第20話 光沢大治
不愉快だ。
とても不愉快…。
クラス内カーストでトップのポジションにある男子生徒、光沢大治は憤慨していた。
勉強も運動も出来る爽やか系のイケメンである彼は2年になりこのクラスに割り振られた初日からクラス内でその外見と実力を行使して現在の地位を確立した。
そうして自分の周りに綺麗所の女子を集めて簡易的なハーレムを作り、山中のような番犬も上手く飼い慣らし彼の学校生活は順調かのように思えた。
しかし彼には今だ実現出来ない1つの未練があった。
いくら誘っても、いくら声をかけても靡かない、媚びない女がいる。
雪坂空音だ。
正直今まで見て来たなかでダントツに可愛い。
いや、可愛いなんて在り来りな言葉で終わらすのが失礼に感じる。
そのくらいの美人だった。
だから何度も何度も声を掛けた…かけ続けた。
その都度あの女は面倒くさそうに言うのだ。
「きょーみ無いから」
「帰るからどいてくれる?」
「もー良いってマジで」
「あんたシツコイ…いい加減だるいよ?」
気怠そうに、面倒くさそうに彼女、雪坂空音は言う。
その他の男子と同じにこの光沢大治をあしらう。
その他の男子と同列にこの俺を扱う。
それが許せない。
しかしだからこそ口説き甲斐がある。
佐藤や渡井みたいに簡単じゃつまらない。
俺の彼女になるに相応しい高嶺の花としてのブランドを今は十分に磨いておけばいいと思っていた。
しかし気に食わないのは鳴海圭とか言う陰キャだ。
細身のナヨナヨした陰キャ。
いつも下を向いて心細げにしてるモブ男。
そんな奴があの雪坂空音にとても気に掛けられている、何かの冗談かと最初は思った。
嘘告でもする為に準備でもしてるのかなと、空音も案外趣味が悪いなと思った位だ。
「あぁ、空音と鳴海君は幼馴染らしいよ?」
「良いよね〜幼馴染!オネーサンも憧れちゃう!」
空音と特別仲の良いギャル共に聞くとどうも幼馴染らしい。
弟みたいなポジションらしく恋心とかより家族の延長みたいな感じらしい。
なんだ!そ~言う事!
くくく。
可愛そ〜に!
学校1の美人から男として見てもらえず弟ポジ止まり。
アイツも男なら空音に邪な感情を持ってるだろうにその空音からは相手にされない。
くくく。
正しく雑魚の典型だ。
俺は一時の安心を得たのだがそれは結局一時に過ぎず直ぐ様安心は不安へと変わっていった。
空音は基本どの男子に対しても一貫して気怠そうな塩対応だ。
しかし鳴海圭にだけは違う。
まるで世話のかかる弟を心底から心配する姉の様な手のかかる子供をあやす母親の様な、あるいは愛する恋人に構って欲しいヤキモチ彼女の様な…そんな風に見えてくる。
この認識を持ったのは何も光沢大治だけでは無く雪坂空音に想いを寄せる大多数の男子が共通してもつ嫉妬心だった。
そして彼等が知る事では無いが圭が寧音に裏切られ心に深い傷を負ってからより空音は圭との距離を縮めた。
そして男子達の嫉妬心は爆発した。
そんな男子達の中でもっとも速く行動に出たのが光沢大治だった訳だが…。
彼は昼休み中何処かに行っていた2人が教室に揃って戻って来たのを見ていた。
光沢大治は眉間に皺を寄せてそれを見ていた。
「不愉快だ…どうして僕がこんな不愉快の気持ちにならなきゃならないんだ!」
そう独り言を漏らす光沢だがどうする事も出来ない。
鳴海圭は本性を隠していた。
狡猾で残忍な本性を。
(いやまて?これは使えないか?)
鳴海に対してのみ世話焼きな空音だがその鳴海があんな本性を隠し持っている事は知っているのか?
あの時の鳴海は世話を焼かれる必要なんて全く感じない程に人が変わっていた。
鳴海はおそらく空音を独り占めしたいが為にあんな頼りないキャラを演じてるのではないか?
あのキャラが嘘で本当の鳴海は口汚い凶暴で狡猾な奴だとしたら奴の変貌も合点がいく。
「くそ…鳴海め!卑怯な奴!」
鳴海圭当人のあずかり知らぬ所で誤解は斜め上の方向に飛躍していくのだった。




