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エノコログサ  作者: 肺腸
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3/8

ハニートラップ事件

「フワァ~~~~~~~ッ」

ひときわ大きな欠伸と共にシートの背もたれに体を預け伸びをする

月の地下都市からの農作物輸送船の副操縦士は退屈極まりないといった様子だ

「定期便のシャトルなんて全自動操縦でいいでしょうに

人が乗っている意味なんてあるんですか」


「失業したいのなら会社に掛けやってやるぜ」

年配の操縦士の男が応える

「人間が生活するための仕事だ人間が働かないでどうするよ」


「そうは言っても実際にシャトルを動かしているのはAIでしょ」


「名目上は人間が命令しているんだから見張ってるフリくらいしとけ」

「と、云いたいところだが実際仕事がないからな。

積み下ろしが終わったら起こしてやるからもちっと寝てな」


「いいんですか。それじゃあお言葉に甘えて」

副操縦士はシートをリクライニングにし早速、寝息を立て始めたが

操縦士の男は咎めることもなく、コロニーへの入港手続きの為に通信を行う





「これって、わたし達の仕事なんですか?」

宇宙港で貨物船を見上げながら金子は隣に立つ上司に尋ねるが


「検疫と思えば私たちの仕事と変わりませんよ」

大山根は至極当然といった風情で応える

「今回の仕事は貨物船の生鮮野菜を運んでいるコンテナにハチの巣が発見され」

「その蜂の巣の回収依頼です」


「蜂って危険はないんですか、わたし昆虫の捕獲は初めてです」

金子は見るからに及び腰だ

それも無理はない環境を完全管理されたコロニーには昆虫はいないのだから

コロニー市民が本物の昆虫に触れる機会など本来皆無だ。


「コンテナを運び出す作業員が刺されているけど」

「皮膚に残っていた針から二ホン蜜蜂である事が判っているし」

「比較的おとなしい蜂だから対処法を間違えなければ何の問題もないわ」

大山根は簡単に言うが金子は不安を払拭しきれない

何しろ今いる宇宙港はコロニーの回転軸上から外部に飛び出していて人工重力が働いていない

体の脂肪が浮かんでいるのが分かるが

風呂に入っているときのような水圧は感じられない

金子は落ち着きなく身じろぎしているが大山根は無重力状態をさほど気にしている様子もない


「ええと・・・違法鳥獣取締り課の方々ですよね」

管制室の職員が二人の姿を見て疑わし気に声を掛けてくる


「はい。そうですよ」

大山根は職員の男に優しく微笑み掛けるが


「食料用貨物船はホエールタイプですから」

「宇宙服を着る必要はないのですが防御服を着た方が良いのでは?」

職員はおそらく善意で云ったのであろうが


大山根は涼しい顔で

「蜂用の防御服を見るのは初めてですか」

「これがそうですよ」と両手を広げて見せる

白い長靴、白いもんぺに、白い割烹着を着込み、両手に同じく白いゴム手袋をはめている

ただ、金子が麦わら帽子のつば周りにきめの細かい網が掛かっている物を着用しているのに対して

大山根は鼻筋から顎先まで顔にぴったりと沿う白いマスクと

美しい黒髪を隠すために日本手拭いを三角巾として被っているだけだった。

手拭いには藍染めで彼女の座右の銘だろうか『不易流行』と書かれている

「無重力状態で蜂がどのように飛行するのか大変興味があります」

大山根はフフフと小さく笑っている


「すみませんが宇宙港のスケジュールが押していまして」

「コロニー市民1億人の胃袋を賄う食料が分刻みで運用されなければいけないのに」

「荷物の搬入作業が2時間以上遅れているんです」

職員はイチョウ課が人員を2名しか派遣しなかった事にやや失望しているようだったが

大山根はお構いなく


「それでは。サクッとやりましょうか」気軽に言った




「先輩。巣の場所は判っているんですか」

シャトルの格納庫内で金子が大山根に尋ねる


「格納庫内の気温設定は蜜蜂には寒すぎるから活動的ではないはず」

「作業員が刺されたのはすぐ近くに巣あったからと考えると」

「ここですか」

大山根は一つのコンテナの前で立ち止まる

「M78番これを運び出そうとして刺されたようです」

「私はこれを調べます、水魚は隣接するコンテナを調べて」


「ありました」声を上げてたのは裏側にあるコンテナを調べていた金子であった


「本当に二ホン蜜蜂なのね」大山根は蜂の巣を確認して不思議そうに言った


「どうかしましたか」


「分蜂された集団ならば月の貴重な資源だから」

「送り返さなければならないので問い合わせてみたのだけれど」

「月の農場プラントで受粉に使われているのはセイヨウ蜜蜂で二ホン蜜蜂は使われていないの」


「どういうことですか?」金子はピンと来ていないようだ


「とにかく今は巣の撤去に専念しましょう」大山根はノコギリとスクレーパーを取り出し

金子は昆虫用掃除機を構える




「ようやく一段落したみたいですね」

副操縦士はやれやれといった調子で操縦士の男に話しかける

「給料査定に響くだろうな」苦笑交じりにいうがそのセリフには安心感も漂っていたが


「あ~ちょっといいですか」背後からの声に二人は振り返る


「コロニー警察の四月一日というものですが」

「少しお話を伺いたいのですがね」


「ええええ!コロニー警察に話すことなんてないですよ」

「荷物に蜂がいたなんて俺達には関係ないです」

副操縦士は慌てふためいているが


「その蜜蜂の巣なんですがね」四月一日はさも申し訳なさそうに

芥子けしの花の花粉が検出されたんですよ」

「巣が発見されたM89番コンテナを調べさせてもらってもいいですかね」


「そんな馬鹿な」副操縦士は声を荒げるが同僚である操縦士の顔は青ざめていた


「そいつは何も知りませんよ」操縦士は乾いた声で言う

「仕事もせずに寝てばかりだからな」


「認めてくれるのならば、話が早くていいです」

四月一日は落ち着いた声でいう


「俺は何も知らないんだ、無実だ」

副操縦士は憤るが横合いから管木がその腕を掴む


「仕事もせずに密輸を見逃してきたというならば」

「運航業務違反で免停は確実だ、時間は十分にある、話は署で聞かせてもらおうか」


「そんな」副操縦士は愕然と立ち竦むばかりであった。





環境が人為的に造られている場所では蜜蜂は蜜を集めるにも苦労するはず

ゴミ箱の缶ジュースから糖分を集めると〇ーラや〇ァンタ味の蜜が取れるのだろうか?

アーバンハニー事件として考えていたけど

折角コロニーが舞台なのだから

宇宙港の話にしました

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