第6回 顧雍、郡丞として奮闘する(前)
顧雍は、太守の孫権から命じられた以上、武官の経験が無い云々の言い訳はもはや通用しないと悟り、太守の代理として全権を行使する覚悟を決めた。
会稽郡の近々の課題としては、王朗残党の反乱軍や盗賊が跋扈し、その上、異民族の「山越」の居住区と隣接していることから、治安が不安定であり、且つ、領土が非常に広い、ということである。
そのためには、軍営の配置を効率的に行わなければならない。
まず、荒廃しているとはいえ、郡治である「山陰」に軍営を設けるのは最初の判断として、当然である。
そして次はどうするか。
顧雍は、交通の要所である「上虞」、海路と陸路の結節点である「余姚」、そして異民族「山越」への対応として「諸曁」の四ケ所を重要拠点と位置付けた。
そして、顧雍は現地の軍営全体を統括する都尉の「馬同」に会うために、山陰県に向かった。
孫権の命令は既に届いているのか、本来は官位が上の都尉である馬同が顧雍を出迎えた。馬同が言う。
「これは、郡丞殿。私は都尉の馬同と申す。会稽郡全体の軍営を統括している者です。」
「馬同殿。郡丞の顧雍と申します。以後、お見知りおきを。太守からのご命令、不本意だとは思いますが、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。」
顧雍は、拝礼した。馬同が言う。
「今後の方針をお伺いしたく存じますが。」
「はい。私としては、この会稽郡の重要拠点は、山陰、上虞、余姚、諸曁の四ケ所であると考えております。」
「異論ございません。それで。」
「会稽郡の治安向上には、武の力が必要です。そこで、馬同殿のお力をお貸し頂きたい。」
「具体的にはどうしろと。」
「まずは、この山陰県の王朗の残党や盗賊の討伐。続いて、上虞、余姚、最後に諸曁と軍を動かして頂きたいのです。」
「我々だけで何とかしろと。」
「いえ。必要とあらば、孫権様に呉県の軍も動かしてもらおうと思っています。しかし、その判断を含めて、会稽郡の軍事の筆頭である馬同殿に相談してからと思いまして。」
「なるほど。我々を立ててくれたのですな。」
「私には軍事経験はございません。是非、お力をお貸しください。」
「わかりました。この作戦、まずはこちらで動くことにしましょう。」
「ありがとうございます。そして、お願いがございます。」
「なんでしょう。」
「是非、私も帯同をさせて頂きたく。お邪魔は致しません。」
「わかりました。しかし、実戦の場において、どんなに後方にいても安全とは限りませぬが、その点はよろしいか。」
「もちろんです。」
こうして、顧雍は会稽郡都尉の馬同の協力を取り付け、会稽郡の治安向上に動き出したのである。




