第48話 人工型バグ試験体
「君ちょっといいかな?」
「君…人工型バグ試験体の…え〜と」
光沢のハーレムメンバーにいた女性達2人にいきなり呼び止められ訳の分からない事を言われる。
圭は混乱で頭がいっぱいだった。
「え…?…人工バグ…なんですか?」
「人工型バグ試験体よ、鳴海圭君」
「……!?」
僕の名前を知ってる…?
光沢が僕の名前を知ってるんだからこの人達が僕の名前を知っていても別におかしいなんて事は無い。
無いけど…なんだろうか…この違和感は…。
「なんですか?その人工型バグ試験体って…?」
「あれ?君の中にいるんじゃないの?さっきはあんなに流暢に話してたじゃない?」
「っ!!?」
この人達の言ってる事…まさか…。
でもそうとしか考えられない…。
この人達は彼を…黒圭の事を…知っている?
「その表情で十分ね、やっぱり君の中にいるんだね?もう1人の君が」
「な…なんなんですか?貴方達は…?」
「気になる?まぁそりゃ気になるよね?」
新卒社会人っぽい女性は腰に手をやると落ち着いた物腰で話始めた。
「君の中にいるのは私達が研究している実験体よ、正式には人工型バグ試験体、人の中には極々稀に類稀な力を出現させる"バグ"を持つ者がいるの、貴方の中にいるソレは人為的にそれを再現する為に生み出された実験体なのよ」
「は……はぁ?」
何を言ってるんだ…この人達は…
バグ?類稀な力?
アニメや漫画の話じゃないよね?
「彼から聞いてないかな?私達はランダムにこの実験体を民間の人達に試験的にばら撒いてバグが発言しないか検証、調査してるの、それが私達の仕事。」
黒圭の話なら空音から間接的に聞いている。
たしか予防接種とか民間でやってる健康医療とかに紛れて人に投与してるって…話。
この人達の話を信じるならあれって…マジだったのか…でもそんな勝手な…
そう…勝手極まる話だ…
「そっ…そんな滅茶苦茶な事が許されるんですか!?」
「ええ、これは政府公認の正規のプロジェクトなの、この実験でより良い結果を導き出せれば国に大きな恩恵をもたらす事ができる夢のプロジェクトなのよ」
「そう、先輩の言うとおり、誰でも超人になれる凄い実験なんだよ。」
は…話しが通じないのか?
こんな人権を無視した実験を個人の意思を無視して…政府がやってるなんて嘘臭い話…でも状況証拠が揃いすぎてる…。
女性の意思をねじ曲げて自分に惚れさせる力。
こんなの普通にあり得ない。
下手なハーレムラブコメじゃあるまいし…。
だからこそ荒唐無稽に思えてもこの人達の話しがまともに思えてしまうんだ。
「ど…どうして僕なんかにそんな実験を…もっと…それこそ光沢とか優秀な奴の方が…」
そう、僕みたいな凡人より光沢みたいな才能に溢れた人間の方がより良くデータが取れそうなのに何故?
「うん、勘違いしてるみたいだからここで修正ね?アンちゃん説明してあげて。」
「わかりました先輩」
もう1人のアンちゃんと呼ばれた人が説明を始めた。
「5年前…貴方達総勢20人が受けた予防接種の中に人工型バグ試験体の原液が混入されてました、今に至る5年間の間その経過を観察調査する為にモニタリングにて監視を継続、中学からは実験体の監視をよりスムーズに行う為に所属校をこちら側でコントロールし効率的かつ円滑な監視プログラムが組まれました。」
「………はぁ?」
なん…なんだって…?
え…?
ちょ…意味が…分からない…この人達は何を言ってるんだ…?
本当に意味が分からない…。
「更に後から試験体の注入を受けた15名を加えた35人を貴方が現在所属する高校のクラスに集めさせてもらっています。」
「は?て事は…僕のクラスメイト全員が変な能力を持ってる二重人格者って事なの!?」
「いいえ、能力の発現者は観測上、貴方が初めての存在となる様です、今だ他の被験者に覚醒の兆しはありません。どの様な経緯にて発現したのかも我々としてはより詳しく教えて頂きたいですね。」
「……それって…」
光沢や山中達も場合によれば僕みたいな力を得るって事?
