第26話 対峙
「お久しぶりっすねぇ〜チャラ男パイセ〜ン」
雪坂空音と加藤大介の間にフラぁ〜と圭…黒圭が割り込んできた。
彼は相手を小馬鹿にした様なヘラヘラとした笑顔を向ける。
…しかし敵意もその眼差しにハッキリと乗せている。
「……退いてくれるかな?今は君に話しかけて無いんだけどな?」
「そりゃないですよセンパイ。いくら男に興味無いって言っても贔屓や差別はだめですよ?そーゆ〜のは争い事の原因になったりするって大人なら分かりますよねぇ〜?」
「子供の下らない煽りに付き合ってる暇は大人には無いんだけどな?」
「なら中学生相手に股間にテント張ってないでとっとと帰れよ?」
「へえ?君随分言う様になったねぇ?」
黒圭は相手に対して下がる事はない。
絶対的な自信を持ち相手を威嚇する。
しかし彼に守られる様に後ろにいる空音は気が気ではない。
黒圭は山中を倒してしまえる程に力もケンカも強い。
とはいえそれは中学生同士の諍いでの話だ。
相手は大学生。
子供と大人の体格差。
いくら黒圭が強いと言っても限度がある。
もし加藤が暴力に縋ってしまえば勝ち目は無い。
それが分かるからこそ空音は心配でならない
「ちょっと圭」
「大丈夫だから…お前は下がってろ」
「でも…」
心配する空音に大丈夫だと言う黒圭。
それを大介は笑いをかみ殺しながら言う。
「おいおい、愛しの寧音が取られたら次はその妹さんかい?君も節操がないなぁ?」
「君も?…はっ!なる程?…アンタ寧音の他にも女作ってるな?節操無いのはどっちだかな?」
君も節操がない。
"も"と自分と圭をひとまとめにしている事からも彼が自分を節操の無い人間だと自覚している事になる。
つまりは私は女癖がわるいですとそう公言しているに等しいのだ。
そしてそれを耳聡く聞いていた者がいる。
「え?…嘘だよね?大介先輩…?」
寧音だ、既に加藤大介の彼女だと自認している彼女にとっては聞き逃がせない話なのだろう。
「子供の言う事を一々真に受けるなんて君らしくないよ?寧音」
「そ…そうですよね…」
既に加藤大介の彼女気取りの寧音は浮気を疑ってる様だ。
圭を手酷く裏切った女の行動としてはいささか疑問であるが…。
しかし寧音の懸念はそのものズバリで加藤大介は大学内外で女を作りまくっている。
二股どころか五股六股は当たり前のクズなのだ。
(あっちも知らない内に随分と関係が進んでいるようでなによりだな…くくく。)
予想以上に2人の進展が進んでいる事にほの暗い喜びを感じる黒圭。
「取り敢えず君はもう帰ったらどうかな?冬は日が落ちるのも速い、いくらご近所さんだとしても中学生の君はもっと安全面を考慮する義務がある。」
「アンタが帰ったら俺も帰るよ、自分の女を飢えた野良犬の前でほっとく程薄情じゃないんでね」
「は?女?」
「え?圭君…それって…?」
「ちょっ!?圭!」
「なんだよ?俺何か間違った事を言ったか?」
「い…いや…言ってないけどさ…何も今言わなくても…」
2人が厳密に付き合ってるのかと問われれば答えはNOなのだが校内で既に恋人扱いされていて空音はそれを黙認している。
なら黒圭がこう言っても空音は強く否定は出来ない。
「いつ言っても同じだろ?」
「ちょっ…ちょっと待ってよ!?圭君と空音…付き合ってるの?」
「うん?ああ、誰かさんに手酷いトラウマを植え付けられそうになってな…?空音が居なかったら危うく自殺してたかも知れないくらい凹んでた訳だ。そりゃ惚れるだろ?」
「………。」
「その後は成り行き的にね?分かるだろ?」
「圭!アンタちょっと!」
「何だよ嘘は言ってないだろ?」
多少の脚色を交え黒圭は寧音にあの日の事を話す。
黒圭にとっては相手の反応が見たいから言っただけなのだが空音はどうも顔が赤い。
動揺が見て取れた。
しかしそんな空音の顔色なんて気にしている余裕など無い寧音は圭に問い掛ける。
「さっきから思ってたけど圭君何か変だよ…?話し方とか…とても乱暴だし!まるで圭君じゃないみたい!変だよ!いつもの可愛い圭君じゃ無いよ!戻ってよ!いつもみたいに!!」
「………はあ…」
(勝手な事を言う女だな。まぁ少し試してみるか)
黒圭はいつかの様に寧音にそっと近づく。
余りにも突拍子も無く、また自然ととった行動だった為に誰も…寧音本人さえも反応できないでいた。
黒圭はそっと寧音の耳元に近づいて囁いた。
「寧音姉さんは俺が忘れられないんだろ?」
「へ……?」
黒圭はそっと離れて空音に言う。
「空音、少しファミレスとかで時間を潰そう」
「へ?」
「俺達は2人のお邪魔みたいだからな」
「あっ!ちょ!待ちなさいよ!」
黒圭はそのまま歩き去っていく。
それを急いで追いかける空音。
後に残されたのは寧音と加藤大介の2人。
「寧音!大丈夫かい?アイツに何かされなかったか!?」
「え?だ…大丈夫です先輩」
寧音はそう大介に返す。
そう、何も変わってはいない。
いない筈だ。
なのにこのモヤモヤする感情は何か…?
寧音自身…それが何かは分からなかった。
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