫌だな〜俺…僕にだって背伸びしたい時期くらいあるよ」
「………へえ…背伸びねぇ」
普段の圭とは似ても似つかない。
いやらしく歪に曲がった笑顔。
人を挑発しているのかと勘繰りたくなる態度。
どれも私のよく知る圭とは全く異なる挙動。
その強い違和感は私に荒唐無稽な仮説を立てさせる。
荒唐無稽。
創作の中でしか起こり得ない馬鹿な妄想。
口にすればその瞬間から阿呆の仲間入りだ。
それが分かっているのにもかかわらず私は馬鹿丸出しの質問を投げかけていた。
「あんた誰?」
「はあ?」
「とぼけんな!あんた誰って聞いてんのよ!」
「………」
「………うぅ…」
「…………ふふふ…くふふふ、ふふふ…あははははは!!」
「は?」
突然圭は高笑いを始めた。
馬鹿みたいに大声で笑う。
絶対に圭がしない仕草。
今まで見てみてきた中でもこれは断トツだった。
「な…何がおかしいのよ!」
「いやいや…ごめんごめん、余りにも荒唐無稽な質問にツボっちゃってさ」
「…私は大真面目よ」
そう、私は大真面目だ。
荒唐無稽だろうとなんだろうとこの違和感はぬぐえない。
はっきりさせたいのだ。
圭の変化は意識して出来る物じゃない。
まるで別人が圭に成り代わってる…そんな気さえしてるんだ。
「ホントっ!大したもんだよ、正解だ空音、俺は圭であって圭じゃない」
「はあ?」
「厳密に言えば俺は圭の第2人格みたいなものかな?」
「第2人格…?え?多重人格って事…?」
「そう捉えて貰って構わないよ」
「な…なんでそんな事にいきなりなるのよ!!元の圭の人格は無事なんでしょうね?」
「無事だよ、今は奥に引っ込んでる、この体と人格の優位権は元人格にあるからね」
「……あっ、あんたはどうして生まれたの…?」
多重人格なんてドラマとか漫画とかでしか見たことがない。
普通に生きて生活していたらまずそんな事にはならない筈…いったい圭に何が起こったのか?
「俺が生まれた根源的理由は他にあるんだけど目覚めた切っ掛けは間違い無くアレだろうね?」
「アレ?」
「圭はお前の姉、寧音に心惹かれていた。」
「………」
「寧音の後を追って受験先を決めるくらいだし身の丈以上の努力をして勉強も頑張ってたみたいだな、でも圭は裏切られる事になる、お前の姉にな」
「寧音が圭を裏切った?」
「あくまで圭の主観でだがな、知ってるだろ?寧音は1年後の大学入試に向けて受験勉強している、その為に家庭教師を雇っている事を」
「え?あぁ、そうね」
そう言えば雇っていたな。
姉の事に興味なんてないからあまり気にして無かった。
ただあの家庭教師は嫌いだな、一見誠実そうで無害そうに見えるけどなんか目がいやらしいし最初の頃はやたらと私に絡んで来てウザかった。
「寧音と彼女の家庭教師は肉体関係にあったんだよ」
「……え?……肉体関係…!?」
「エッチな事をする仲って事さ」
「はあ!?エッチな事ぉ!?嘘言わないでよ!?」
「嘘じゃないさ、実際にこの目で見てる」
「この目でって…まさか…圭が…?」
「そう、俺ももう1人の俺も見てる。
多分プレイの一環だったんだろうな、家庭教師と寧音は見せつける様に俺達に自分達が家庭教師と交わってる所を見せ付けて来たのさ。」
「そ…そんな事…」
言葉が出て来ない…。
そんな…そんなキモい……いや…キモいなんて言葉では言い表せないレベルの気持ち悪い事をあの姉がしてる?
「結果俺が目覚めた。圭の酷い精神状態は俺を揺り起こすには十分だったわけだ」
「そ…そんな…本当なの…その話」
「嘘だと思うかい?こんな嘘をでっち上げてお前に話すメリットが俺には無い訳なんだけどね」
「……」
「だけど勘違いしないでもらいたいのはその事は俺が目覚める切っ掛けになっただけで生まれる切っ掛けになった訳じゃない」
「はあ?ど…どう言う事…?」
私はこの後とんでも無い話を聞かされる羽目にあう。
ネットの海に転がる数多の都市伝説も真っ青な馬鹿げた話を。




