第37話 田辺葉の初恋
僕はこれまで誰かを好きになった事なんてなかった。
ただ当たり前に過ぎ去る毎日を当たり前に過し、そこに特別な感情が生まれる訳も無く当たり前を当たり前に享受するだけの平坦な日々が僕にとっての全てだった。
そんなんだから何かに特別な感情を持つ事は無くて皆がわ〜わ〜と楽しそうに騒いでる物事があっても基本的に俯瞰して見てる様な人間だった。
一時期そんな僕には感情が無いんだと本気で思っていた位だ。
他人の楽しみがわからない。
何故笑うのか?何故笑顔になるのか?
それが解らない、でもそれで良いと思った。
つまらない事で一喜一憂出来る皆と僕は違う。
僕は高尚な人間なんだと、そう思って悦に浸っていた。
今にして思えばこれも厨二病の一種なのかも知れないなと考えられる様になった頃には昔の斜に構えてた自分が兎に角恥ずかしくて死にたくなった。
痛々しい自分を消してしまいたいと思うし恥ずかしく思う。
たけど感情が無いって本気で思う程度には僕は物事に対する興味が希薄だってのも本当の事なんだ。
だから誰かにこんなに心を動かされたのは初めてだった。
僕にとっての初恋、それが真野さんだった。
高校生になってもこれまで通り変わらない日常が過ぎて行くだけ、幼稚園…の時は正直余り覚えて無いけど小学生、中学生と過し、当たり前で平凡な毎日に見切りを付けて新たに始まる高校生としての生活にもそれ程の期待は寄せていなかった。
そんな僕の目に写ったのが真野さんだった。
彼女は僕と同じでつまらなそうな…退屈そうな目をしている。
きゃーきゃーワイワイと騒ぐ他のクラスメイト達と違っていつも1人で読書にいそしむ。
まるで自分だけは周りと決別した強烈な個性を持つ事を証明するかの様に一人を貫いていた。
日常に期待しない、毎日に飽きた無感動な目をしていた。
僕は彼女と僕が同類だと確信したんだ。
それから僕は密かに彼女を観察するのが趣味になった。
彼女は他人と群れない。
一匹おおかみ…とはまた違うのだろいたけど誰かの誘いとかにも安易に乗らない。
孤高の存在である事に強い拘りがあるみたいだった。
僕はそんな彼女にどんどんと心惹かれて行った。
僕みたいな半端者ではない。
僕には幼い頃からの友達の相田君もいるし高校生になってからは鳴海君とも友達になった。
孤高の存在を貫き孤独である事をカッコいいと感じる反面…やはり孤独は寂しいし何よりつまらないとハッキリ感じてる僕の様な半端者と彼女は違う。
本物…そう!彼女は本物の達観した人なんだ。
そんなある日の事。
筆箱の中に消しゴムが無くて何処かで消しゴムを落としてしまったと焦っていたら彼女が届けてくれた。
「これ、貴方のでしょ?」
「あっうん…ありがとう」
「今度からは気を付けてね?じゃ」
会話したのはコレだけなんだけど僕はそれだけで彼女を好きになってしまった。
我ながら単純だと思う。
こんなの友達でもなければなんでも無い。
ただのクラスメイトとしての些細なやり取りでしかない。
クラスメイトの知り合い、同級生。
それだけの淡い関係…それでも僕が彼女に恋してしまうには十分だった。




