第39話 度胸
「いい?田辺っち!告白は度胸なんよ?」
放課後のファミレスで僕と阿久利さんは向かい合って作戦会議に徹していた。
まぁこれを作戦会議かただの雑談と捉えるかは人によりけりだと思うけど…。
しかし物事とは何故か希望とは逆の方向に進む物だ。
思っていたのと違う展開に驚きよりも混乱が僕の頭の大部分を絞める。
どうも穏やかで慎ましやかな僕の告白は今や地平の彼方へと遠ざかってしまったようだ。
「つーかさ?田辺っちはウチのフォローとか無くても自力て告るつもりだったらしいけど実際のトコどうなんよ?」
「どうっていわれても…僕のポースでいい雰囲気になったら告白しようかなって?」
「良い雰囲気っていつよ?そんな甘っちょろい事言ってっと一緒告白とか無理じゃね?」
「あぐ…」
「そもそもアンタあの子の何処に惚れたわけ?」
「え…?ど、どうしてそんな事まで言わないと駄目なんですか!」
「え?まぁ…プライベートな事だし言いたくないなら別に良いけど…まぁそだね、告白するにも相手への気持ちはしっかりと自覚しといた方が良いじゃんね?何となく好きだ〜って曖昧な気持ちじゃいざと言う時にアレ?僕どーしてこの娘が好きなんだっけ?ってなるかも知れないしさ?」
「そ…そんな事になるわけ…」
「いやいや!案外あるんだって!テンパると訳わかんなくなって初歩的な事を忘れるって!告白も同じで頭パンクしてあれ?私何やってんだろ?ってなんのよ?」
「えと…それって阿久利さんの体験談?」
「うっさい!」
「ひぃ!?」
「とりま頭の中のごちゃごちゃは吐き出しといた方が後々上手くいくんだよ!」
「な…なるほど…」
一理あると思う。
いざその時になってテンパって頭が真っ白になる未来は悔しながら安易に想像できた。
なるほど…流石は経験豊富(偏見)なギャルの阿久利さんだ。
言う事に説得力がある。
それこそ偏見で碌な事にならないと彼女のフォローを断っていた事を恥じる思いだ。
僕は淡々と自分の想いを語り始めた。
「その…笑わないでくださいよ?」
「それは田辺っちの話次第かなぁ?」
「よ…やっぱり話したくなくなってきた…」
「もぉ!笑わないからとっととゲロっちまえ!」
「…うぅ……、僕は元々自分に心が無い様な人間だと思ってたんです」
「へ?心がない?」
「阿久利さんには理解出来ない感性だと思うだけど他の人が楽しいと思う様な事がつまらない、面白いと思えない人間だと自分の事を思ってたんです」
「………ふーん…それで?」
「え?」
「それで?続けて?」
「あ…はい…、僕は人と違った感性を持ってる自分がその…カッコいいって、一時期本気でおもっていて……あぁ…そんな事はどうでも良いんですけど…なんていうか…その…真野さんもそんな人間なんじゃないかなって勝手に思ってたら何か親近感が湧いて…そのストーカーみたいなんですけど…ついつい目で追っちゃう様になっちゃって…」
「………ふーん…なる程ねぇ~それで消しゴム拾ってもらって恋に落ちちゃったと?」
「は…はい…」
「いや〜ホントチョロいねぇ!」
「うぅ……」
「まぁでもそんなもんなんじゃないの?誰かを好きになるのって?」
「え?……笑わないんですか?」
「は?……笑う要素あった?」
「…あ…ないですよね…はは…」
てっきり小馬鹿にされると考えていた田辺葉は彼女の態度に意外な物を感じていた。
「まぁぶっちゃけアンタの気持ち…てか価値観?分かんないわけでもないんだよね〜?」
「え?」
「ウチも自分の事特別だって思ってる時期があって他人を無自覚で見下してて…でもある事が切っ掛けで自分の馬鹿さ加減に気が付いてクッソ恥ずい思いをした事があってさ?誰にでもあるじゃん?そ~言うの?」
「そ…そんなもんなんですか?」
「だと思うよ?まぁ自分が恥ずい事してたんだって気が付いけたなら全然大丈夫っしょ?」
「あ…あはは…」
阿久利さん。
ギャルで陽キャで底抜けに明るくて行動力の権化で…。
僕なんかとは価値観も生き方もまるで正反対の違う世界の生き物だって思ってた……。
だから…とても…とても意外だった。
こんなにも共通した考え方をした人だったなんて…
「よしゃ!なは気持ちの整理も付いたトコだし告白だぁ!!」
「うぇ!?まだ心の準備がぁ!!?」
「シャラァップ!!整理も準備も済ませただろうがぁ!!告白は度胸だぞ!?田辺っち!!」
ふんすっ!と鼻息荒く力を込めた阿久利さんは僕の前にその端正な顔をグイっと近づけていった。
「明日の朝イチで決めちまえ!」
「明日の朝イチ!!?」
「おう!!」
こうして退路は閉ざされ明日の朝から告白する事が決定してしまった。




