第47話 崩壊光沢
「俺も混ぜてくれよ、その分かち合いにさ?」
「なっ!?鳴海!?」
光沢大治は驚愕のあまり目の前の人物が鳴海圭本人だと理解していてもその事実が彼にとって信じ難い物だった。
いや、受け入れられなかった。
だってあり得ないから…。
今日…ここにいる者以外でカラオケ店に行くなんて話は誰にもしていない。
特に学校の中では…
ここには高校の関係者はいないのだから漏れる訳が無い。
それなのに…何故コイツが…。
カラオケ店に点在する数ある個室。
その中に光沢達がいる部屋を見つけ出してピンポイントで入って来た鳴海圭。
あり得ない…あり得ないのだ!
「何をそんなに驚いてるんだよ?」
「おっ…お前…どうやって!」
「どうやって?ははは!分からないか?」
鳴海圭は心底疑問にでも思っているのか本当に分からないか?としつこく聞いてくる。
分からない…分かる筈ない!
コイツがここに来れる筈がない。
しかし種明かしは割と直ぐに行われた。
「あっ!けいくぅ〜ん」
「やあ、あさひちゃん」
光沢ハーレムに含まれる女子の1人が慣れ親しんだ恋人の様に圭を呼んだ。
それに気安く応じる圭。
「えへへ、本当に来てくれたんだね!」
「まあね」
「ちょっ!ふっ!ふざけんなよ!あさひ!お前がコイツをよんだのか!?誰がそんな奴呼んで言いっつたんだよ!!」
目の前の信じ難い光景につい声を荒げて突っかかる光沢。
あさひと呼ばれた少女は顔を歪めて光沢に言った。
「は?あさひが誰呼ぼーと別に良くない?」
「なっ!?てめ…」
「おいおい仲間外れなんて寂し〜じゃ~ん?俺も仲間に入れてよ?」
「鳴海てめぇ!!巫山戯んな!ここはお前なんかが居て良い場所じゃねーんだよ!!帰れよカス!」
「はあつ!?あさひのけい君ディスってんの?マジムカつくんだけどぉ!!」
あさひは圭の腕に抱き着いて光沢を睨みつける。
その事実に理解が追い付かない。
いや、頭が理解を拒んでいる。
あさひは攻略に随分と時間のかかった女だ。
だからこの裏切りは許容出来るラインを超えていた。
あさひをハーレムに加えたのは中学の時の事だ。
元々はオタク共の姫みたいな女で複数のオタクと仲良くしているタイプの女だった。
こういうタイプはそこまで美人では無いのだがあさひは顔も体もかなりの上物で見かけた時には是非とも手元に置いときたい、欲しいと思ったのだ。
中々我が強く攻略にはそれなりに苦労した。
だからこそ頑張って励んだ…。
今にして思えば良い思い出だ。
それが…鳴海に取られてる…?
また…?
「勝手にすれば〜!?オタ女さーん」
「ぷ〜クスクス!そんなちんちくりん優先して大治君蹴るなんてアンタ正気!?ばっかじゃないの〜!」
「まっ!?そんなのと比べんのっ!?馬鹿過ぎん!?」
他の女達があさひの選択を卑下し馬鹿にする。
そ…そうさ!普通はこうなる!
俺と鳴海。
どっちがイケメンかなんて誰が見ても明らかじゃん!
光沢は希望に満ちた顔で鳴海を見る。
格の違いを見せ付けた!
どちらが上か…これでハッキリしただろうと!
しかし。
鳴海圭はわざとらしくタメを作ると次の瞬間にはグッ!っと片手を彼女達に向けてこう言った。
「あんま俺を舐めんなよ?メスども」
何やってんだ馬鹿が?
3流アイドル気取りかよw w
と鼻でほくそ笑もうとした瞬間…。
「ひいぉっ!!?」
「はひぃ!?」
「ブヒィ〜!」
「はぅっ!!?」
「いやんっ!?」
女達がそれぞれなんか変な奇声をあげて悶えはじめた。
「はぁ!!?」
何が起こってる?
これは…これはまるで…あの時の…。
そんな馬鹿な事…あり得ない。
しかし嫌でも女達が浮かべるその顔には見覚えがあった。
忘れもしない、佐藤と渡井の女子2人が鳴海に何か言われて変貌した時の事を。
これはあの時の再現だ。
「え…嘘…どうして…?」
「カッコいい…」
「そんな…私…光沢君一筋なのに…どうして…」
「嘘…こんな気持ちはじめて…」
「これが…本当の恋…!」
ブツブツと小声で何かしら言い出す女達。
なかには大声の奴もいる。
状況が理解出来ない…いや、理解したくない光沢は右往左往とあたふたしだす。
そんな馬鹿な事…あり得る訳が無い…!
そうだ…俺の勘違い…悪い妄想た。
そうだ…現実にこんな事…起こる筈がないんだから!
「みんなぁ!今!!ここに僕がいるだろ!?そんな奴より僕がここにいるだろぉ!!
そうだ!!なんなら今ここでその男より僕を選んでくれたらみんなの願いを聞くよ?どう?ねぇ!凄いよね!?僕普段はこんなサービス滅多にしないって君達なら知ってるでしょ?今度はないよ!?ねえ!」
「え?」
「大治君がなんでも…」
「それは…」
光沢の決死の呼びかけ。
これには流石に女達も揺らぐ。
光沢はプライドの高い自尊心の権化の様な人間だ。
それを彼女等はよぉく理解している。
故にこの大盤振る舞いの如き発言には一定の意味があった。
しかし…。
「別に好きにすれば良いぜ?俺は君等を束縛しないから、でも…」
分かるよな?