そして…空音や田辺君達も…?
めっ…滅茶苦茶にも程があるだろ…
てか…この人達の話は矛盾してる…。
何故なら…。
「僕は今の高校に進学するつもりで受験を頑張った!今の高校に僕がいるのは僕が選んだんです!僕は僕の意思で学校を選んだんです!貴方達の言い分じゃそれも操作してるって事になりますけど?」
「考え方か違うわ、貴方が選んだ学校に他の被験者達を集めたの、だって貴方は唯一の成功体だもん、成功体の貴方をベースに物事を考えるのは基本でしょ?」
「あ…ぅ…」
おかしいと思ってたんだ…中学の頃と今とでクラスメイトの構成があんまり変わらないなぁって…うちの高校はそこそこの難関校だ。
おいそれと合格出来る訳じゃない…。
なのに殆ど同じクラスメイトに違和感を感じていた。
まさか…そんな…。
「1つ慰める訳じゃないですが貴方の試験成績は今の高校の合格基準を満たしていましたよ?そう悲観する事も無いでしょ?」
「あ…いや…どうも…?じゃなくて!」
どうもこの人達との会話は成り立たない…何処かズレてる…そんな印象をうける。
「ぼ…僕が貴方達に協力するかなんてわからないでしょ?け…警察に通報するとか思わないんですか?」
「はぁ…言いましたよね?このプロジェクトは政府公認だと?警察に通報するのはご自由ですがその事実が発覚した場合貴方にはこちらの強制指令制度を適用させてもらう事になりますよ?」
「きょ強制指令制度?」
五感から嫌な気しかしない…。
「現在我が国は慢性的な資金不足と人材不足、これに伴う経済の長期停滞が問題視されています。この問題の抜本的解決は急務、しかしだからといって政治家は神ではありません、ぱっと魔法みたいな方法が生み出せるわけでも無くかといって税を引き上げれば国民の貧困化は益々エスカレート、ジリ貧…緩やかな崩壊が大きな問題として取り沙汰されています」
「へ?な?なに…?」
いきなり政治の話?
いや意味分からないって…何なのこの人達?
「しかし数年前…見つかったのですよ、その魔法みたいな方法が!」
「魔法…?」
「ええ!それが"バグ"です。」
「バグ…?」
「ええ、バグは超自然的に人の中に発生する一種の突然変異です。バグは元々コンピューター等の誤作動、予期せぬ不測のエラー等に用いられる用語ですがその結果プログラマーの予測、予想もしない数式が生まれる事も稀にあります。人の脳にもこれに似た現象が確認されています。人の脳に起こったバグ…それは人の中にある種の超人を生み出す切っ掛けとなるのですよ。」
「そ…そんなSFみたいな…」
「事実です、貴方にも備わっているでしょ?バグが。あれはもう1人の貴方の目、声等から特定の周波数や催眠を強制的に相手に誘発している物だと我々は考察していますが全貌は我々も掴みきれていません…兎に角、バグはそんな普通なら絶対に起得ない奇跡を人為的に発現可能というわけです。」
「………つまり貴方達は…」
そのバグを持つ人達を人工的に増やして政治利用する…って事か?
「思っていたより聡明な方で助かりますね、つまりはそういう事です。」
「ぼ…僕がはいわかりましたって従うかも分からないじゃないですか…?」
「従ってもらいますよ、絶対に…!」
「ぐぅ…!?」
従わないなら…分かってるなって事…?
政府公認の実験組織。
そんな厨二心を刺激する組織に目をつけられ…漫画やアニメが好きな僕みたいな人種は本来なら喜ぶ物なのかも知れないが馬鹿を言わないで欲しい。
僕の中にあるのは明確な恐怖だけだった。




