第12話 慟哭
雪坂空音は人気者だ。
これは言葉通りの意味で彼女がいくら一匹狼を気取ろうと彼女にお近づきになりたいと思う生徒は後を立たない。
それ程に彼女の見た目は垢抜け、抜きん出ている。
彼女は圭の前でだけ世話焼きおかんみたいなムーブを取るが学校での彼女は基本気怠そうにしているダウナー美少女でそんな彼女の存在は一個のブランドとして一定の人気を生み出す切っ掛けに図らずもなってしまっている。
勿論彼女にとってはあずかり知らぬ所だが。
しかしそんな事は他の雪坂空音に憧れる、あるいは恋心の様な物を持つ一部の者達にとっては知ったことでは無い。
あの仏頂面で何事に関しても強い感心、興味を持たない雪坂空音が自ら構いに行く圭と言う少年に一定のヘイトが向うのは仕方の無い事なのかも知れない。
鳴海圭は居心地の悪さを感じていた。
いつもは感じない視線をそこら辺から感じる。
しかもこれは良くない視線だ。
早速圭は空音と一緒に登校した事の重大さに気付き後悔していた。
だって思わないだろ?
ただ女子と登校しただけでこんなに注目されるなんて…。
居た堪れなくなって彼はトイレに逃げこむ事を選択する。
しかしこの選択もまた間違いだった。
何故なら…。
「やぁ鳴海君!」
トイレに行く道中に待ち伏せにあったからだ。
待ち伏せメンバーは男女混合の組み合わせ。
クラス内ではカーストトップに組み分けされる者達がメインでその他は彼等彼女等に媚びる金魚のフン的存在だ。
「え…えっと…何?」
「何じゃないでしょ?分かるよねぇ?鳴海君」
「え…何…?わかんない…」
「あぁ!?てめぇ俺の彼女の事ディスってんの?」
「え?ちっちが?」
ギャル風だが整った見た目の美少女に声をかけられその娘に分かるよね?といきなり問われる。
しかし圭には何の事やらサッパリ。
そのままわかりませんと返せばその美少女の隣にいたヤンキーみたいな風貌の大柄の男子が声を荒げて言ってきた。
「お前たった今ディスってただろぉが?どう見てもよぉ!?」
(な…なんなんだよもぉ…)
カップルらしい男女がいきなり理不尽とも思える言い掛かりを鳴海圭に吹っ掛ける。
主語の伴わないあたり屋めいた彼等の行動は圭にとって恐怖以外の何物でもなかった。
「巫山戯んじゃねーぞマジで!?雪坂の事に決まってんだろ!?」
「落ち着け山中、そんなケンカ腰だと鳴海も怖がるだろ?僕達の言いたい事は1つだけだ、鳴海、雪坂さんを自由にしてやれ」
「え…?」
乱暴な物言いの男子を制して落ち着いた物腰で訳のわからない事を言う優男風の男子。
カーストトップグループの中心的立場にある男子、光沢大治。
彼は自分の言いが正しいと全く疑問に思わず自分勝手な持論を展開する。
「雪坂さんは君のせいで迷惑してるんだ!いい加減それに君も気が付くべきだ」
「へ…?な…何をいって…」
雪坂空音が鳴海圭におせっかいをやくのは彼女の意思で圭に強要されているからでは勿論ない。
しかし光沢大治、彼…そして彼等の中ではどうやらそうなってるらしい。
「そうよ!アンタ恥ずかしいと思わないの?空音ちゃんだってもっと遊びたいと思ってる筈よ?なのにアンタが空音ちゃんの事利用して言いなりにしてるからあの子満足に遊べもしないじゃない!」
「そうよそうよ!男としてサイテーだと思はない訳!?」
「ぼ…僕は別に空音に強要なんて!」
「あぁ!?何雪坂さんの事呼び捨てにしてんだよてめぇ!!」
「ええ…」
男子混合のカーストトップグループ…俗的に名前を付けるなら陽キャグループが僕を取り囲み圧を掛けて来る。
円を描く様に僕を取り囲んでいるので外からは僕の姿は見えない。
周りからは陽キャ達がじゃれてる様にしか見えないだろう。
世の中にはオタクに優しいギャルと言う言葉がある様に卑屈男子に優しい陽キャも多分いるのかも知れない。
しかし今僕の目の前にいるのはそれとは対極に位置する存在だ。
「なんとか言ったらどうなんだてめぇ!?」
「止めなよ山中、君が凄むと鳴海君が怖がって会話が出来なくなるだろ?それでわかってくれたかな?簡単な話だよ、もう雪坂さんにちょっかいをかけない事!彼女の邪魔になる事をしない事!出来るよね?」
光沢は悪気一切なく勝手な持論を述べて来る。
こちらの言い分など一切聞かず向き合わず自分が正しいとそう思い込んでいる。
正直イラッとしたのが実際のところだ。
だからつい口に出してしまった。
本来なら口に出すべきではない自分の本音を。
「勝手な事ばかり…君達に僕と空音の何が分かるんだって言うんだよ!!」
「わかるさ、君が雪坂さんに縋る事しか出来ない卑怯な人間だってね」
「それの何が悪いんだよ!僕等は昔からそうやって接してきたんだ!!何も知らないくせに知ったような気になって言い掛かりなんてやめてくれよ!!」
「言い掛かりだと?」
今まで微笑を浮かべていた光沢の顔から笑みが消える。
心底から寒気のする冷たい視線。
そうか、コイツだ…コイツが僕にあの視線を送っていたんだ。
そう理解したと同時に頬に痛みが走った。
「あがっ!?」
殴られていた。
腹をグーパンで。
「あんまちょーしにのんなよ?カスが」
「コイツうざ!何様マジで」
「僕等は昔からそうやって来た〜だってマジうっざ!」
「それな〜」
「大介やっちゃってよこんなマジウザいやつ!」
「そーだよ!大治君馬鹿にするとかマジ許せない!!」
「オラ立てよゴラァ!!」
胸ぐらを掴まれ更に追加で腹をグーで殴られる。
なんて奴らだ…顔じゃなく服で隠れて見えない部分を重点的に狙ってくる。
コレじゃ陽キャってよりただの不良…ゴロツキだ。
僕はお腹を抱えてうずくまる。
どうしてこんな目に合わなきゃならないんだ。
寧音さんから裏切られ学校では訳のわからない理由で殴られて…僕が…僕が何をしたっていうんだ。
「ははは!何座ってんだテメェ!!何だぁ?もしかして蹴って欲しいのか!?えぇ!?」
「キャハハハ!!それそれ!!」
「はは!ゴミみたーい」
「写真撮っとこーよ!」
「写真は良くないよ、まるで僕等がイジメてるって後で誤解されそうな物は残さないほうがいいからね」
「そーだね!さっすが大治君!」
クソクソクソ!!
こいつら!
コイツ等!!
なぜ…
なんで?
どうして!
どうして僕がこんな…!!!
こんな!!!
(手を…… 貸してやろうか?)
え………?
暴力に抗えずうずくまるしかない僕は連中を……世界を……なにより自分を…ありとあらゆる物を呪った。
その結果…彼は僕に囁いた。
(代われよ)
と…。




