第13話 やり返し。
光沢大治を中心に据えたコミュニティに山中大介と言う男子生徒がいる。
ヤンキーみたいな風貌の大柄な男子が彼だ。
山中は光沢の事が嫌いである。
光沢は顔も良ければ頭も運動も出来る。
まさに天から一も二も与えられた恵まれた人物だ。
彼にとって光沢は嫉妬の対象だ。
当然女子からの人気は極めて高く山中が密かに良いなと思っていた女子、佐藤も光沢に夢中だった。
良いなと思う女が顔も頭も運動も出来るイケメンに夢中なのだから当然面白くない。
オマケに光沢は中々陰湿な性格をしていて自分主体の論理を他人に押し付ける歪な性格の持ち主。
山中が嫌うのは当然と言えた。
そんな光沢に片思いする佐藤恵という女子相手に山中はずっとアプローチをかけ続けた。
佐藤恵。
それが山中が密かに良いなと思う女子だ。
雪坂空音には遠く及ばないにも平均的なクラスの女子連中と比較すれば明らかに抜きん出た美少女だし雪坂なんて恐れ多いそんな贅沢は言わない。
佐藤レベルで十分おつりが来るんだから是非とも仲良くなって彼女にしたいと思っていた。
光沢を中心にしたグループと一緒にいた関係から比較的早期に仲良くなれた事は山中にとって僥倖だった。
が、その佐藤からは光沢に告白したいけど勇気が出ない。
そんな相談をされてしまえば自分の気持ちを抑え込むしか彼に選択の余地はない。
結局自分の気持ちを隠しながら佐藤の恋を応援すると言う地獄を体験する事になり彼の中で光沢への増悪は日をまたぐ内に大きく膨らんでいった。
しかしそれも早期に終わりとなった。
何故なら光沢が佐藤をフったからだ。
光沢の本命はあくまで雪坂空音。
他の女子にうつつを抜かす余裕は雪坂相手に彼には無かったし浮気を疑われていては元も子も無い。
万全の状態のキープ、それこそが彼のもっとも優先するべき事だ。
「私…わだじ振られちゃっだぁ…うわぁ…うわぁぁぁあああ」
「大丈夫…大丈夫だから!俺がついてっから!」
山中は内心でこんな良い女を振るとかアイツマジか?巫山戯んなってマジで!と光沢へのヘイト感情を強め不快に思いながらも佐藤への励ましの言葉を必死に紡いだ。
そうやって励まし続けたながらも彼はナイス!これで佐藤を口説けると内心では喜んでいた。
その後、彼の努力は実り佐藤と恋仲になることには成功するも佐藤の気持ちは相変わらず光沢に向いており、自分は結局光沢と付き合えないのだから仕方なく付き合ってもらえてるに過ぎない。
妥協、そんな言葉が頭を過ぎる。
結局はムカつく光沢のお下がりに預かる惨めな自分。
そのお下がりからは妥協として光沢の下位互換…いやそれ以下の扱いを受けてようやく付き合ってもらえている。そうと思えば彼女に対してすらどす黒い感情が頭に充満する。
それを気取られないようにとイライラは彼の中で大きくなるばかりだった。
そして…。
「山中、その辺にしときなよ?これ以上すると疑われるよ?」
「え…?そ…そうだな…はは」
目の前でゴミみたいに蹲りながらひくひくと泣くひ弱な存在。
日頃のたまった鬱憤をこの鳴海圭で紛らわす。
別に光沢の恋路もこいつの恋路も興味ない。
佐藤にいい所を見せられたら何でも良い。
まぁコイツをボコってストレスの解消にもなったし結果オーライだ。
「ひぐふふ…ぐす…ひひ…」
「おいてめぇ!」
「ひぐ…ひひひ…」
「ちょっと黙れや?いつまでも泣いてたら俺らがイジメてるみて~じゃん」
「ふひひ……ふへへへ…」
「あぁ?テメェ?何笑ってやがる…」
「くふふふふふ…くひひひひひ」
「は?笑うな!テメェ笑ってんじゃねぇぞこら!」
「くふふ…あはは!あはははははは!!!!………ふぅ…寄って集ってする事が小さいなぁ…デカい図体してやってることは弱い者イジメだろ?これを笑うなは無理があると思はないか?ええ?」
「なっ?」
「え?え?何コイツ?」
今まで痛めつけられるだけで何もしてこなかった少年がいきなり高笑いし出したかと思えば次はこちらを小馬鹿にする様な物言いだ。
山中も佐藤も暴力に加担していたその他の男女も、そして光沢も怪訝な顔をせずにはいられない。
「イジメてるみて〜じゃん…ね?コレって明確にイジメだよな?なぁ?君はどー思うわけ?聞かせてくれよ?自称ユぅート〜せ〜の光沢くぅ〜ん?」
「……なる程…それが君の本性なわけか、やっぱり君は危険だ、雪坂…いや空音の近くには置いておけない」
「くふふ」
「なにがおかしい?」
「いやいや、ここまで御目出度い頭してると生きててさぞかし楽し〜んだろーな〜と思ってさ?良かったでチュね〜ひか〜り沢くぅ〜ん」
「山中!」
「お前いい加減黙れや!!」
光沢の声に反応する様に山中は右ストレートを鳴海圭に向けて打ち込む。
しかし…。
バシン…!