この場にいる女達にはその言葉が幻視できた。
光沢を優先してしまえばこの謎の魅力を持った少年
と繋がる機会を未来永劫失う。
それが彼女達には等しく理解出来た。
出来てしまった。
突然現れて身勝手そのモノと言った発言をする少年。
しかし女達は彼の言葉を無視できない。
場を支配した圭は一気に畳み掛ける。
「みんな正気に戻りな?この男に尽くしても何の意味もない。体よく利用されて捨てられるだけさ!本当はわかってるんだろ?俺はみんなが心配なんだ、だからあえて言わせてもらう!この男を捨てて自由になろう!」
「きゃーなるなる私自由になるー!」
「私も私も〜!」
「まおちゃん君のファン第1号になるぅ!」
「あー!?ずるい!私も私もぉ!!」
次々と鳴海圭の言葉に同調しだす女達。
それを認められない光沢は往生際悪く抵抗する。
しかし…。
「ちょっ!?待てよお前ら!!ここに僕がいるだろ!お前等が大好きな僕がここに!!僕を見ろ!!僕は…」
「うるせーよ!ナルシスクズ!」
「いつまでアイドル気取ってんだよ痛いんだよ!現実見ろよカス!」
「お前のノリ寒いんだよ!」
「私達今彼の言葉を胸に染み込ませてんの!!詐欺師のカス男は黙っててよ!!」
まるで手のひらを返す様に光沢派から鳴海派へと押し変する女達。
もう言い逃れも現実逃避も出来ない。
どうしょうもなく現実が理解を強要してくる。
アイツに関わったら駄目だった。
中学の時にあれほど痛い目を見て叩き込まれたのに…。
後悔は形となって彼に飛来する。
次々と浴びせられる罵詈雑言。
人格否定にも似た罵声。
これまで人から好意しか寄せられなかった彼の精神は脆くも崩れ去り…。
こんなのおかしい…
こんなの悪い夢だ…だって僕は光の王子様って呼ばれて…みんなのアイドルで…イケメンで頭も良くて運動も出来て…友達も多くて…僕は…僕は…俺は…おあ……?…あ…あぁあ…ああああぁぁああああぁぁああああぁぁ!!!!!
「あああああぁぁああぁあ…ああああぁぁああああぁぁああああぁぁ!!!!」
奇声を上げ光沢はその場から逃げ出して行った。
涙を流し見窄らしく奇声を上げ人目を憚らず駆け出していった。
「あ~あ、逃げちゃった」
「ださ〜い」
「ププ!何あれ!」
「私今まであんなのが好きだったの?普通に嫌なんだけど…マジ萎える〜」
「蛙化ってこーいう事なんだね…」
逃げ出した光沢に各々好き勝手な事を言う元ハーレムメンバーの女達。
「あ…あの…」
と、そこに1人の女がおずおずと話し掛けて来た。
「あぁ、ありがとうあさひちゃん」
黒圭はあさひという少女の頭を撫でて礼を言う。
たったそれだけで彼女は顔を湯でダコのように赤くさせきゅ〜んという擬音が聞こえて来そうなとろけ顔を晒す。
目をハートマークにして身悶えする。
彼女とは中学が同じでかつては1〜2年の時は同じクラスになった事もある。
とはいえ当時の俺は例のあの寧音《汚女》意外と関わろうとしていなかったのでぶっちゃけあさひと言う人間の事は良く知らない。
ただ俺と言う人格が形勢され表だって行動出来るようになってからは実験と保険も兼ねて光沢と密接な関係にあったこの女に汚女と同種の呪いを掛けておいたのだ。
結果はご覧の通りちゃんと機能してくれた様だ。
光沢が調子に乗り始めた最高のタイミングで彼女への時限式の呪いを解除し、密かに指示を出した。
"光沢がハーレムメンバーを集めて馬鹿騒ぎを始めようとしていたら俺に連絡して来い"と。
「ふわぁ〜けい君が私の頭なでなでしてくれてるぅ〜」
「ちょっ!?いいなぁ!」
「あのあの!私も…」
「駄目だよ?彼女にはちゃんと俺のして欲しい事をしてくれたご褒美をあげてるだけだからね?君等は何もしてないだろ?」
「ええ〜」
「ずるいずるい!!」
さてと…
ここにはもう用は無い。
実験も兼ねた復讐は一段落ついた。
今回でより良い実験結果が得られた。
この様子だと汚女の方に掛けた呪もちゃんと機能してくれてそうで満足だ。
後は兄弟に代わって引っ込むとしよう。
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気が付くと僕は見知らぬ女性達に囲まれてカラオケの個室に何故かいた。
いや、彼の記憶がおぼろげながらある。
多分彼女達は光沢の関係者で今は光沢へのやり返しが終わった後なんだろう。
彼はしっかりとやってくれた訳だ。
彼の能力。女性を自分に惚れさせる。
その効果は覿面でみんな僕へと想いを打ち明けてくる。
しかしそれも一瞬の事でみんなあれ?
なんかさっきみたいにときめかない、メロく無い…と夢から覚めた様な反応を見せる。
惚れさせる力の効果はあくまで彼…黒圭の物だ。
僕の力ではない。
だから僕になってる時は彼女達の好感度も通常に戻る。
ぶっちゃけちょっと寂しいけども彼女達に好かれたままだと後々面倒くさい事になるのは目に見えてるのでこれで良いのだ…。
全然惜しいなんて思ってないんだからね!
はぁ…。
適当に別れの挨拶を済ませ僕はあっさりと彼女達から開放された…と思っていたら2人の女性…大学生か新卒の社会人くらいの年齢の人達にいきなり話し掛けられたのだ。
「君ちょっといいかな?」
「君…人工型バグ試験体の…え〜と」
なんか訳わかんない事を言う人達に絡まれそうな……嫌な予感…。




