第17話 波乱万丈
「ちょいちょいあれどーなってんの?」
「オネーサンもわかんない…」
阿久利未音と朝咲花織の空音の友人2人は今教室で巻き起こってる事態に困惑していた。
そしてそれは空音も同じだった。
「な…何してんのよ…アイツ…」
アレが私のよく知る圭でないのは一目瞭然だ、圭は争い事を嫌うし他人に暴力を振るうような奴でもない。
むしろ殴られていてもやり返そうとすらしない軟弱な奴だ。
常々私はアイツのその軟弱な所を直してやりたいと思っていたけど…あれはやり過ぎだと思う。
間違いなくアイツだ、圭の中で目覚めたもう1人の圭。
アイツが出てきてるんだ。
このクラスで一番乱暴な男子生徒の山中を力でねじ伏せて男子から人気の高い佐藤と渡井の女子2人を手籠めにしている。
なに?何があったの!?
私はスッと席を立ち圭の元に向う。
「いだい痛い!?離して!?はなじでぐじゃざい!ごめんなざいごめんなざい!もう生意義言いまぜんから許して!!」
「くすくふくす、」
「ダサぁ〜」
「圭、もうやめなよ」
「空音」
わたしは圭に端的にそれだけ言った。
圭は直ぐに手を離して私の言葉に従ってくれた。
「圭、ちょっときて、色々聞きたい事がある」
「りょーかいしましたよお姫様?」
「からかわないで」
私は圭を連れて教室の外に向う。
こんな所で話なんて出来ないからだ。
しかし…。
「待てやこら!?」
「鳴海君何処に連れてくのよ!?」
「てか私も下の名前で読んでないのにぃ!!」
佐藤と渡井に呼び止められた。
なんなんだよ…面倒くさい!
今アンタ等の相手なんかしてらんないのに!
「なに?」
「何じゃねーだろ!ボケ女!」
「私の鳴海君連れてくな!!」
「はあ?いつから圭はお前らの物になったんだよ?」
「はあ!?」
「私はずっと昔からコイツと一緒にいたんだ、お前らにとやかく言われる筋合いはない!」
「は!?ちょ!?待ってこら!」
私はそれだけ吐きつける様に言うと教室を出て行った。
しっかりと圭も付いてきてるみたいで安心した。
私と圭は人通りの少ない校舎の中庭に来ていた。
「で?あれ何なの?」
「アレとは何かな?」
「とボケるな!あんたもう1人の方の圭でしょ?どうしてあんたご出て来てんの?」
「正当防衛だよ」
「正当防衛?」
「さっきの山中と光沢に佐藤と渡井が中心の陽キャグループに鳴海圭はイジメを受けていたんだよ」
「………へ…?」
「イジメだよイジメ!理解出来るかな?」
「そ…そんなの聞いてない…」
「言える訳ないだろ?君が原因なんだから」
「わ…私が原因?」
「君は自分の美貌にもう少し自覚を持つ方が良いとおもうぜ?普段はクールでダウナーな美人って評価を受けてる君が鳴海圭と言う凡庸なモブに構っていると一定のヘイトをかいやすいんだよ」
「な…何よそれ」
「事実だよ、現に光沢は俺達に雪坂空音に近づくなって命令してきてね、兄弟がそれに反発したら殴るわ蹴られるわで大変だったんだぜ?あっ!これ証拠ね」
「ちょっ!…あ…」
圭は私の前でシャツを捲ってお腹を見せてくる。
お腹には赤黒い青痣が出来ていた。
「な…それをアイツ等が…」
「そ…あの時と同じ…兄弟は現実を苛んだ…そして人格の主導権が俺に移った…っわけ!」
「私のせいで…圭が…」
「そう悲観する事はない…俺が主人格の時はどう言う訳か普段の兄弟がメインのときより体力に腕力、それに視力が上がるみたいだ、それに腹の痛みを和らいで来てる、自然治癒力も上がってるみたいだ…、いやはやどー言う原理なのかね?」
「……圭は…圭は大丈夫なの!?」
「今は眠ってるよ」
「……そう…ねえ?もう一ついい?」
「どーぞ」
「佐藤と渡井…あの2人になにしたの?」
「なにも…?」
「……」
嘘だ。
絶対に何かをした。
コイツは間違いなく嘘をついてる。
「やっぱり君には隠せ通せないか」
「やっぱり…何かしたんでしょ!」
「俺は女なら誰でも自分に惚れさせる事が出来るんだよ」
「………はぁ!?」
「俺が生まれつき持ってた能力でな、一応言っとくがこれは俺固有の力で兄弟が持ってた力じゃない。」
「ちょ…惚れさせる…?」
「言葉通りの意味だよ」
「そんな馬鹿げた話…」
と口にしながら私は既にこの話を信じてしまっている。 既に多重人格なんて馬鹿みたいな事が現実に起きてる上に実際に圭に惚れる可能性なんて微塵も無かったあの2人があんなに圭に固執してたんだからむしろ否定する方が無理がある。
「あの2人は元に戻せないの?」
「無理だな、元に戻せるなら俺もそうしてる、まとわりつかれて俺も迷惑してるんだよ」
圭は視線を私とは違う方向に向ける。
つられて私もコイツが視線を向けた方向を見ると佐藤と渡井がコソコソと隠れながらこちらを盗み見ていた。
「アレで隠れてるつもりらしいな。」
「はあ…」
思わず溜め息が出る。
あれもこれも姉が圭を裏切るからこんな面倒な事になるんだ。
我が姉ながら本当に馬鹿な事をしてくれた…。
でもそのおかげで圭は姉を避ける様になった。
そこだけはありがたいけど…。
「とりま俺は引っ込むよ、なんかめんどくせーからな」
「あ…あんたねぇ…」
圭は目をつぶると今までの不穏な雰囲気は四散しいつもの圭に戻った。
「あれ?……え?空音?」
「その反応…もしかして覚えてないの?」
「え?え?…た…多分?」
アイツが前に表に出てる時圭は眠っているのか?
今までの記憶がないみたいだ。
「あんたに色々と話さなきゃならない事が出来たわ。」
「そ…そうなの……?」
圭はまるで買い物中に親とはぐれた子供の様に不安をいっぱいに顔に貼り付けた表情で問い返して来た。
コイツには全く似合わない波乱万丈な毎日が待ち受けている事に私は少なからず同情した。




