8 過去編
今日の私はファーたっぷりのモコモコのドレスを着ていた。
「このドレスで水路に入ったら昨日よりも水を吸っちゃうと思うの」
羽みたいに軽いから、水を吸ったきっととっても重くなる。
「……じゃあ、何でそんなドレス着てるんだよ」
コンラートが呆れたように言う。
「フレデリック様が水路の先に移動できるようのしてくれたから、もう水に浸からなくていいでしょう? だからこのドレスを着てみたの」
「ドレスを着るなー……」
コンラートが文句を言ってるけど、どこか投げやりだった。
私の事をやっと理解したみたい。
「可愛いでしょ?」
「かわ……って言うとこだったろっ!」
コンラートが赤くなって自分の口元を押さえてる。
こんな風に領主館の部屋の前で二人で話しているけど、フレデリック王太子は出てこない。
昨日は、細かい魔法をたくさん使ってたし、疲れてるのかもしれないわ。
「そんなんで疲れないだろう。今までも、俺とフレデリックで色々な所に行ったけど、スライムと水路だけなんて軽すぎる。多分、お前のせいで疲れたんだ。『ドラゴンブ……」
「風邪っ! そうだソフィーと同じ、この地域に特有の風邪にかかったんだわ!」
「だから、お前が『ドラゴンブレイカー』を仲間に使おうとしたから、止めるのに疲れたんだろう!」
「仲間に使おうとした覚えないけど?」
「俺に使おうとしただろう……って仲間だろう!? 俺は!!」
「ぷにたんを殺しておいて……仲間のわけないでしょう」
ガチャッと、コンラートとフレデリック王太子の部屋の扉が開く。
「うるさ……じゃなくて、ちょっと疲れただけだから、今準備して行くよ」
フレデリック王太子疲れた顔を見せながら、扉を閉めた。
「だから、お前のせいだ……」
懲りずに私のせいにしようとするコンラートの足を蹴った。
何で、懲りないのかしら?
まさか、蹴られたいとか言うんじゃないでしょうね。
フレデリック王太子の転移魔法で遺跡に着くと、入り口から昨日の場所にまた魔法で行く。
「便利ね」
「この便利な魔法を、必要あるのか? なんて言ってたアホはお前だ」
コンラートを蹴った。
「はは……。とりあえず進もうか」
私はフレデリック王太子の手を取って進む。
「ばーか」
後ろから聞こえて来た。
水路の先には深い谷のある場所だった。
洞窟の中なのに天井が高くて、ドラゴンが飛び回ってもおかしくないような広さがある。
「遺跡……なの?」
ここまでと同じ遺跡の雰囲気があるけど、スケール感が違う。
谷の真ん中を遺跡と同じ石畳の橋が真っ直ぐ反対側に伸びてる。
私達はそこをゆっくりと歩く。
足場も広くしっかりしてるけど、手すりがないのが怖い。
「通りでドラゴンが逃げ込むはずだな」
「落ちたら死ぬなぁ」
コンラートとフレデリック王太子も怖がってるようで、まだ余裕がありそうだ。
私は足がすくむ。
その様子にコンラートが、ニヤっと嫌な笑みを見せる。
条件反射で蹴りたくなるけど、私が落ちる!
「……フレデリック様は、王太子なのに、こんな危険な冒険をしていて大丈夫なの?」
私が聞くと、一瞬間があった。
何?
「……実は、僕とコンラートは死なないんだ」
「え……?」
「正確には、一度死んでも生き返れるんだ。王家に伝わる蘇りのアイテムを持っているから、死んだら王城に飛ばされて、生き返る」
「え? 本当に? 本当に死んじゃうのは私だけ!?」
「いや、国宝級の貴重なアイテムだから、使って帰って来たら処刑って言われてるから」
「でも、一回は生き返れるんだからいいでしょう!」
フレデリック王太子と私の会話を見て、コンラートが笑う。
「何だ、ドラゴンはすぐ倒せるって言ってたのに」
「ドラゴンを倒すのと、橋から物理的に落ちるのは違うわよ!」
風の攻撃魔法を地面に当てたら、クッションになるかしら?
「まあ、そんなに怖いなら、俺に可愛くお願いすればちゃんと守ってやるから、安心しろ」
「そんな信用出来ないものに、お願いして、死んだら頼んだだけ損だわ」
「あのな……とりあえずお願いしとけよ」
ベーっと、私が舌をだした時、ブワッと空に舞う影があった。
「——っ!」
それは、ドラゴン——。
『何だ、ドラゴンはすぐ倒せるって言ってたのに』
言った、言ったけど……。
驚いて、一歩下がったら、地面が無かった。
橋の下に落下するスピードに、右手に溜まる『ドラゴンブレイカー』の青い光の狙いが定まらない。
そのまま、ドラゴンが見えなくなった。
私の右手の中の魔法も風に揉まれて消えて行く。
——このまま、谷底に激突して死ねんだわ……。
「……クララっ!」
落ちて行く風の轟音の中で——。
コンラートの顔が見えて、落ちながら私に必死に手を伸ばしてる。
私も手を伸ばす——。
コンラートか、橋の上のフレデリック王太子が魔法を使ったらしく、私はキラキラと光に包まれた。
時間の進みを遅くする魔法で、私の時間が遅くなっている隙にコンラートが私に追いついて抱きしめた。
でも、助かった訳じゃない。
一緒に落ちてるだけ——っ!
「いやーッ!!」
ドンッ!!!
パラパラパラッ
橋の上から落ちて、地面に激突したと思ったら、地面が崩落した。
「痛いっ!」
けど、怪我はない。
コンラートが私を空中で抱きしめた時には、時間の進みを遅くする魔法がかかっていて、落ちながら、風の魔法を使った。
突風が下から吹いて来て、コンラートが私のファーのモコモコドレスに着いてるマントの先を私を腕の間に挟みながら左右に広げると、下からの空気を含んでフワッと丸く広がる。
私は、ガクッと落下速度の緩む瞬間に驚いてコンラートの首にしがみつく。
「ちゃんと掴まってろよ」
偉そうだ。
上半身のバランスが取れると、フワッとスカートも丸く広がって、落下の速度が緩くなり。
「……もう大丈夫みたいだから、離していいわよコンラート」
「俺が死ぬ!」
「城の城壁くらいの高さだし、平気でしょう? 死んでも生き返れるんだし」
「秘宝を使って帰ったら、処刑されるんだって!」
時間の進みを遅くする魔法で話をする余裕もあったんだけど、急に魔法が切れた。
マントとスカートの抵抗で落下速度はゆっくりだけど、魔法でゆっくりだった分、すごく早く感じる。
そして、すぐ下に地面があった——。
「嫌ー、ぶつかるーー!!」
コンラートは着地のバランスを取ろうとするけど、私がしがみついて、着地の一瞬にバランスを崩す。
怪我をしそうな転び方だったのに、そこが抜けて、更に落ちる——!
でも、おかげでダメージが軽減されて、怪我もなく着地できた
コンラートを下に私が覆い被さってる状態を着地と呼べるなら、だけど。
ギュッとコンラートが私の背中の上に手を置いて抱きしめる。
「俺のおかげだな」
そう言ってまたキスする。
「私のファーのドレスのおかげでしょう。水着だったら死んでたわ」
ギュッとコンラートの脇の下をつねった。
「痛いって!」




