第7回 顧雍、郡丞として奮闘する(中)
まず馬同は、呉県と山陰県をつなぐ交通の要所として、上虞に跋扈する盗賊たちの掃討戦から開始することにした。
馬同は、顧雍が軍事の経験が無いということで、司馬の「趙元」とその手勢二〇〇を顧雍に付けてくれた。顧雍が言う。
「趙元殿。聞いていらっしゃると思うが、私は全く軍事経験が無い。奇妙な質問をするかもしれないが、よろしくお頼みしたい。」
「郡丞殿は太守様の全権を有する方と聞いております。何なりと、お申し付けください。」
趙元は顧雍に拝礼をした。顧雍は拝礼を返して言う。
「確かに太守様から全権を委ねるとのお言葉を頂きましたが、それで偉ぶるつもりはございません。」
「その謙虚さが馬同様を動かしたのでしょう。以前より検討をされていた作戦とはいえ、これほど早く開始するとは思っていませんでした。」
「既に検討をされていたのですね。」
「はい。我々としても一日でも早く、とは思っていたのですが、太守様に上申する機会も中々ありませんでしたので。」
「なるほど。その当たりは、改善が必要そうですね。」
「はい。駐留軍と本拠地と言うのは、物理的にも心理的にも距離ができてしまうもののようです。」
「貴重なご意見、ありがとうございます。今のお言葉、必ずや活かしてみせましょう。」
数日のうちに、主だった盗賊の掃討は完了した。
次なる作戦は、最重要拠点ともいえる山陰県の王朗の残党を主とした反乱軍の鎮圧である。王朗は孫策に敗れ、既に会稽郡から去っているが、このまま孫策の弟である孫権に仕えることをよしとしない者たちが徒党を組んで、やりたい放題をしているのである。
地形の入り組んだ谷間などに点在しており、その実数をこちらでは把握しきれていなかった。
拠点から時折出てきては、軍営への襲撃、民からの略奪などを繰り返してすぐに引きこもる、ということを繰り返して、長期にわたって反抗を続けてきた。
顧雍は、趙元が見せてくれた周辺の地図を見ながら言った。
「趙元殿。敵が細かく分散しており、その全貌をとらえきれていないという現実がありますが、敵が平地に出てくる時に通ると思われる地点の把握はできていないのでしょうか。」
「全部を把握できているとは言えませんが、一部はこちらでもわかっております。」
「それならば、まずはそのわかっているところから封鎖してしまうのは如何でしょうか。」
「しかし、一部を封鎖しただけでは、大きな効果は得られません。」
「そうだと思います。故に、今回は長期戦でこちらも構えるのです。まずはわかっているところから封鎖し、次に出てきたところを新たに封鎖、と繰り返していけば、敵は水や食料の補給にも困るのではないでしょうか。」
「なるほど。時間をかけて、一つ一つ出入り口をつぶす、と言うことですね。」
「はい。言うは易しく、行うは難しいのかもしれませんが。」
「わかりました。一つの作戦として、馬同様に提言してみます。」
―翌日―
馬同が顧雍と趙元の所にやってきた。そして言う。
「郡丞殿。昨日、趙元から作戦を伺った。今まで速戦速攻ばかりを考えていたが、今回は時間をかけて郡丞殿の作戦を遂行してみようと思う。」
「そうですか。この辺りの治安が向上すれば、この会稽郡もだいぶ安定致します。是非、よろしくお願いいたします。」
反乱軍と馬同軍の我慢比べが始まった。まずは、こちらが把握している出入口を重点的に封鎖した。それを嘲笑するかのように、別の出入口から反乱軍は出入りをし、略奪を行った。今度はそこも重点的に封鎖。この攻防を、実に数ケ月にわたって繰り返した。
そして、反乱軍は全ての出入口を失ったのか、一丸となって最初に封鎖した出入口から全軍で突撃を仕掛けてきた。
まさに、馬同はこれを待っていたのである。こちらも主力軍を全力でぶつけ、反乱軍を一網打尽とした。
顧雍は降伏する者は助命するように馬同に依頼した。
馬同は捕らえたものすべてに従うか否かを確認し、従わないとした者は、全て斬首とした。その数は二〇〇を越した。
「これが戦か・・・。」
顧雍は改めて思った。こちらの意を通せば、それに歯向かう者たちの多くの血が流れる。しかし、その血を流さなければ、殺される必要のない民の血が流れることにもなる。
いずれにしても、「血が流れる」のである。あとは、その血がこちらのものか、敵のものか、という違いだけである。
「なるべく血を流さない方法を考える。」
これが、顧雍のこれからの目標となったのである。