と音が鳴る。
鳴海圭はいとも容易くそれを片手で受け止めた。
「なっ!?」
「はっ!」
受け止めた山中の拳を握り潰す様に力を込める。
メシギシと音が聞こえてくるかのように力をこめる。
「あがっ…いぐぎ……!?」
「………」
更に更に力を込める。
山中の顔に苦悶が走る。
佐藤が見ている…ダサい所は見せられない…しかも相手は鳴海圭…陰キャで卑屈なゴミカス。
こんな…こんな事があって言い訳ない。
なのに…。
「あがが…いだいだい…痛ぁ…っ!!?」
ついには悲鳴を上げ膝を折り、地面に膝をつけ、鳴海圭をみあげる体勢になる。
「はなぜ!!離せ!!離せ…離してぐだざぃ!!」
「どうしたぁ?頑張れよ?愛しの彼女が見守ってるぞ?」
「や…山中!?」
佐藤恵がみている。
そんなのわかってる。
でも振りほどけない…立ち上がれない…痛い。
痛い…手が…潰れるくらいに痛い。
「はぁ…つまらない、もうギブアップかな?イキってた割に弱いね?君」
「はあハアハア…くそ!ぐぞぉ!!」
開放されたそばから山中は間髪入れずに鳴海に蹴りかかるもその足を取られそのまま床に叩きつけられる。
「ごふぁ!?」
更に腹に目掛けて圭は足を踏み降ろした。
「ぶぉごぉっ!!?」
「弱いくせにイキがるからこうなるんだ、わかるかな?ゴリラ男君」
「あ…アンタ!…あんまちょーしに乗るなよこのカスが!」
「ざ…ざとう…」
「……」
山中を庇う様に彼女の佐藤が割って入る。
佐藤の背後には数人の男女がいる。
多勢に無勢。
いくら鳴海圭が謎に強いといえど数では陽キャグループが圧倒的。
しかも連中のなかにはスマホのカメラ機能をオンにしている者もいる。
鳴海圭が女に手を出す瞬間を撮ろうと言う魂胆だ。
「私に手をだしたらどうなるかわかるよね?アンタは私等にボコられるしか無いわけ!理解出来る?」
「はあ…」
圭はうんざりした様に項垂れる。
しかし次の瞬間には佐藤恵につかつかと何も警戒しない様に歩み寄る。
「ちょっと!?え?」
警戒するも体格の良い山中を無力化した鳴海に女が勝てる訳も無く怯える佐藤。
しかし鳴海圭はそんな佐藤の耳元に口を近づけ囁く様に呟いた。
「俺は力押しじゃ倒れないぜ?」
「ほえ…?」
その瞬間佐藤の体全身に電流が流れた。
駆け巡る刺激。
興奮。
高揚する感情。
止められない。
歯止めなく湧き出す謎の衝動…。
「へ…?へ?へ?」
トドメと言わんばかりに圭は彼女の目を見て呟いた。
「それでもいいなら来なよ?」
「は…はううぅ〜」
その場にヘナヘナ〜と倒れる佐藤。
周りの面子も何が起きたかわからない様子だ。
隣で一部始終を見ていた佐藤の友人で光沢に恋心を抱くカーストトップ女子の渡井が噛み付く様に威嚇する。
「あっアンタ佐藤になにしたの!」
そんな彼女に鳴海圭はふっと微笑む。
「へ……?はえ?へぇ〜…」
渡井もその場にヘナヘナ〜とうずくまる。
カーストトップ女子の2人が揃って謎のダウン。
周りの取り巻き達は意味がわからず混乱する。
「君!何をしたんだ!」
「何も?」
「そんな訳あるか!!」
「ふんw」
鼻で笑い圭はその場を立ち去る。
まて!と呼びかけるも圭は聞く耳持たずにその場を立ち去った。
あとには困惑する取り巻きと光沢。
ピクピクと泡を吹いて気絶する山中。
そして頬を赤く染めて立ち去る鳴海圭を見る女子2人がその場に残された。
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