第32話 懲りずに
「ゴメン、今日は田沢君と帰るから」
高校の入学式から幾日か過ぎた頃、新たな学校生活にも慣れはじめ、鳴海圭にも友達と呼べる存在ができた。
その一人が田沢草と言う少年だ。
放課後の帰宅時、鳴海圭は田沢葉と帰って行った。
この私…幼馴染の雪坂空音を置いて…。
雪坂空音は膨れていた。
頬をぷくーと膨らませて拗ねていた。
いや、拗ねてなどいない、本人いわく拗ねてなどいないのだ!
ただ長年連れ添って来た幼馴染を置いてぽっと出の男友達を優先するとかありえなくない!?
なくなくなくない!!?
と思っているだけなのだ!
だから拗ねてもいないし嫉妬している訳でもないのだ。
しかしそうは思ってくれない者達がいる。
それがこいつらだ。
「お〜よちよち、寂しいねぇ~寂しいねぇ~」
「でも大丈夫だよ〜オネーサンがいてあげるからねぇ〜」
「うっっざ!」
そう、空音の友達の2人、阿久利未音と朝咲花織だ。
「まぁまぁ!元気だしなよ!たまには男の事なんて忘れてアタシ等と遊びいこーよ!」
「そ~だよ〜、空音ちゃん最近オネーサンと遊んでくれなくてさーびーしーい〜」
花織は腰をクネクネとよじって寂しいアピールをしてくる。
無駄にスタイルが良い為男相手にやればどんな奴でも一発て虜にしてしまえそうだが相手が私だとただキモいだけだ…。
「はぁ…ま〜いっか、どこ行く?」
「お!?今日は乗り気じゃん!」
「オネーサン猫カフェに行きたい!」
「花織は猫好きだもんね〜」
「いーよいこいこ猫カフェ」
こうして女子3人で猫カフェに行く事になった。
帰り支度をしながらも尚ギャルトークは続く。
「で?鳴海君とは何処までいったの?キスしたの!?」
「キス!?…はぁ…あのね!別にアイツはそんなんじゃないって何度も言ってるでしょ!」
「またまたぁ!そんな事言っちゃってぇ!本当は満更でもないクセにぃ〜」
「はぁ…ウザっ!…圭はただの幼馴染だし…好きだか恋とかアタシわかんないんだよね…」
「おうおう!青春してんなぁ!」
「どこがよ!」
「はぁ…オネーサンも燃える様な恋がしてみたいわぁ!」
花織は安産型の魅惑的な腰をくねらせてそんな事を言う。
花織は変なお姉さんムーブこそ目立つがれっきとした美人だ、当然男子人気も高い。
故に彼女の彼氏欲しい宣言にクラスの男共が思わず聞き耳を立ててしまうのも致し方無い事だ。
「アンタがその気になれば男なんて選び放題じゃない…」
「言ったでしょ?オネーサンは燃える様な情熱的恋がしてみたいのぉ〜」
「花織はこう見えて男への理想高いからなぁー」
「こう見えても何も普通に高そうにしか見えないけどね…」
等と話しながらしっかりと帰り支度を済ませた彼女達は揃って教室から出ようとする。
するとそこに見知った男子生徒が数人の男子達を引き連れて空音達の前にやって来た。
「やぁ空音、こうして君に話し掛けるのは中学の時以来かな?」
「………はぁ…またアンタなわけ?」
目の前にやって来たのは光沢大治。
元カーストトップグループのリーダーだ。
彼は早速このクラスで自分のチームを作り上げお山の大将に返り咲いていた。
「どいてくれる?私達これから遊びに行くの」
「なら俺等も一緒についてくよ?女子だけだと何かと不安な世の中じゃん?」
「別に必要ない」
「そんな硬い事言わないでさ?ね?」
気付けば男子生徒達は3人を囲って退路を塞いでいた。
光沢が良く使う手だ。
空音達女子3人は光沢達を侮蔑の籠った視線で言った。
「アンタ等まだこんな事してるわけ?」
「これで女釣れるとか思ってんのマジ笑えるw」
「オネーサンは笑えないよぉ〜」
光沢達もこれには流石に苦笑いを隠せない。
かつては向こうから女が来たのに今はこの有り様。
今や鳴海圭にトップの座を追われ一軍女子を全て奪われ中堅所しか残っていない有り様。
高校からは1から…振り出しから始めようとしたのにまたもや鳴海圭と同じ学校どころか同じクラスの今現状。
まるで笑えない。
高校から知り合った連中は鳴海圭を知らない、貧弱な見た目の癖に一軍女子と仲がいいアイツは早速男子の一部からヘイトを買っている。
アイツがいない時を狙いコイツ等を自分の物に出来ればかつての栄光を取り戻せる。
そう思い行動に出たがそうだ…忘れていた…この女…俺に全くなびかなかったんだ…。
「アンタさぁ?いい加減うざい」
「ぷぷっ高校まで来て空音狙いなんマジウケる!」
「オネーサンは貴方が心配よ?こんな事してたら後で鳴海君に怒られない?」
人を下に見る女達の目。
不愉快。
不快、面白くない!
何故…何故俺がこんなメスどもに見下されなければならない!?
わなわなと感情が怒りに染まっていく。
眉間には皺が寄って拳を固く握る。
しかし我慢だ、コイツ等を誘い出してカラオケなりに誘い込めば俺の勝ちだ…そうなれば後は…へへっ!!
そんな事を考えている時の事だ。
彼の予想だにしない出来事が起こった。
周囲の男子達が暴走とも取れる行動に出た。
「調子に乗るなよクソ女がぁ!!」
男子の一人が朝咲花織に掴みかかる。
そのまま体勢を崩し倒れ込んでしまい尻餅をつく。
目の前には自分に敵意を向ける男子の影。
空音も未音も突然の行動に頭がフリーズし動けない。
それは光沢も同じだった。
「へへ!俺の…俺の女にしてやる!!」
今は教室の中、3人の女子は光沢グループが包囲している為周りからは見えない…見えないが何か良くない事が起きてる位は予測が付く。
この男子が何を思ってこんな事をしでかしたかは解らないが教室に残っている皆が皆、ヤバいとそう共通して思う程には彼の言動は度を越していた。
彼は頭に血が昇っていた。
だから周りも見えていない、所謂無敵の人と化していた。
「おい!」
「へ?」
そんな中、光沢グループの壁を押し退けて花織に迫っていた男子の肩をグッと掴み、花織を庇う様に相手を睨見つける男子が現れた。
「え……」
花織は彼の顔を見る、知っている人だった。
これまでろくに話した事もない…いや、中学から同じクラスだった事もあり全く話した事も無いなんて事はないが特別仲が言い訳じゃない、賑やかしの騒がしいクラスメイトの1人って程度の印象…最近は手のかかる友人、空音の幼馴染である鳴海君の友達くらいの印象に留まっていた。
そんな人の名前は相田君…相田雄二君だった。




